第2話 勇者とエルフ騎士

 王宮内で、勇者が唖然としているな。彼女、聖鎧を着込んでいるけど、大柄ではないし、とても魅力的体つき何だよね。見事な金髪で、勇者と言われないと愛狂わしい若い美女さんなんだよね。脇で幼馴染みで、親友の賢者が困っているのにも、気が付かないでいる。まあ、そうだろうね。ロレンツィオが、騎士団長相手に、熱心に剣の練習をしてるんだからね、汗を流して。

「いや~、殿下には三本のうち1本は、取られるようになりましたな。」

などと逞しい髭面の騎士団長が笑えば、

「1本、取らせるのがやりやすくなったということだろう?それに、私が、1本とれる騎士団長では、心もとないからな。」

と笑って答える。

「殿下には、かないませんなあ。では、もう1本。」

「よし、分かった。」

 そんな姿は、信じられないもんね、彼女には。彼女が前世で知っているロレンツィオは、いつも女達を侍らし、大したこと腕ではないのに、剣の腕を自慢していた奴で、挙げ句の果ては魔王討伐した彼女をだまし、陵辱して殺した、ひどい屑野郎だもんね。まあ、時間逆行、蘇りも、彼女が信じているだけなんだけどね。

「コホン。」

 ロレンツィオの側近筆頭のマキャベリが咳払いした、なかなか剣の練習が終わらないから、痺れを切らしたんだ。少し神経質そうな容貌、実際はそんなことないのだけどね、の有能な側近、行政官、外交官なんだよ、彼は。

「殿下。勇者サルヴィア様が、お待ちになっています。」

と彼にロレンツィオが気が付くと、すかさず頭を下げて言った。

「おー、勇者様。これは、気がつかなかったとはいえ、大変失礼しました。おお、賢者様も…。よくいらっしゃいました。」

と礼儀正しく会釈した、ロレンツィオに賢者様は大慌てで恐縮しきり、当たりまえだね、大国の実際の主に頭を下げさせているのだから。しかも、彼らが突然訪問したんだからね。隣の勇者サルヴィアはというと、不機嫌そうな顔で軽く頭を下げただけだから、賢者様は狼狽えるわ、軽く睨むやらだね。そんなことを、彼女は全く無視して、

「今日は、今後の魔王討伐について、ご相談があるのです。少しの時間でもよろしいので、ご無礼は重々理解してはおりますが、どうか…。」

 丁寧には言っているが、有無を言わせない迫力があった。

「勇者様がそう言われのであれば…。」

 王太子様、困っている、困っている。もう直ぐ、時間なんだよね。予定が、入っていんだもんね。そういう時にも、マキャベリ君は、知恵を働かせてくれるんだよ。

「殿下。かえって都合が良いのではありませんか?勇者様と賢者様が同席された方がかえって…。」

と耳元で囁く、そして、そのメリットを伝える、簡潔に、ロレンツィオなら分かると信じて。

 ロレンツィオは、ニッコリ笑って、彼の助言に従った。

 30分後、勇者サルヴィアは入ってきたハイエルフの女王と護衛の女騎士を見て、ハイエルフの女騎士マリエッタは主のベアトリーチェに従って、案内された部屋に入って、勇者サルヴィアが視線に入ると、“屑男、ロレンツィオが正体を現した、妾を堂々と同席させている、やはり。”とはお二人とも。

「ベアトリーチェ様。初対面でしょうが、耳にされているかと思いますが、こちらにおられるのは、勇者サルヴィア様とそのパーティーの大賢者様ミケランジェロ殿です。」

 続けて、

「こちらは、西ハイエルフ王国女王ベアトリーチェ陛下。そして、同国の高名な聖騎士、マリエッタ殿です。」

とロレンツィオが紹介、でも、大賢者などと言われたミケランジェロは動揺しちゃって、それでも、ベアトリーチェに礼儀正しく挨拶するところはさすが、ベアトリーチェも、女王然としないで、気さくに、それでいて、威厳をもって、相手に敬意を払う姿勢で返すところは好感が持てるね。一方、サルヴィアちゃんとマリエッタちゃんは、互いに胡散臭そうに睨みながら頭を下げただけ、親友と主人に睨まれて、ため息をつかせているのが分からないのかな…分からないんだよね、やっぱり。

 皆を座らせて、お茶や菓子等をだして、ロレンツィオは、和やかに、

「ベアトリーチェ陛下、勇者様には、失礼申し上げますが、今日の私と陛下の証人になってもらおうとうと思ったのです。如何でしょうか?」

 おうおう、なかなか上手く切り出したね、ロレンツィオ君。

「?」

 さすがに、4人とも唖然としたね。

「私は異論は、ありません。かえって、私からもお願いしたいところですわ。」

 さすがは、女王陛下、理解が早いね、けっこう政治家だね、このハイエルフさんは若いのに。

「勇者様も、異論はないと思います。」

 賢者様もさすがだなあ。まだ理解しかねて、その上、むっつりしている勇者様に、ここは黙って僕の言った通りに、と渋々でも同意せてら。

 ロレンツィオ君とベアトリーチェちゃんの会談が始まった。

 話は、大国と小国間だけど国のトップ同士の外交交渉。まあ、ほとんどマキャベリ君がまとめているわけだけど、やはり最後はトップ会談が必要なわけなんだよね。

 1つは国境紛争、もう一つは貿易上のトラブル、最後には同盟条約の締結だった。マリエッタにとっては、ロレンツィオとその人間の一方的横暴なんだけどね。実際は、トスカーナ王国の人間達の非もあるけど、西ハイエルフ王国側の非もあるんだよね。人間達よりも、トスカーナ王国側のエルフ族、ダークエルフ族、極めて少数だけどハイエルフ族、ハーフエルフ達、さらにはオーク他からの訴え、陳情もあるんだ。両王国間の人間の紛争もあったりしてね。西ハイエルフ王国とは言っても、ハイエルフだけではないんだよね、国民構成は。他のエルフ族も、ハーフエルフ、さらにはダークエルフ族もいるし、人間達、小さいながらも都市すらあるんだ。人間とエルフの対立も多いけど、ハイエルフと他のエルフ族、ハイエルフ以外のエルフ族間の争いの方がはるかに多いとに言われているし、人間との提携が西ハイエルフ王国の要の1つなんだよね。

 ロレンツィオとベアトリーチェは、相手側の非を取り上げながらも、良好な関係を進めたい、対立を解消したい、同盟の締結に同意しながらも、自分により有利な立場を要求する、そんなやり取りを和やかに続けたんだよね。

 まあ、これからマキャベリ達が交渉を重ねる、その外交戦、交渉により進んでいくんだけどね。

 それでも、2人は互いに良好な関係を望んでいる、交渉を前向きに進めることを考えていることを了解しあったわけなんだよね。これで、マキャベリ達の交渉に弾みがつくことになるんだよね。賢者様はわかったようだけど、勇者様、サルヴィアちゃんとハイエルフ剣士のマリエッタちゃんには、全くわかっていないんだよね。

“売女…あの半裸の女達はどうしたんだ?”ばかりなんだね、こいつらの考えていることは。そんなのいないって、ってわからないんだよね。

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