第33話 外伝A② 容赦しませんから

「アリー!」

と叫びながら、泣いているのは、オルシーナちゃん。その姿に、ライバルが消えたと同時に同士がいなくなった…からと色々と頭の中を交差する魔王だったが、彼女を、ロレンツィオに仕えるハイエルフ女聖騎士に惨殺される姿を見てしまった、を慰めるためには、抱きしめるしかなかった。

「アリー、アリの仇をうってー!・・・いえ、私がうってやるー、ロレンツィオを殺してやる、私が八つ裂きにしてやるー!」

 ロレンツィオが先頭になって、彼と数名の女達が突然現れて、沿岸を荒らしまわっていた海賊船団に乗り込んで、その大船団を壊滅し、捕らえられていたイスタンブル帝国の女騎士を救い、応援に現れた魔王とその部下達を撃退、大海賊アリは首を斬られ、オルシーナのいる船にその首が投げ入れられた。

 泣きわめくオルシーナちゃんを抱きしめて、退却するしか海の魔王には選択の余地はなかった。ロレンツィオは、何故か追っては来なかった。船がなかったからなんだけど・・・いや、クロランドちゃんを早く、介抱してあげたいとロレンツィオ君が思ったわけなんだけどね。


「お前達は、使えるから赦した。あくまでも、我が妻達の代わりに愛でてやるだけだ。そのことを忘れるな。」

 ロレンツィオ君は、少し残酷そうな表情で、マリエッタちゃん、サルヴィアちゃん、トルナちゃん、ベッドの上でぐったりしていた、を見下ろしていた。彼の傍らには、夜着をはおったベアトリーチェちゃん、ラウラちゃん、クロランドちゃんが寄り添って立っていた。

 彼女達の方を見たロレンツィオ君の顔はうって変わって、穏やかな、優しい表情になっていた。三人は恥ずかしそうに下を向いていたけど、彼は彼女らを別室に連れて行った。四人は、愛のある営みを始めるために。

 ロレンツィオ君は酷いSだね。まあ、彼女達のしでかしたことにに比べれば、寛大な措置だよね、衣食住等の待遇はちゃんとしているし、暴力も加えていない。まあ、ここまでいった世界では、彼女らにどんなに同情しても、これ以上のことはできなかったんだ。彼女らは、彼に、こういう形で愛でられても、体は喜んで反応しているんだ。彼に与えたチート能力の一つのせいではあるけど。


 王都を奪還したロレンツィオが座る玉座の前に、将校、行政官その他を従えて、跪いているのはボルジア兄妹、チューザレ君とルクレチアちゃん、そして、マキャベリ君、その後ろにギケイ君とレオナルド君。

 彼の後ろには、寄りそうように、ベアトリーチェちゃん、ラウラ・ダールマイアーちゃん、クロランドちゃんが、伴侶です、と主張するように立っていた。“この人の妻として、こうして並び立つコトを何でも…。”と大感激。少しは、さらに後ろに隠れるように控えている3人に対して、嗜虐的な喜びも浮かべていた。まあ、これはしかたがないと思うよ。

 ロレンツィオ君は、ここまで国を解放した経緯と功労のあった者達について、まず、長々と述べた後、完全な国、トスカーナ王国を完全回復した後、議会を招集し、国の体制を決める旨述べた。それまでの間は、彼が独裁権を握ること、これまでトスカーナ王国に侵攻或いは反乱軍と結託した諸国との関係は、友好的な関係を持ちたい旨語った。各国の使節は、ほっとするのだった、それを聞いて。


「私は、お兄様と違って、あのとき時は、もうダメだと思ってしまいましたわ。」

 ルクレチアちゃんは、式典が終わると、そんなことを呟いた。

“それは俺も同じだった。”

 あの時、立て籠もっていた砦に外国軍の大軍が包囲していた。もはや絶体絶命の状況だった。

「最早これまでか。ルクレチア、お前を逃がさなければならなかったのに・・・、どうしても、俺は、お前を、離せなかった・・・。」

 それでもチューザレ君は、剣を握って戦う気を失ってはいなかった。

「兄上。その言葉をそっくりそのままお返ししますわ。」

 ルクレチアも、剣を握り締めていた。二人は、お互いに顔を見合わせていた。そして頷いた。迫る足音、複数人、かけてくる。

「策はありますか、お兄様?」

「ないな。」

「全く、肝心な時に。だから、私の助けがいつも必要だったのですよ。」

「お前にはあるか?」

「私もですわ。だから、いつもお兄様に助けていただいてばかりだったんですわ。」

「矛盾しているな。似た者同士だな・・・兄妹だからな。」

 頷くルクレチアを優しく抱きしめるチューザレ。そして、二人は身構えた。ドアが荒々しく開かれた。そして、十数人の兵士達が。

「ボルジア閣下。遅くなりました。」

 小柄な男。その後ろに大柄な男が。ギケイ・ミナモトだった。

「ロレンツィオ様がおいでになられたのです。敵軍は、ロレンツィオ様により壊滅されました。我が国は救われました。」

 彼は叫んで、跪いた。" ロレンツィオ様が?暴徒に虐殺されたはずでは?"と思った瞬間、二人の頭の中からその記憶はひどく曖昧なものに変わったんだ。

「苦労をかけたな。遅くなってすまん。これから、国を救おう。」

 しばらくしてロレンツィオが現れた。平服して、二人は信ずる以外頭の中には、何も浮かばなかった。

 それはギケイも同じだった。ベンケイ達とともに流浪し、刺客達に取り囲まれていた彼の前に、ロレンツィオが現れ、自分と共に国を救おうと言って、半信半疑の彼らを連れて、周囲を一人で制圧するのを見て、従うことしか思いつかなかった。

 ひっそりと隠れるしかなかったマキャヴェリやレオナルド達の前に現れ、連れてきた。


 その日から、一か月も立たないうちに、国内の、外国勢力とつながった反乱は鎮圧、海の魔王は壊滅された。

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