第5話 残りのイベントに向けて②

 派手な服装の長身の若い美人さんが、イライラしながら、豪華なロレンツィオ君の執務室の長椅子に腰をかけている。見事な金髪の気の強そうな、そして、魅力的な肉体だよね。ナルア伯爵令嬢ヴァーナさんだよ。

「お待たせして申し訳なかったね。」

 ロレンツィオ君が頭を下げて謝罪すると、

「淑女を待たせるなど、考えられませんわ。どこぞのお美しい令嬢との約束があったのでしょうかしら?」

 仮にも、もとい、立派な一国の王太子殿下に失礼だぞ。というか、彼女はゲームの悪役令嬢に転生して、悪役令嬢を極めるつもりなのだから、どんな無礼も関係ないんだよね。弱きを助け、強きを挫く、義賊的な心意気、それでは、あまり悪役令嬢とは言えないけどね。

「私にどのような罪をいいわたすのですか?」

“私は、悪役令嬢を極めるのよ。追放?幽閉?身分剥奪?処刑?覚悟はできているわよ。それに、ちゃんと準備できているんだから!最後は、私がざまあしてやるんですからね、糞馬鹿無能変態スケベ王太子殿下様?”ひど~いよ、どこからそんなことを信じるの?誰から聞いたの?まあ、この世界の設定だからね。そもそも悪役令嬢ねえ…。本来どうしようもないわがままで、陰険、贅沢家で…なら分かるけど、人気がでて次々にそのジャンルの作品が出たけど、どこが悪役令嬢?才色兼備でしっかり者で極めて有能、婚約者が馬鹿で、悪女としか言えないヒロイン?に陥れられる悲劇の美女としか言えなくなるんだよね。まあ、この世界のお二人さんも同様なんだけどね。

 彼女の場合は、存在しない乙女ゲームの断罪される悪役令嬢に転生した女主人公が、正義の悪役令嬢?を極めて、彼女を陥れた義理の妹と彼女に寝取られた婚約者とやはり彼女と愛人関係を持っていたロレンツィオに、革命軍を率いて復讐、ついでに救国して、3人を断罪。そして、革命、民主主義のはずなんだけど、夫となったブルゴーニュ大公と国王・女王になっちゃうんだよね、まあ、一応、国民選挙をしているわけだけど。

 だけど、そんな性悪な義理の妹はいないんだよね。ロレンツィオも、彼女の義理の妹とは接点はないんだよね。

 今回の彼女の召喚は、彼女に懲らしめられた貴族や金持ちと彼女に既得権、慣習を無視、否定されて不満を持つ、市民を含む有力者の訴えによるんだよね。後者は、彼女の一方的すぎる正義観、歴史観が衝突したんだけどね。

「不問に帰す、だ。」

「はあ?」

 怖い顔!これじゃあ、婚約者も義理の妹も萎縮しちゃうよね、二人に同情しちゃうよ。

「正確には、半分は訴えてきた連中に非があることが分かった。彼らには捜査が入り、罪に問われることになる。この方では、君を支持する訴えもきているしね。あと半分は、君と話し合うよう指示した。まあ、裁判所に訴える可能性が高いが、国としては介入しないということだ。ちなみに、君の婚約者と妹が、君のために弁明しに来たよ。」

 ロレンツィオとの接点がない、こんな怖いのが婚約者、姉じゃ、善人になっちゃったのかな。確かに、二人は小心な善人なんだよね、同情しあって、互の好意が強まっているけどね。

“ふん!やっぱり結託しているのね!”あ~あ、彼女はこう考えてしまうんだよね。

「私は侯爵令嬢の地位など、執着しませんわ。生まれにより貴賤が決められあることに、何の正当性がありますの?」

 よ~く言ったね~。

「アダムが耕し、イブが機を織った頃、誰がご領主様だったとジョンポールは言った。東方の哲学者、宋は、二千年近く前に、人間はすべて平等であると主張し、それを現す帽子をかぶり、そして平和のために東奔西走した。」

「は?」

 ロレンツィオ君の博学~。

 彼女には、それは理解できないんだよね。この世界の彼女の設定にないからね、そんな知識は。どうする、悪役令嬢様?あれ、言葉が出てこないね?ロレンツィオ君、助けておあげよ。僕の声は、今は聞こえないようになっている…あれ、分かっているかのようにため息なんかついちゃって…以心伝心したかな?

「万民は平等です、と言ったら、民衆が目覚めて立ち上がるというものではないのだよ。」

 諭すようだね、年長者が。本当は、デモクラシーの歴史でも語りたいんだろうけど、ここではトンチンカンになるから止めなよ。

「ふん。何を言われるかと思えば…。もう、ご用がないのであれば、帰えらせていただいてよろしいですか?夜の淑女の外出は危険ですからね。」

 相手の許可も得ずに立ち上がったね。

「誰か、ご令嬢を案内せよ!」

「しばらく、王都を愉しんでいただければ…。」

「堕落した都など興味はありませんわ!」

 足音も高く、いっちゃったね。ロレンツィオ君、ご苦労様、イベントは終わりだね。ん?あれ、予定外だね、これは。

「君は誰だ?」

「私がわからぬか?ロレンツィオ王太子殿?」

 女は、妖しく、かつ不敵に微笑んで、先ほどまでロレンツィオ君の座っていた執務用の椅子に座って、執務用の机に両肘をついて、両手に顎をのせている。頭に二つ角がある他は、黒髪の美人さん、黒ではなく、派手な色の衣服を着ているけど、正に魔族、魔王様、女魔王様だね。どうするロレンツィオ王太子?

「まあ、とにかく、座ってよいかな?え~と、多分魔王様?」

 落ち着いているね、まあ、僕が、囁いてあげたからね。でも、合格点。これからどうする?

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