第22話 同盟成立?

「ともに、世界の人々が笑顔で過ごせる社会を作るため協力していきましょう!」

「はい。とも戦いましょう、その理想のために。まずは、悪逆非道な無能ロレンツィオ打倒のために。」

“ふん。あんな獣人達に操られた馬鹿ブス女が増長して!”“義賊ぶった低能売女ごときが。”そして、“今は、我慢よ!”でハーモニー。

 2人の美人が、心の中では引き攣りながらも、友愛に満ちあふれた笑顔を浮かべて、言葉とは半ば相反する思いを描きながら、手を握り合っていた。女は恐ろしいね、ロレンツィオ君も大変だ、本当に。

 イッポリートちゃんとヴァーナちゃんだよ~。トスカーナ王国東西に拠点を持った2人は、理想社会の実現のため、今、同盟を結んだんだ。でもね、イッポリートちゃん、みんなと会議をして決めているから、民主主義ではないんだよ。ヴァーナちゃんも、民衆が選挙で国王を選ぶから、民主主義と言うわけではないんだよ。部下との、臣下と相談しているだけだし、国王様を選んだ代表者達は、誰かさんの臣下達なんだよ。

 それを指摘した2人の執事君、侍女ちゃんは、彼女が知らないうちに、袋だたきにされ山中に捨てられるか、奴隷に売り飛ばされたから、彼女達は分からなかったんだ。ちなみに、僕がちゃんとロレンツィオ君に伝えて、彼の指示で助けられているから大丈夫だけどね。

 東西で同時挙兵、馳せ参じる農民、市民、更に兵士達、更に東西ゴート神聖帝国軍、2人は義勇軍、心の中というか、前世知識、と信じるところからは、平和を求めるボランティア、の支援で、トスカーナ王国軍を破ると考えているんだ。

 それは、彼女達の名誉のために言えば、彼女達だけの考えではないんだ。けど、両国はそれ程安易には考えていないんだよね。東ゴート神聖帝国は、イスダブル帝国の侵攻に乗じて、その同盟国であるトスカーナ王国が、侵攻、あるいは形ばかりでも陽動してくるのを防げれば、それでいいと考えていたんだ。西ゴート神聖帝国はというと、トスカーナ王国との国境問題を自分に有利な形で解決したい、行動を牽制したいと言う程度なんだ。

 そして、2人の盟友?恋人?というと、自分の勢力拡大しか頭にないんだよ~。民主主義、民衆の平安、全ての種族の平等共存は、考えていないとは言えないけど、比重は、小さいんだよね。

「まずは、盗賊獣人どもを全力で叩き潰す。」

 その方針で、更に秘かに十分以上の下準備をしていた、ロレンツィオ君は、イスタンブル帝国軍の侵攻と合わせるように軍を動かした、陣頭指揮で、もちろん、あの3人ちゃんは傍らにいるよ。

 獣人、狼族ビアニーア族は、それでも危機感をそれ程感じてはいなかった。彼らの山城群は、かつて大軍の侵攻を何度も耐え忍んだし、周囲への略奪では諸侯の軍を翻弄していたからだった。もちろん、山城の補強や武器の調達、罠の設置などを行ってはいた、一応ね。

「専制君主の暴虐の軍を返り討ちにしてやりましょう!」

 利用しようとして、実際利用しているイッポリートちゃんの言葉に半ば冷笑を浮かべながらも、酔ってしまってもいた、本当に自分達が全ての存在のために戦う正義の軍だと思い込んでもいた。まあ、哀れだけどね。

「お嬢様。我らの兵は、トスカーナ王国軍の中に、後方におります。ロレンツィオ…が、全軍を投入しようとした瞬間、背後を突くことになっております。その準備は、万全です。」

 イッポリートちゃんは、父バッツィ伯爵からの使者の言葉に満足そうに頷いて、

「袋のネズミなのは、愚かなロレンツィオの方ですわ!」

と誇らしげに宣言しちゃった。

 アラビアーテは、ホッとした表情をみせた。彼は、イッポリートちゃんを、そして、彼女を通して彼女の実家バッツィ伯爵家からの支援を要請し続けていたんだ。バッツィ伯爵は、やり手で伯爵と言いながらも、かなり豊かな財産を築いていたし、進歩派の貴族、有力市民の支持をかなり得ていたから、その支援を得られれば、トスカーナ王国を後方から牽制できる、そして最終的には撃退できると考えていた。彼からは、慎重過ぎると思われるほど時間をかけてだが、色よい返事がきたし、イッポリートの要請があると、武器弾薬、それを調達するための資金が送られてきた。武器弾薬を、アムールガワダム共和国などから調達するものの、トスカーナ王国領内を通ることで、その多くがトスカーナ王国側に没収されてしまった。その中で、バッツィ伯爵が買い付けた分や直接送ってきたものは、少数だが届いていた。ほんの少量だが。ちなみに、アムールガワダム共和国は、運命論派教会国なのだけど、他の教会派はもちろん、イスタンブル帝国などの対立する異教徒国を超えて、魔族にまで軍事物資も輸出しているんだ。同じような、はるかに国の歴史の長いベニス共和国でも、流石に呆れるくらいに。それだけに、ロレンツィオ君が没収した、同国の品物は、つまり武器だけど、即返還するからという条件を提示されたら、喜んでロレンツィオ君に協力したんだ。

「早く、もっと多く、送らせろ!」

 彼はイッポリートちゃんに、つい怒鳴りつけてしまったんだ。

「え?」

 それに、イッポリートちゃんは、怒鳴られた、ということ以上のことが一瞬見えたんだ。でも、何とか耐えてしまったんだ。

 まあ、全て、父上がロレンツィオ君と示し合わせてのことなんだけどね。最小限以下のものを届けて信頼を維持しておく、ということ。

 女が、アラビアーテに、

「首領!ちょっと。」

 イッポリートちゃんは不愉快だったけど黙った。美人で大柄な戦士でもあるけど、少し下品な印象の女なんだけど、そういうことではなく、彼女がアラビアーテの愛人の1人だということが理由~。

 別室に二人っきりになってすぐに、

「サピ村に行った徴発隊が追い返されたんだよ。村の連中、完全武装していたってさ。かなり不味いわよ。」

「あの方面の砦、リパの砦か…。そこからまとまった兵を送らせて…見せしめのために村全部皆殺しにしていいということにするか。」

「それがいいと思うんだけど…。」

「何か問題があるのか?」

「まずは、こっちにいるサピ村出身者を先頭に立ててと思って、集めようとしたら、姿を消していたんだよ。」

「ん…、どういうことだ?計画的ということか?安易な行動は危ういな。リパの砦に増援を送り、準備万全で村を殲滅した方がいいな。その間に、状況を調べさせよう。ん?」

 やにわに抱きついてきた愛人の行動に慌てた。

「あたいは、怖いよ。あのバカ人間ブス女にのせられたんじゃないかって…。」

「お前らしくないな。人間など、なで切りにしてやればいいんだ。」

 彼女を優しく抱きしめると、彼女は甘えるようにすがりついて、尻尾を大きく、振り始めたんだ。あ~あ、この2人の姿をイッポリートちゃんにみせてやりたいよ、本当の2人の姿が見えているんだけどね。

 人間やエルフ、その他を力で人、物を強制徴発しているだけでなく、同族も同様に支配しているんだよね、彼らは。そのことは、ロレンツィオ君もよ~く知っていて、働きかけたら、次々に救いを求めるビアニーア族の村々からの要請が来ていたんだよ。これに慎重に交渉、彼らを先頭に侵攻する準備がととのっていたんだ。

 トスカーナ王国の方が、豊かで、その統治、税金なども軽いからね、当然のことなんだよ。しかも、本当は彼らは仇敵としか、見ていなかったんだから。

 周辺のオーガの村々を占領、というより保護するために、トスカーナ王国軍は進駐していたんだ、しかも秘かに。それが見抜けなかった懲罰隊は、瞬く間に全滅してしまったんだ。そして、そのことでイッポリートちゃんの周辺が動揺する前に、ロレンツィオ君は、全軍の攻撃を命令したんだ。

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