第15話 ハイエルフの騎士は二重スパイ?

 西ハイエルフ王国の議会、部族会議の議場に、女王ベアトリーチェは、その玉座の前に立った。ロレンツィオ君も、かなりの護衛を連れて来訪していた。

「お前達の謀反の企みは、既に分かっておる。諦めるがよい!」

 西ハイエルフ王国の若き女王、ベアトリーチェちゃんは、厳かに、突然一段と高い玉座から、高位の貴族の一角を指さして告げた。

「な、何を根拠に、そのようなことを言われるのですか?天地神明にかけて、そのようなことはありません。」

 一人が、若い有力者の男が落ち着いた足取りで進みでた。自分を支持する者がかなりいるという自信が、彼にはあった。

 イケメン君、そうはいかないんだよ~。

 数人の貴族達が、歩み出てきて、女王様の前で跪いたんだ。

「我々は、彼から謀反に誘われました。これが、彼が我々に寄越した、謀反の成功後に、我々に約束した地位などを記した書状です。」

とパピルスに似たエルフ達の紙の書状を一斉にさしだしたんだ。議場は、一瞬静まり返ったけど、イケメン君は、顔色一つ替えないで、

「そのようなもの、真っ赤な偽物。私達を陥れようとする陰謀です。」

 彼には、自信があったんだ。何せ、その書状にある印には細工がしてあって、偽物と言い張ることが出来るようにしてあったんだ。

「あなたが出す文書には、魔法針の穴が、印の中央にある、と言いたいことのですか?」

 ベアトリーチェちゃんの、みくだすような言葉に、怒る前に驚愕した、逞しいイケメン君は、

「な、なんでそれを?」

と言ってしまったんだ。

「あなたが、ロレンツィオ様の館で、バックで抱いた、喘ぎ声をあげる女の耳元で囁いたことではありませんか?そして、東ハイエルフ王国の王からの手紙を、常に胸ポケットに入れていると言ったでしょう?」

「ま、まさか…!」

 さすがに、ここに来て彼も動揺し始めた。いや、もう狼狽していた。

「全ては、聖騎士マリエッタの内偵結果報告に基づき、全ての証拠、証言も得ることができたのです。」

 ベアトリーチェちゃんは、凛として、格好いいね~。

「あの売女…。大したこともないのに、抱いてやった恩を忘れて、裏切りやがって…。」

 彼は、両手、両膝を床につけて、悪態を呟くしかなかった。

「彼女は、自らの身を、貞操、名誉を犠牲にして、忠義のため、エルフのため、国のために、内偵したのです。裏切りなどしていませんよ。最初からあなた方の仲間ではなかったのです。彼女は二重スパイだったのです。彼女には、苦しいことをさせてしまいました。」

 悲しそうな顔、役者だねー!よ、音羽屋!

 おやおや、まだまだ挫けていないのがいた。後ろから、小柄な自称300歳のロリ、ハイエルフの女が出てきたよ。

「皆、何を狼狽えておる!ちょうどよい、その玉座におる混ざりものの血の入ったダークエルフを引きずり降ろすのだ!潜ませている兵士達をだすのだ。誇り高いハイエルフ達よ、人間に媚を売るダークエルフの女を八つ裂きにするのだ。人間の国の王太子を捕まえるよい機会ぞ!既に、東ハイエルフ王国も進撃を開始しておる。北も、南もじゃ!我らとともに決起するのじゃ~!勝利は我らのものぞ、我らの下に皆、はせ参じるのじゃ!」

 彼らは、イケメンハイエルフ君もだけど、少し奮起したみたいだ。護衛が多いとはいえ、ハイエルフ王国の中、大したことはない…ではないんだよ~。

「あなたは、トスカーナ王国王太子であるロレンツィオ殿下が、それを知っていながら、護衛だけを従えて来られた、私がそれに何も言わなかったと本気で思っているのですか?いまだに?」

「な、何?」

「トスカーナ王国軍、我が国内各都市の軍、王国軍が、既に北、東の国境地帯を固め、南はトスカーナ王国軍とともに東に侵攻している、ということです。あら、今報告が来ましたわ、東も北も大敗し、壊走したと、我が国の大勝利です。それから、…。」

 ベアトリーチェちゃんは、彼らを扇動する役の者達の名前を正確に口にしたんだ。

「ええい!衛兵ども、偽の、汚れた血の女を玉座から引きずり下ろせ!」

 衛兵隊幹部も籠絡していたから、彼らで最後の挽回を図れると思ったのだ。だが、その彼らの前に、その幹部達が縛られて投げ出された。そして、剣、槍、弓を持った衛兵隊と銃を構えたトスカーナ王国軍兵士が前に出てきた。

「もはやこれまで…とはいかんぞ。永遠の命を持つ、真のハイエルフの力を…う、何故だ、魔法が中和?ぐ…な…う…誰…お、お前は…う、裏切り者!」

 必殺の攻撃魔法が効力が中和?されて狼狽えた、ロリ老エルフの後ろから剣を刺し貫らぬいたのは、聖騎士のマリエッタちゃん。そして、唖然とする周囲を、またたくまに斬り倒してしまったんだ。そして、小銃の一斉射撃に、矢や魔法に、反乱者は倒れるか、土下座して泣いて降伏するしかなかったんだ。

 首謀者をはじめ、関係者を引き立てるように、ベアトリーチェちゃんは命じたけれど、同時に首謀者とその一族以外には寛大な措置をとると宣言?したんだ。

 マリエッタちゃんは、無言で、無表情で女王陛下の前に跪いた後、とぼとぼと奥にいるロレンツィオ君のところに、主に従って行った。。

「彼女のことをよろしくお願いします、聖騎士として。彼女は、国のために、純潔をも捨てた愛国者ですから。」

 ベアトリーチェちゃんは、泣きそうな顔で、そう言うと頭を下げた。

「もちろんです。」

と言って、彼女を抱き寄せたんだ。マリエッタちゃんは、なされるままに彼の肩に頭をのせた、まるで甘えているように。

 前日に、マリエッタちゃんは、ロレンツィオ君とベアトリーチェちゃんに救われたんだよ。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る