第14話 アリ君さようなら…それから

「こ、この俺が、この大海賊の、このアリ様が…。」

と捕らえられていたいたアリ君は、屈辱感でどうしようもなく、怒鳴りまくっていた。そのアリ君だけど、それでも、これからの巻き返しをどうするかで心乱れていたんだよ、これからのことを考えて。

 実質的な総大将である、ベニス共和国海軍大将さんは、身代金を取って、イスタンブル帝国に送り返そうと思っていたんだ、それは必ずしもおかしなことではなく、むしろそちらの方が普通だったんだ。でも、チューザレ君はこの点について、全く彼の考えを受け入れなかったんだ。即縛り首、死体を丁重にイスタンブル帝国に送還する、スレイマン大帝の海軍大将を騙る海賊として、を要求して、一歩も引かなかった。困って、妹で副官、行政官であるルクレチアちゃんに相談したんだけど、

「トスカーナ王国王太子殿下ロレンツィオ様は、王家の親戚筋に対する極めて無礼な振る舞いとスレイマン大帝の海軍大将を騙る者に例えようもない怒りを感じておられるのです。」

「しかし、…。」

「一切妥協の余地はありませんよ。」

と手厳しく、ルクレチアちゃんに言われてしまったんだ。それでも、チューザレ君に再度、相談したんだけど、

「スレイマン大帝陛下は、海軍大将アリとして丁重に埋葬するだろうが、あくまで送還された遺体については言及しないさ。」

と笑って返され、諦めたんだよ。

「この俺が、こんな青二才に!」

 縛り首直前にアリは、それを見届ける責任者となって、その場にいたギケイ君に怒鳴ったけど、彼は冷静に、落ち着いた声で、

「これが戦場の、戦いの常です、アリ殿。」

と頭を下げた、ギケイ君でした。叫び声とともに、一代の大海賊アリ君の魂は天空を超えて消えていったんだ。

 ギケイは、冷酷にアリを帆柱に吊してしまったが、彼の魂が天空に登ってしまい、空しくなった体を降ろすところからは、ひたすら丁重に扱った。彼の遺体を運ぶ船を、イスタンブル帝国の船に引き渡すまでの護衛を、ギケイはつつがなく務めた。

 丁重に引き渡しながら、

「スレイマン大帝の海軍大将を騙った者の遺体を、大帝陛下に引き渡し申し上げます!」

とギケイは、大声でイスタンブル帝国の使者に伝えた。

「確かに受け取りました。」

 使者は、それだけを言って、遺体を引き取った。スレイマン大帝は、自分の海軍大将のアリとして、丁重に埋葬したけど、それ以上は何もしなかった。

 チューザレは、しばらく現地にとどまり、後処理にかけずり回った。オルシーナちゃんの行方を必死に捜したけれど、彼女の乗った船が魔族に奪い去られたと言うことしか分からなかったんだ。彼女に反旗を翻したというか、捕まえて人質にしようとした、アリの愛人であり、片腕だった女海賊、彼女は魔族の襲撃から何とか着の身着のまま、単身海に飛び込み逃れ、ギケイの船に拾われ、捕まって、白状させられたというわけ。

 全てを終えて帰国して、ロレンツィオ君に報告したチューザレ君は、オルシーナちゃんの確保の失敗は問われることなく、功績を賞されたんだ。ギケイ君も、彼の下での活躍を褒められたんだ。

 その頃、オルシーナちゃんは一緒に捕まった、元侍女と元執事から、彼らが彼女から引き離された経緯を詳しく説明することができたんだ。

「あ、アリがそんな、そんなことを…。ご、ごめんなさい、本当にごめんなさい。」

と号泣したんだよ。 

 でもね、それがショックになって、魔王の求婚にそのままついていってしまったんだ、これが。

「ロレンツィオ様は、全てを予想されている、と怖くなりますわ。」

 これは、ルクレチアちゃん。

「特別な情報網を持っておられるのだろう。そして、それを的確に分析できるお方なのだ。それだけのことだ。」

 これはチューザレ君ね。

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