第13話 海賊退治③

 アリは、度々奇襲攻撃や陽動攻撃をしかけてきたギケイの小艦隊に、またまたかき乱されることを避けるため、周辺に警戒する船を十分配置していた。しかし、ギケイは姿を現さなかった。

「さすがに怖じ気づいたか?」

と満足そうに、全軍、全海賊の頭を集めた作戦会議の最中に呟いたアリ君は、そのすぐ後に青ざめることになったんだ。

 参加している海賊の頭目の一人の根拠地が襲われて、停泊していた船が炎上しただけでなく、陸上の倉庫、港湾施設はもとより、彼の館も含めた町全てが炎上、彼の妻達、子供たちの行方は不明、留守を守る海賊達の死者多数という状況となった。その海賊の頭目が慌てただけでない。みんな浮き足立って、アリのもとから離脱しようとし始めたんだ。そりゃ本拠地が潰滅されたら、元も子もなくなるからね。

「ここで動揺しては、相手の策にのることよ!ここはどっしり構えて、勝利すること。後から、しっかりと二倍、三倍に報復させればいいのよ!」

と美味しいお菓子を用意して説得するオルシーナちゃんが動揺を治めちゃった。アリ君は、感謝感激、その夜は、いつも以上にハッスルして、オルシーナちゃんに喘ぎ声をださせまくったんだ。きっちり、ロレンツィオ君に教えておくね。

 でも、この動揺は静に影響していたし、後続して加わる船、戦力がなくなることになったから、幾分なりとも戦力の低下になったんだ。

 そのギケイの旗を掲げた小艦隊が、彼らの前に現れたんだ。

「奴を、勝利な前に、まず血祭りに上げろ!」

 アリは叫んだが、しっかり全体の決戦兵力に影響しない数だけ、それに向けたんだ。でも、それはギケイ君の艦隊ではなくてね、操艦術に富んだジェノの航海者が乗り込んだ船なんだよ。みるみる離され、翻弄されている。

 と、今度は反対側に出現。今度は本物。大砲を撃ちながら、距離を保とうと航行。砲弾の被害を無視して接近、接舷戦、乗り込んで、斬り込みを図ろうと、それを今か今かと焦る船長の耳元で、

「もしかして、私をお捜しか?」

 次の瞬間、彼の体から血が噴き出していた。ギケイが、いつの間にかいたんだ。

「へ?」

 船長の首が飛んだと、護衛や愛人達、幹部が気がついた時にはには、自分の体から血が噴き出していた…ああ戦闘力のない女性を…ああ、魔道士だったね、その女達は…仕方がないか。一人の魔道士の男が攻撃魔法の詠唱を素早く口にしたけど、ギケイ君のはるかに威力の劣る攻撃魔法に仰け反って倒れちゃった。

 こうやって戦力の削られたアリ君の海賊連合艦隊は、レオナルド君の大砲を多数装備したトスカーナ王国艦隊を先頭にした、名目チューザレ率いる連合艦隊と砲戦に突入、次第に圧倒されていった。レオナルド君の大砲の威力が大きいね。時代を超えた…ではないけど、あくまで比較的ということだけどね。石弓も、魔法攻撃用の魔石も、焼夷弾も、レオナルド君の作品だけど、こちらも大々活躍だよ~!こちらも圧倒的に…ではなく、比較して優れているというところだけどね。

 オルシーナちゃんが大砲、大砲と言っていたから、アリもいつも以上に大砲を載せていたし、操船術だって、海賊達も中々のもの。決して一方的に、やられていたわけではないけどね。激戦もあったし、トスカーナ王国を中心とした連合艦隊にもかなりの損害があった。いまいち劣るトスカーナ王国軍の艦隊に、大砲でとことん叩かれながらも、他の国の艦隊からの砲撃で大きな損害を受けながらも、窮鼠猫を噛むではなく、起死回生をかけて、損害をものともせず、接近、接舷に成功、斬り込んだのはさすがだったよ。そして、よく戦ったよ。でも、そっちの斬りあい、銃の射撃などは慣れない足場に苦労しながらも、彼ら、騎士団の方が一段、二段も上手、その上連携も上手く、海賊達を次々になぎ倒し、射殺していった。アリ君の陣頭指揮で奮闘した、よく戦った、けど短時間で制圧されてしまった。そして、アリは、見事に捕縛されちゃった。それで、海賊連合艦隊は、総崩れ、操船術に優れたジェノやベニスの艦隊に追撃され、次々捕捉、炎上、捕獲される船が続出。

「みんな!アリ様を助けるわよ!」

とオルシーナちゃんが叫んだ時、

「姐さん…。」

 いつも護衛のように、彼女のそばにいることの多い海賊が、苦しそうに倒れていった。

「増長するな、愛人の分際で!お前を縛り付けて、人質にしてアリ様を助けるんだよ!」

 配下の海賊達を引き連れた、女海賊、アリの片腕として勇名をはせている、彼の愛人と噂のあった女海賊が叫ぶように言ったんだ。唖然としているオルシーナちゃんは、たちまち屈強な海賊達に押さえ込まれちゃった。

「尻の青い小娘が!お前なんか、一時の慰みものだったんだよ!」

 彼女は、押さえ込まれたオルシーナちゃんの顔を、足蹴にしちゃった。ダメだよ~、きれいな顔を傷つけないでよ。

「さあ、引っ立てな!」

 屈強な男達女達が、嗜虐的な笑みを浮かべながら、縄をかけて引きたてていこうとした、その時、「お嬢様を離せ!」

「お嬢様に汚い手で触るな!」

と聞き覚えのある声が、オルシーナちゃんの耳に入ったんだよ。そして、二つの陰、銃声。

「あ、あなた方は?国に帰ったのではなかったの?私を置き去りにして…。」

「ち、違います!あのアリによって、奴隷に売り飛ばされたのです、私は。彼は、ボロボロにされ川に捨てられて…。」

「え?」

「話は後です。今は、ここを切り抜けましょう!お嬢様のために、命を捨てて、今度こそ、お守りします。」

「…、ええ、そうね、そうよね。ここで死ぬもんですか!ぶ、武器はない?」

「ええ、ここに。」

 元彼女付き執事が、彼女の愛用の剣と短銃を手渡した。

「ありがとう…。い、行くわよ!」

 オルシーナちゃん、起つ、だね。婚約破棄後に備えての彼女の準備は、武術面もちゃんとあったんだよね。彼女の剣や銃の腕前はかなりなものなんだ。あっという間に脱出。こうなると、船の中の海賊達の中には、彼女の世話になり、姉御視していた者も多いし、かの女海賊ちゃんの直接の部下ではないから、オルシーナちゃん達が奮戦していると、そちらにつくものも続出しちゃった。船内は、両派に二分、オルシーナちゃん派に少数派だったけど、オルシーナちゃんは強い強い、決死の二人もそれに準じるから3人は、快進撃状態になった。その時、この船に異変が起こったんだよね。

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