第16話 救われた第一号ヒロイン

 ハイエルフ女聖騎士マリエッタは、主であるベアトリーチェ女王とトスカーナ王国皇太子ロレンツィオ達が、自分の報告だとする情報に基づいてたてる作戦会議を目の当たりにして、唖然としてしまった。その情報の半ばが自分の知っている反乱、王国顛覆計画そのものであり、半ばは自分が知り得ないものだったが、事実だと思えるものばかりだったからなんだ。そいつは、僕が、ロレンツィオ君に正確に教えたんだけどね。計画加担を追求され、裏切っているハイエルフ達もいて、彼らはマリエッタちゃんに、複雑な視線を向けていたんだ。まあ、当然だけど、その視線が、彼女には痛く突き刺さったんだ。

 さらに、彼女のことを、魅力のない筋肉女、色気も可愛げもない、感度も悪く…、果ては捨てる、殺すと愛し、信頼した男の手紙まで見ることになった。

 彼女は、自分が二重スパイをして、体を許し、愛さえも与えた男をはじめとしたエルフ達を破滅に追い込む役割を演じたことになっていることに唖然とした。そしてね、あまりに自分の行動まで正確な情報で自分が本当に二重スパイだったんじゃないか、と頭が混乱してしまったんだ。

 体を与えた、愛した男の卑劣な本心と彼を破滅に追いやる自分が、そしてどちらにせよ体をよごしてしまったことが、ない交ぜになって、“死にたい。”と絶望してしまっていたんだ。

「あなたは、国のために、私への忠義のために、体を、純潔をも犠牲にしたのです。」

と涙を流して、ベアトリーチェ女王は彼女を抱きしめたんだ。

「陛下…でも…でも…私は…。」

と泣くばかりのマリエッタちゃんになっちゃったけど、彼女、何を泣いているのか、自分でもわからなくなっていたんだ。

 とにかく、国のためとはいえ、あの様な形で、本当は彼女はそんなことしていなかったんだけどね、多くのハイエルフ達は陥れた訳だから、彼女に恨みを持つ者は多くいるだろうから、この国にはいられない。彼女は自ら追放され、それをロレンツィオ君がひきとることになったんだ。それが昨日のこと。そして、翌日、彼女は彼の近衛聖騎士マリエッタとして行動し、ベアトリーチェちゃんは、彼女の行動を泣いて説明したんだ、皆の前で。

 それに至るまでに、ベアトリーチェちゃんとロレンツィオ君との間では、その筋書を近臣達と書いていた時、そして、その後も時折悲しい目で見つめ合っただけで、全てを了解しあっていたんだよ、ロレンツィオ君、ベアトリーチェちゃん、よく我慢してくれたね、僕、嬉しいよ。

 そして、その日夜、マリエッタちゃんはロレンツィオ君と一室にいたんだ。

「前世のように、私を陵辱して殺せばいいわ!」

“過去に戻って…行き戻りを…でも運命は変わらないのよ!”神を呪うマリエッタちゃん。この気持ちで、何とか立ち直ったようだね、でも、それ冤罪だからね!それに、そんな前世は存在してないんだから。でも、それで彼女は自分を保っている、曲がりなりにもね。ロレンツィオ君、彼女には悪いけど、そんなものぶっ壊して、彼女を救ってあげて、世界を破壊する運命から。

「ハイエルフの聖騎士マリエッタ殿。まあ、座りたまえ。」

 彼は、まず自分が座って、彼女にも座るように促したんだ。そして、2人の間にあるテーブルの上の小瓶に入った酒を小さな二つのグラスに注いだんだ。きつめの甘いワイン、中世、近世ヨーロッパ風のこの世界では、甘いワインが重宝されていて、辛口こそ…ではなかったんだ。

「君の前世で私に陵辱されるのは、恩あるベアトリーチェ女王陛下と国を、涎を流して、くびれた腰や形のよい尻を振って、見事な乳房を揉まれ、喘ぎ声をあげて、お互いの体液でべとべとになって、君を抱く男に裏切りを約束しなかったからかね?」

「え?」

「前世の君も、不忠者、非愛国者だったのかね?」

「は?…。」

“あなたが、国を滅ぼして…。”そこに何か大きな空白が出来て、過去の高潔な自分があやふやになってしまったんだ。小説の設定って、現実的にはあり得ない一方がひたすら悪だからね、現実世界で考えるとあやふやになってしまうんだ。その為、彼女は今の自分の姿を自覚することしか出来なくなったんだ。力なく椅子に座ると、勧められるままに、あまいワインを口にしたんだ。

「陵辱して、殺して…。」

 やっと言葉が絞りだされるように出てきたんだ、可哀想!

「その、君の前世は私は知らないが、私が関係しているのだろう?やり直さないか?」

 手を差し伸べるロレンツィオ君。その動作、口調、タイミング、そして、彼女は愁然としていて酔いが既に回っている。名演技、悪党、大統領!

“舌を噛み切ってやる。”心の片隅で、そんな念いが微かに浮かんだけど、マリエッタちゃんはロレンツィオ君に抱きしめられ、唇を重ねて、自らも舌を絡ませていたんだ、気がつくと。

 もうこうなると、若い2人は止まらない、あれよあれよという間に2人とも裸になって、お互いの体の感触を感じあい、確かめあい始めたんだ、ベッドの上で。性愛四十八手、九六手というのもあっていろいろだけどね、僕が彼に頭の中にも、体の中にも入れてあるし、マリエッタちゃんの性感帯も、ばっちし叩き込んでいるからね。それに、ロレンツィオ君は、マリエッタちゃんを「抱く」ではなく、彼女と抱き合って、2人で快感を得ようとしているんだ。喘ぎ声をだして、涎を流して、腰を振っていても、今までにない、愛し合っているということを感じたんだ。何度も何度も仰け反って、完全に動けなくなったマリエッタちゃんに、ロレンツィオ君は、

「僕の妻として、僕の聖騎士として、力になってくれ、共に、いつまでも。」

と、まだ収まらない息の中で彼女の耳に囁くと、

「私はあなたのものです。あなたのために、尽くします、戦います。だから、離さないで…。」

と言って、涙ぐんじゃった。ロレンツィオ君、やったね!お~、優しく涙を舐めとってあげて~、!

 「私の分まで、ロレンツィオ殿下に尽くして…大切にされなさい。」

 ベアトリーチェ女王陛下に、別れ際、抱きしめられ、優しい口調で言われ、心に何かが突き刺さる感じがしたものの、誰の目も無くなると、ロレンツィオ君に寄りそっていたんだ。ロレンツィオ君、我慢だよ!“美人で、素晴らしい体で、美味しかったし…悪いことは全くないんだ…。”そ、そうだよ、そう思いなさい。まだ、まだ、これからなんだからね!

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