第17話 勇者を救う

「勇者様!あなたが殺そうとするロレンツィオ殿下は、あなたを前世で陵辱した、ロレンツィオと同じ、無能で、女を手当たり次第陵辱する、屑野郎に見えますか?顔かたちは同じでも、です!」

 ロレンツィオ君の前に、ハイエルフの聖騎士と女魔王様が盾になるように、女勇者様の前に立ち塞がった。“おい、ひどい言われようだな?”“もう少し、言い方がないのか?”ロレンツィオ君とラウラちゃんは、心の中でため息をついちゃった。

「お前ほどの者が…。見損なったぞ、そこの魔王に心を売った屑の売女に成り下がるとは!魔王も、そこをどけ!私は、魔族も亜人も、皆が笑って暮らせる世界を作ろうとしているのだ!あの魔王と、魔王同士、手を携えることができないのか?」

 勇者様、それは違うよ~。ほらほら、魔王ちゃん、言っておやりよ。

「ほお~、その夢の世界を誰と作るつもりだ?いつ、そのようなことを考えついた?あのカエル頭の糞魔王の討伐に向かう前には、ただただ魔王を倒すことしか考えてなかったのではないか?あのカエル頭に、抱かれて、あいつの長い舌で舐められて吹き込まれたか?」

 いかにも馬鹿にするような言い方だね。う~ん、響くことは…効果は…どうかな…どっちもどっちか?

「あの様な淫乱魔王の言葉に騙されてはなりません。魔王様との崇高な使命を思い出して!」

 お~、賢者様、外見は、が後ろから叫んだよ、分からない?勇者ちゃん?分からないか、剣を構え直した。あ、ロレンツィオ君、2人を下げたね。

「勇者様。私を殺す前に、彼の話を聞いてもらいたい。」

「は?」

 彼の後ろから、女騎士達に支えられた賢者様が、現れたんだから、勇者様、サルヴィアちゃんは後ろと前を顔が何度も往復!

「勇者様。あやつは、屑野郎のロレンツィオが用意した偽者!欺かれないで。なんという、卑劣な手を…。このようなことには、頭が働く奴だ。」

 怒り全開に呼びかける、後方の賢者様。頷きかけるサルヴィアちゃんを見て、

「勇者サルヴィア、いや、サルヴィア、幼馴染みである、僕が分からないのか?聖女テレザ、大賢者ヨハンだ!」

はミケランジェロ君。苦しそうだけど、不安そうに、心配そうに見上げる女騎士、振り絞るように声をだしたんだ。

「自分が勇者とは…何を言ってるのか?頭がおかしく…?」

 余裕で勇者様に話しかけた賢者様は、サルヴィアちゃんの目を見開いた顔を見て、驚愕して狼狽えたんだ。

 子供の頃、勇者ごっこをした時、サルヴィアちゃんは大賢者テレザ、勇者ヨハンはミケランジェロ君だったんだ。そのことは、2人の古里で聞き取りすればすぐ分かること。でも、自分の後ろの賢者様はそのことを知らないことに、サルヴィアちゃんは、はっとしたんだ。

「サルヴィア、勇者様。僕は魔王クウドゥの配下に襲われ、危ないところをロレンツィオ殿下から派遣されていた騎士達に助けられたんだ。」

「そうです。でも、瀕死の状態でも、ミケランジェロ様は勇者様のことばかり心配なされておいででした!」

 女騎士も加わったよ。絶体絶命のもう一人の賢者様。魔王様と聖騎士が動いた!流石に、その2人には抗することは出来ない、ああ勇者様は動かない、あっというまに倒されちゃった。そして、すぐに体が変わり始めたんだ。

「うわー!」

 勇者、サルヴィアちゃんは、嗚咽のような声をだすと、その場で膝を床につけて天井を仰いで動かなくなっちゃった。ミケランジェロ君は、そんな彼女を見て涙を流しながらも、体が動かなかったんだ。それを見て、ロレンツィオ君が歩み寄り彼女を優しく抱きしめたんだ。マリエッタちゃんと魔王ラウラちゃんもそれに加わったよ。サルヴィアちゃんは、泣き出した、そして長い間、泣き続けたんだ。

「ゆ、勇者よ!見損なったぞ!我と約束した、魔族も亜人も、皆が笑って暮らせる世界を築くという理想を忘れたのか?」

 魔王タートルが、その甘いマスクを歪ませて、肘から先を失って血が噴き出す片手を、残った手でつかんで痛みを堪えながら、勇者サルヴィアちゃんを罵ったのは、それから10日後のことだった。

 「他の魔族をも喰らい、人間、亜人、他の魔族の領域に侵攻、略奪などを繰り返す、お前達が皆の笑い声を絶やさない世界、など口にすること自体、滑稽だ!」

「こ、この…我の舌と…で喘ぎ、涎を流して喜んだ淫乱女が!」

「う、うるさい!」

 サルヴィアちゃんの渾身の一撃が、炸裂した。

 トスカーナ王国のギケイ率いる軍が加わった女魔王ラウラの軍と勇者サルヴィアを先頭に立って、王太子ロレンツィオが陣頭指揮するトスカーナ王国軍に挟撃されて、魔王タートルの軍はなすすべはなく、タートルの魔王城に総崩れで退却、籠城するも、僅か三日後には勇者を先頭に、その奥まで突入すれることになったんだ。まあ、僕が提供した完璧な情報で、作戦を練っているからだけど。でも、まあ、その時々で巧みに行動することが出来ない側と相手の動きを見て、臨機応変な対応を的確に取れる側、事前の準備の差がありありとでている結果でもあるけどね。

「お、おえー。」

 死んで変わりゆく魔王タートルの姿を見て、改めてサルヴィアちゃんは、気持ちが悪くなり、吐き気をもよおしたんだ。

 そこには、魅力的な文武両道な美丈夫の姿はなく、巨大な、しかも奇っ怪なカエル、カエルが文句言うかもしれない姿しかなかったからなんだ。

 そんな魔王の舌で嘗め、指で撫で、回されて涎を流して、腰を振り、組んずほぐれつして…しれしれと抱かれて、唇を重ねて、舌を絡めていたんだから…。

「私がついていながら…、もっと…。」

「いえ、私達が賢者様を完璧にお守り出来なかったばかりに…。」

と涙ぐむミケランジェロ君と女騎士に、

「賢者様も、お前も罪はない。勇者様や私、国を救ったのだ。」

とロレンツィオ君。

 四天王筆頭を倒し、魔王の前に立った勇者サルヴィアちゃんは、ロレンツィオ君への前世での恨みもあって、魔王タートルの術策にはまったんだ。反対する賢者ミケランジェロ君の言葉を退け、一度は、彼の前から立ち去ったんだけど、その間に彼は魔王タートルの手下に襲われて…、ロレンツィオ君が秘かにつけていた護衛の女騎士達によって瀕死の所を助けられたけど、彼女の前に、前言を撤回して、彼女の背中を押す、ミケランジェロ君を疑うこともなかったんだ。そして、魔王タートルと閨を共にすることに、未来の理想、彼が考えてもしない、と愛、彼が感じてもいないをベッドの上で抱かれながら、語り合った、つもりになっていたんだ。

 そして、運びこまれたベッドの上から、起きあがる気力も出ない状態になっていたんだ。

 

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