第25話 悪女を極めて何が残ったの?
「西ゴート神聖皇帝は、さほど熱心ではないようです、この戦いについては。それほどの兵力を送ろうとはしないかと思います。もちろん、大きな戦果が、予想外の戦果があがれば欲が出るでしょうし、気が変わるでしょうが。」
各地を東奔西走して、外交交渉、情報収集に当たっていたマキァベリは、ロレンツィオ君に報告したのは、ヴァーナちゃん達に向けて、軍を向け、彼女が気が付かないうちに、その目の前の砦に着陣していた時だった。
ところでヴァーナちゃんは、イッポリートちゃん達への援軍を送らなかったわけではないんだよ。まあ、陽動程度の、ゲリラ部隊程度だったけど、それでも、彼女の精鋭、少数の兵力で神出鬼没の活躍を得意とする男とその部隊だった。が、ギケイの軍に、瞬く間に捕捉され、壊滅されてしまった。
「邪魔しないでよ!この魔族が!」
「フン。卑しい海賊女風情が、魔王軍の聖騎士の私に対抗意識など片腹痛いわ!」
「何ですって~。離れなさいよ、私のギケイ様から!」
ギケイの両腕をとってにらみあう2人の女。
「ギケイ様!こちらに向かってくる軍勢がおります。」
巨漢の、少し強面だが、気のいい、かつ、豪壮無双の男が3人の下に歩み寄ってきた。
「兵力は?どのような陣形だ?」
「5隊。先頭に陽動と思われる100人程度。我が軍の後方と右翼に向かう各200人程度。本隊500人程度。最後方に予備隊というか様子見がやはり500人。さらに、旗差物などを持った農民達が数百人。大砲は本隊に二門と予備隊に四門。銃の装備も少ないようです、一割以下ですな。」
その報告に頷いたギケイ君。
「後方の様子見の500を、私が陣頭指揮で叩く。ついでに、農民達の群れに、大砲を撃ち込む。敵軍の攻勢は、陣地にこもって撃退だ。」
そう言うと、すたすた歩き始めた、ギケイ君。
「足手まといにならないでよ!」
「それはこっちのセリフよ!」
と2人が続き、ベンケイさんが後から、苦笑しながら続くんだ。
本隊には、ヴァーナちゃんが。彼女、自ら陣頭指揮で局面打開に出たんだよ。原作知識、前世知識、さらに原作では士気は高まり、大勝利だしね。彼女のために弁明すると、彼女はそんなに安直に考えてはいないけどね。油断して陽動隊に襲いかかったら、本隊と後方、右翼から同時攻撃、優勢を確保したら、すかさず後方の庶民隊が旗差しものを一斉にあげて大軍を装って、相手の動揺を。様子見のつもりの西ゴート神聖帝国からの義勇兵、彼女の感覚ではボランティア軍、も相手が逃げ腰になれば戦いに積極的に加わると考えていたんだ。しかも、慎重に静に進んだつもりなんだけどね。誰も反対はなかったんだよ、彼女が威圧したわけではないよ。
陽動程度の部隊に引っかかってはなかったけど、先制攻撃を一斉に始められたから、まずは成功と彼女だけではなく、皆が思ったんだけど…。
三方からの同時攻撃に対して、次々矢玉、そして攻撃魔法が降りかかり、攻撃はいつの間にかできていた堀、土壁、逆木に阻まれ、効果はないどころか、死負傷者が続出。そうこうしているうちに、後方の予備隊が壊走、農民達が逃げ惑っているという報告がヴァーナちゃん達のもとに。
それでも彼女、兵をまとめて、殿軍を配しつつ、後方に向かって突撃の形で退却、と考えたんだけど、
「ベンケイ。あの2人を援護してやってくれ。狙撃隊を1隊委せる。砲兵、援護射撃だ。ヴァーナ殿を殺さないようにな。」
「閣下。分かりました。奥方様達のことは、お任せ下さい。」
ベンケイ君は、苦笑しながら狙撃隊他を率いて彼の前を去ったんだけど、まあ、あの2人を先頭にした部隊が突入する前に、ヴァーナちゃんの本隊その他は、もう壊走状態。彼女も逃げるので精一杯に鳴っていたんだ。彼女が、何とか逃げおおせたのは、彼女が取り乱していなかったことと、彼女を本当に慕う男女の将兵が少なからずいて、その奮戦があったからなんだ。
その頃、トスカーナ軍本陣では、
「ど、どうか、義姉の命をお助け下さい!」
「ロレンツィオ殿下!元婚約者である私からも、彼女に御慈悲を。」
「全て私が悪いのです!」
と彼女の元婚約者と義妹は、ロレンツィオ君に土下座して、泪ながら懇願したんだよ。
「そ、それに義姉は、欺かれているのです。」
「実際の謀反、反乱の首謀者は別の者です!」
二人の後ろには、瀕死の状態で、奴隷に売られた後保護された彼女の執事君と侍女ちゃんが控えて、二人の言葉に頷いていたんだ。
ヴァーナちゃんが、命からがら根拠地に戻った時には、西ゴート神聖帝国からの援軍は、トスカーナ軍との前衛戦で大敗すると、戦いはこれからとも言えるのに、早々と撤退し始めちゃっていたんだ。ちなみに、彼女の元婚約者君、この戦いで大奮戦、義妹ちゃんも後方支援で大活躍、その功を代償に彼女の助命を願い出ているんだよね。
それでも、ヴァーナちゃんは意気軒昂、山に、野に伏して、ゲリラ的に戦うつもりだったんだ。ただ、彼女のゲリラ戦は少数の兵力で大軍を翻弄するものだけど、たいていの場合は、多数の民衆を盾に、犠牲に、結果として、して成り立つものなんだけどね。
「ロレンツィオを・・・、私が単身乗り込んで、刺し違えを覚悟で・・・殺すわ。あの色ボケ馬鹿王太子なら、喜んで私を傍に近づけるわ。」
と彼女は唐突に言い出した。まあ、ゲリラ戦の前に相手を混乱させることが必要だということで、彼女の頭の中では首尾一貫しているんだけどね。
これには周囲も驚いた。流石に、どういう考えは実はあったとしても、この場で、はいそうですね、なんて言えないもんね。皆、一応止めようとした、当然ね。
「私を捕らえて、助命の願いということで、私を突き出すのです。そうであれば、確認のために私をロレンツィオの前に連れていくでしょう。」
それは君の思い込み、実際にそうなるけどね。
彼女の意志が強い事、現状打開の方法がわからなかったことから、皆は反対を取り下げざるを得なかった。
それから翌々日に、ロレンツィオ君の前に引き出された彼女の気持ちは、"これはどういうこと?""少し、いえ、全然違うわよ!"と泣き叫びたい状態だったんだ。
分厚い猿轡を二重にかまされて、両脚を大股開きできつく縛られて、しかも全裸で、物のような運ばれたんだから。
「全ての黒幕は、この女です。捕縛して、連れてまいりました。」
と宣ったのはブルゴーニュー公の家臣でした。いつの間にか、彼女を連れた降伏の使節と見せかけた一団は、全てブルゴーニュ公の家臣たちになり、彼女は押さえつけられ、そして・・・。ちなみに彼女の盟友のブルゴーニュ公は、彼女の傍を離れないと宣言していたのだけど、いつの間にか姿を消していたんだ。
彼の家臣は、彼が自分の領地で、いつでも反乱軍を壊滅させる準備を整えているとロレンツィオ君に伝えたんだ。"こ、これは、ロレンツィオを油断させるためよね?でも、これじゃ、ぶ、武器無しで、あいつをこ、殺せないじゃない?""あ、あれは、全部、全部夢よね、悪夢よね?"
ロレンツィオ君は、
「大儀であった。公には、追って、お伝えしよう。下がってよい。」
と、大きなため息をついて言ったんだ。
その頃、ブルゴーニュ公は、側近と愛人を連れて、西ゴート神聖帝国に向けて、馬を駆けさせていたんだ。とても、この弁解が通るわけないと思い直したんだね。
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