第10話 ハイエルフ聖騎士の裏切り

 迎えを待つハーレムの女達は、日が長引くと不満が大きくなっていた。彼女達よりも、彼女達の周辺、侍女や使用人、奴隷達が、主人達のことを思うばかりに、不満を口にすることが増えていた。ベネツアからの物資、高級品等が次々きているし、ロレンツィオ君も地元の山、海の幸等を厳選して提供しているんだけど…。クロランドちゃんは、両者の間に立って苦労しきり…。

「陛下のおかげで、妃様方も喜んで気持ちが安らかになりました。感謝しております。」

 口では言いながら、顔が引きつっているよ、いけないなあ。

「いいえ、私なぞ、ほんの些細な気休めをお与えできているだけですわ。」

 ベアトリーチェ西ハイエルフ王国女王様も、せっかくの微笑みが心なしか引きつっているよ、困ったな~。

 彼女らにとっては、高位のハイエルフは珍しいことから、魔法も交え、やはりハイエルフの魔法は優雅だから、ハイエルフのあれこれなどを話して彼女らの憂さ晴らしなどに活躍しているんだ。自分の護衛の聖騎士ちゃんの提供を含めて、お国のためなんだ、目的は、あくまで目的は。

「あ、ロレンツィオ殿下!」

 二人とも、ロレンツィオ君が現れたのを見て、競うように駆け寄ってー!

「クロランド殿が、護衛とはいえ、お側にいると、とてもお似合いの、仲睦ましい恋人のお二人にみせますわ。」

“騎士如きが、恐れ多いわよ!”と心の声が。

「私なぞ、単なる護衛で、お側にいることが多いだけです。それに、陛下と殿下が寄りそわれていると、まるで、お似合いの王太子ご夫妻に見えますよ。」

“亜人が、いい気になって!”

「そんな~、人とハイエルフですから~。」

「私達も、異なる国の者同士ですから。」

“そうなると嬉しい~。キャー、何言ってるの、私~!”

 二人の心は、ハーモニーしてるね。

 あ、こらー、ロレンツィオ君を間に挟んで、こめかみを引きつらせているなー、非ヒロイン二人。ロレンツィオ君も、ロレンツィオ君だぞ、両手に花~、なんて顔をしてー。浮気者、女魔王様の時もそうだったけど、この女たらし、浮気者、三股野郎!

 あー、ロレンツィオ君にベアトリーチェちゃん、聖騎士のマリエッタが、今大変なんだよ。まあ、そのままにしておかなければならないわけだけど。後で、ロレンツィオ君に報告しておくからね。

 マリエッタちゃ~ん!

「や、止めて。こんなところで…。」

「前から、私はお前のことを…。二人で国を救うのだ。だからな…。」

「ま、待て…。わ、私は主である…。」

「王家なぞ、混ざりものの血ではないか?そんな女に、お前ほどの女が、忠義を尽くす必要はない。お前こそ、私の妻として女王に相応しい。」

「あ、ああん、あん…。」

 控え室の片隅で、マリエッタちゃんたら、後ろから抱きすくめるられて、耳元で甘い言葉を囁かれて、鎧の隙間から、見事な、たわわな胸に指を這わされて、もう喘ぎ声を漏らしている~。相手は、ハイエルフの有力貴族、反王家派、反乱側の息子のイケメン君で女王様の高官で、随員の一人。

 ああ、もう…マリエッタちゃんたら、為されるままで、下も脱がされて、見事な、美しい両脚が、お尻が丸見え、あ~あ、顔はもう…ロレンツィオ君に見せてくないな…、でも、後でしっかり見せて聴かせるけどね。こんなところで、協力者や反乱計画を話しちゃって、この男もお調子者だね。これでも、なかなかの切れ者だと自他共に任じているんだけどね。許嫁も、愛人も恋人もいるんだけど…でも、そういう奴だからこそ、お堅いマリエッタちゃんを堕としたんだよね~。

 ロレンツィオ君への恨みも、それと同盟関係強化を進める女王様への不満があるとはいえ、忠義を簡単に捨てちゃうのはどうしてなんだろう?彼女の中の本質は、ハイエルフ特有の傲慢さ、唯一ハイエルフ至上主義が根付いているんだね。彼女の闇か…ロレンツィオ君に陵辱されて、惨殺された前世、存在してないんだけどね、の記憶が膨らませたんだな。

 ロレンツィオ君、そのうち、彼女をしっかり癒してあげてね、勝手だけど。

 ああ、終わった。イケメン君、快感の余韻でぐったりしている彼女をおいて、そそくさと、一応去り際に優しい言葉をかけて、行ってしまった。マリエッタちゃんはノロノロと下をつけて、乱れた衣服や髪を急いで直すと、一応鏡の前で確認…これが、彼に愛された自分の姿だと思って見惚れていない!

 でも、さっと外見も、雰囲気も、たたずまいも、あっという間に、騎士の、武士の心に戻っちゃうのは流石だね。

 さっき組んずほぐれつした相手が、女王追い落としを語り合った相手が、他の女、女王の侍女、もちろんハイエルフの美人ちゃんで自分よりも若い、と親しげに話していても、女王に媚びるような態度を取っているのを見ても、まったく、何も感じてないような態度も流石だね。ロレンツィオ君には、不快な表情を露骨に向けているけど。

「どうだい?ロレンツィオ君?」

 僕の問いに、彼は長椅子に体をなげだして横になった。

「感想を言ってよ。」

 彼は、長い長いため息をついて、

「あの女も、男に抱かれて、幸せそうな顔をするんだな、と思いましたよ。」

 分かるよ、その気持は。でもね、しっかり愛して、幸せにしてあげるのが、君の役目なんだから。おお、顔の表情か変わってきたね。王様の顔だね。

「それで彼らのクーデター、反乱計画は、もうそろそろ始まるわけですね。」

「その通り。彼らの計画はこうだよ。そしてね。」

 僕は、とっておきのことを教えてあげたんだ。

「海賊退治の後、勇者様の件の前、ですね。」

 その通りだよ、ロレンツィオ君。

 翌日、ベアトリーチェ女王ちゃんは、ロレンツィオ君からもらった手紙を読んで、一瞬色を失っちゃった。でも、すぐにその手紙を彼に戻すと、いつもの顔に戻っていた。流石だね、この女王様は、結構悪かもね?ロレンツィオ君が惚れる、彼に惚れるだけあるね。

 彼に別れの挨拶をし終わると、背を向けて歩く彼女に、さっとマリエッタちゃんが、脇に立って歩いていた。流石、いつでも主は私が守る、盾になるって感じだね、本心は別にして…ごめんごめん、今は本心からそう思っているよね。

「さあ、国に戻るわよ。国事がたまっているわね。」

 ふと護衛の聖騎士を見る、彼女の目が一瞬、いつもと違うものになっていたのに、ハイエルフの聖騎士ちゃんは気がつかなかったんだよ。

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