第43話
理由はよくわからないが、自分より年下の女を殺すと気分がすっとした。ざまぁみろ、と強く感じたのだ。そして地獄においてその行為を咎める者はいなかった。
だから、女に火をつけて回るようになったというのが、大罪人である着火魔の主張である。
着火魔は■■人らしい面構えと体格だが、茶色い髪に緑色の目をしていた。ハーフ、ミックス、まぁその辺りなのだろうと同じく大罪人である狂科学者、サイエは結論づけた。
そんなサイエの目の前では、これまた同じく大罪人である連続殺人鬼、ツジと着火魔が殺し合っている。まぁ道理であった。ツジと着火魔の獲物はそこそこかぶっている。女子供、どちらもなるべく年若い方がいい、そしてそんな人物が地獄に落ちてくる確率はとくれば、こうなるのは当然のことだった。
「灼けろ!!」
中距離を保ちながら叫んだ着火魔、の、視線の先が炎上する。大罪人にしては地味な能力だなとはサイエの感想であり、直撃すれば普通に焼け死ぬだろう。が、ツジはお馴染み野生の勘か、本能的な危機察知能力か、炎の及ぶ範囲を見切って着火魔に近づこうとしている。
なお、サイエはどちらにも加勢しない気でいた。というより、どちらに加担しても利がないので手を出さないと決めていた。ツジは勝てば今日、負ければ数日後に文句を言うだろうが、それだけだ。
観察するに、着火魔は直情型のようでいてよくよく考えて行動している。ツジを殺しにかかったのだって、勝てると踏んだからだろう。確かに、接近戦を得意としているツジと、中距離を得意としているらしい着火魔なら、リーチ差で着火魔が有利になる。
とはいえ、と思いを馳せたと同時に銃声、硬質な高音。ツジが拳銃で着火魔の頭を狙ったようだが、不可視の防御壁に阻まれたらしい。またしても炎の柱に襲われたツジは、大きく飛び退きながら苛立たしそうに呻き、拳銃をホルスターへと叩き込んだ。合理的な判断だな、とサイエは緩く頷く。
「とっとと……くたばれ!!」
そこで着火魔の咆哮。噴き上がる炎は竜巻の様相、周辺の空気が乾いていく。熱くて不愉快だな、と思ったサイエは手元で弄んでいたメスを投擲した。再びの硬質な高音、着火魔の喉を狙ったメスはてんで見当違いの方向へと飛んでいく。
それで着火魔の標的が増えた。サイエの方へ奔る炎は、しかし途中で軌道を変える。怒りに支配されていた着火魔の表情が、きょとんとしたものになった。
「……何をした?」
「簡単な科学実験だよ。お前は私の教え子でも何でもないから、教えてはやらないがね」
「センセーやっとカセーしてくれた!!」
「私が不愉快だったからやっただけで別に加勢ではないかな」
さて、とわざとらしく肩を回して着火魔に向き直るサイエ。着火魔は理解できなかった現象を前に、警戒を深めたようだ。よろしい、誰だって未知には恐れを抱くものだ。ギャンギャンと文句を喚くツジの方へメスを一本投げ放ってから、サイエは着火魔を殺すため……いやいや、この人間を解体することで得られるであろう新たな知見に期待して、メスを構えた。
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