第11話
「刃物をな!! 一本の刃物をな!! 両手で逆刃で握り締めて振り下ろしてきてる時点でな!! 明確な殺す意なんよ!! 殺す意と書いて殺意!! 解るか!?」
白衣の怪人が振り下ろしてきた小さな、しかし鋭利なメスを真剣白羽取りにした女は叫んだ。如何にも■■人らしい、黒く美しいストレートヘア。見開かれた瞳は琥珀の輝き。
とはいえ、白衣の怪人もまた典型的な■■人。黒い短髪、鼈甲の眼。ぎりぎりと力を込めて、女の体を傷つけようと奮闘している。何故ならば、この女の両腕が欲しいから。
「君のその目と腕とそれから神経系全般について、是非とも研究したいんだ……そちらこそ解ってくれるだろう……?」
「解るか!! 解らんわ!! 解りたくもない!!
「私は科学者だよ!! 殺人鬼だなんて恐ろしいことを言わないでくれるかな!?」
「
女は、男として名の知れた剣士であった。生前はお家争いだの何だのやんごとなき理由事情その他により女として生きることを許されず、ただただ敵を斬り殺す道具として使われてきた。
とはいえ、どのような理由があれ人殺しは人殺し。順当に地獄へ堕ちてきて、そのことを自覚するまでに三日程。死してようやく自由になったことに気付き、髪を伸ばしながら息をし続けていたら今に至る。
実際、この白衣の怪人については他の罪人から聞いていた。血も涙もない拷問吏、実験と称した殺人劇場を催す狂人、手術用の道具で罪人を蹂躙する暗殺者、等々。そんなに恐ろしい罪人がいるのかそれは怖いな会いたくないな、なんて思ったのが盛大な前振りになってしまったらしい。
「しっ!!」
気合一閃、相手の胴に蹴りを入れて距離を取るも、油断ならない。話半分に聞いていたあれこれは全くもって事実であったし、そうであるならばこの怪人はまだまだ本気ではない。
とはいえ、黙って殺されてやる気などさらさらない。彼女は生き残ることに長けているのだ。そうでなければ、こんな場所には堕ちてきていない。
愛刀があればもう少しやりようもあるが、なければないで。女は、深く鋭く息を吸い込むと、迫る怪人に向かって血霧を吐きつけた。
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