第12話
殴り抜く勢いのまま一回転、軸をずらして二人目を回避、手を緩め、相手の額を狙って突く。ずぱんと音を立てて切り落とされた頭蓋骨とその中身、を、引き抜き振り払いながら逆回転。
完成された動作はその目的が何であれ美しく見えるとはかつて彼を押さえつけていた上官の言葉であったが、なればこそ彼の動きは正しく舞踊である。触れるもの全てを等しく殺す死の舞踏、振るうシャベルの切先は紅玉の連なりを描く筆先だ。
かぁん、と高い音一つ。足下の岩を起点に梃子の原理で跳ね上げられたシャベルが断頭台と化す。高々と打ち上げられた頭とシャベルが落ちる間に、淡々と撃ち放たれた銃弾が六つの柘榴を生んだ。
ホルスターに拳銃が収まるのと彼の左手にシャベルの柄が飛び込んだのは同時。そのまま円舞が再開されれば、次々と屍が増えていく。ここまで、彼の表情は全くの無であった。
「……やれやれ」
大袈裟にシャベルを振るい、落とした血の飛沫が彼の頬を汚した。軍服の袖で無造作に拭うも、猫の髭のように延びるだけ。鏡はなくともそれを察した「
顔つきが幼いせいか、身長が低いせいか、一応は大罪人の末席に連なるヤードを侮り襲いかかってくる罪人たちは後を絶たない。その度にこうして思い知らせてやっているものの、そろそろ抜本的な対策が必要な時期に至っているらしい。
慣れ親しんだ血と硝煙の臭いは、砂嵐に紛れてすぐに消えてしまう。足下の砂を摘まみ上げたヤードは、それを頬の血に擦り付けた。ざりざりと撫で付け、もう一度袖で頬を拭えばそれなりに血が落ちる。
「軍医殿と殺人鬼がいない分、ましと言えばましですが」
シャベルを背中に装備して、不備はないかと身を揺すった。かちゃんと軽い音が響けば万全、死体の群れを置いて歩き出す。赤い空、黒い雲、砂嵐。いつも通りの地獄であった。
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