第17話

「オワーッ!?」

「ちょっ、ちゃんと止めといてくださいよ!?」

「そんなんイうならオマエがやれよな!!」

「おい、こっちは何とかするからそっちは何とかしろ!!」

「一番楽そうなの選んでません!?」


 わーぎゃーと響き渡るのは、怒号と悲鳴と意味をなさぬ絶叫。赤い空に黒い雲、退廃に満ちた地獄の片隅で暴れ回っているのは四人の男だ。

 否、正しく表すなら三対一。連続少女殺人鬼のツジ(無論仮名である)、元帝国軍中佐(概ね中佐殿と呼ばれている)、カーディナル(枢機卿めいた見た目というのがこの仮名の由来だ)という、地獄に棲む者の中でも特に暴力に特化した三人が、それでも拮抗状態にしかなれない一人が、絶叫の主である。

 これでも、最初に比べればマシな状況であった。というのも、この一人が地獄に現れた時は、馬に乗っていたから。まるで西洋画に描かれた将校のような姿をした男は、第一村人(この表現は東洋かぶれのツジが広めたもので、初対面の人間を指してこういうのだとのこと)たる中佐を見た瞬間に発狂した。

 それなりに進んだ文明国を出身とする中佐に、騎兵との戦闘経験はない。槍を構えて突撃してきた男を辛うじて回避した中佐は、近くで殺し合っていたツジとカーディナルを巻き込み、そうして今に至る。


「よくよくカンガえたらさぁ!! オレカンケーなくない!?」

「もう既に彼の敵として認識されてますよ!!」

「お前が来なければそうはならなかったのでは!?」

「困った時は助け合いなさいって教典か何かにありません!?」


 暴れ馬に跨がった凶器を振り回す狂人という悪夢でしかない状況に対し、一番冷静だったのはカーディナルだった。大口径の銃で馬の体を狙い、発砲。落馬した男がそれで死ねば良し、死ななければと構えていた所での絶叫、からの大暴れ。

 技術も何もあったものではない、ただ槍を振り回しているだけなのだが、それこそが危険極まりない。そこそこの質量を持つ金属の塊が、目視こそ可能だが回避は難しい速度で衝突してきたらと考えれば自明であろう。


「イッポーテキなサクシュ!!」

「わぁ難しい言葉を知ってるんですね!!」

「俺が信仰していたらしき宗教では異教徒は殺害一択なんだが!?」

「恐過ぎません!? もうちょっと融和的な方針であってほしい……」


 ずんと突き出された槍の先端が、中佐の片目から脳までを貫通した。そのままの勢いで引き戻された槍には、貫かれた眼球が残っている。その一撃で中佐が完膚なきまでに死んだことを確かめた二人は、くるりと背を向けばらばらに走り出した。

 どちらを追うか、と男が迷っているらしき間に可能な限り距離を取ろうという目論見は、半分成功した。何故ならば、腹を撃たれて死んでいたはずの馬が、のそりと起き出したから。蹄の音は、さてどちらへと向かったか。

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