第16話

「え、医者じゃなかったの?」

「医者ではないかな……」



 白衣着ててメスや注射器を持ってるなら医者では?



 とは、赤い空に黒い雲棚引く倫理観ゆるふわでお馴染み地獄在住のアバター(インターネット上で猛威を振るった詐欺師であり死因はファンから転じたアンチによる滅多刺しだった)曰く。彼にとって白衣を着てたらそれは医者だった。

 対して、生前より地獄めいていた狂科学者サイエは困惑するばかりである。白衣を着ているから医者だというのは、帽子をかぶっているなら警官であろうというくらいの暴論だ。

 さて、困った顔をしたまま向かい合う二人が何故今に至るのかといえば、アバターの腰が死んでしまったがためである。無論比喩表現ではあるのだが、ある日寝て起きたアバターの腰から下がとんでもないことになっていた。

 腰から尻、太股の半ばまでを襲う鈍痛。じっとしていればそうでもないが、動けばぐぢぐぢと訴える。廃墟に散らばる廃材を集めて誂えたベッドが悪かったとは思えない。これが悪いとすればとっくの昔に悶絶していただろう。

 しかして、何を思えど痛いものは痛い。それだけが事実である。死ねば治るかもしれないが、死ぬのは多分、この腰よりも痛い。だろうし、痛みを治すために死ぬというのもいくら生き返る(と便宜上称しているが本当に生き返っているのかどうかについて考えるとスワンプマンという単語が脳裏を過る)凄まじい本末転倒だ。


「でも白衣を着てるなら何とか出来るだろ。腰がお死に遊ばしてて辛いから何とかして」

「何とかして」


 だからアバターは、以前噂に聞いていたサイエを訪ねた。「テンサイでナンでもデキるセンセー」とのことだったので、てっきり医者だと思っていたのだが、それは本人に否定された。

 とはいえ、魔法少女の姿で魔法のステッキの上で干し布団のような姿勢になっているアバターはもうここから動く気がなかった。何とかしてもらえるまで粘る所存である。そんな白衣姿で治療が出来ないなんて有り得ないというのがその行動の根拠であった。


「あー……何日前から?」

「今朝いきなり……じゃないな、昨日も何か違和感はあった」

「どこがどんな感じで痛むんだい?」

「腰から……太股の真ん中くらいまで、じわって感じ? 刺されるよりは痛くないけど潰されるのよりは痛い」

「坐骨神経痛では?」

「骨は痛くないけど」

「坐骨神経痛は骨が痛む病ではないよ」


 ほら、問診が始まったから間違いない。アバターは我が意を得たりと顔を上げた。

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