第27話

「一般的にIQが20離れていると会話にならないらしい」

「誰が最底辺かで戦争が起きますね……」



 あちらもこちらも馬鹿ばかり。



 俗説といえばまぁそうなのだが、そういうことらしい。中佐殿こと「墓穴堀グレイブヤード」略してヤードは憂いを帯びた表情を作った。黙ってさえいれば金髪碧眼、それなりの容姿なので王子めいて見える。

 対して、「枢機卿カーディナル」はどこからどう見ても治安が最悪なので逆に良かった。肩幅は広いし筋肉はあるし、古傷だらけの体はそれだけの修羅場を生き延びた証なので。


「殺人鬼じゃないのか?」

「彼はああ見えて……いえ、ああ見せるくらいの悪知恵は働いてますよ。本当に馬鹿だったらそもそも軍人にはなれませんし」

「後からしつけることも出来るだろう」

「それは底辺を見てないから出る感想ですね」


 そう言って遠い目をしたヤードは、やはり見た目だけなら儚げなのだが。カーディナルは訝しそうに目を細めて、い、と口の片側を歪めてみせた。


「最悪、痛みが理解出来るなら充分だろう?」

「恵まれていて羨ましいですねぇ……母数の問題でしょうか?」

「……そんなにか?」

「えぇ、言葉も道理も何もかもが通じない人間っていますよ」

「それはもう馬鹿とかではなくてただの最悪では?」

「まぁそうなんですけど。それらに比べればあの殺人鬼は賢いまでありますよ」

「俄には信じ難いが……」


 どちらが、という問いは宙に浮く。岩の上に伏せて射撃姿勢を保っていたヤードの指が引金にかかり、銃声。双眼鏡を取り出したカーディナルは更に目を細め、銃口の先の惨事を観察する。


「着弾はしたが惜しかったな」

「胴を狙ったから当たりはするでしょう」

「まぁ面積が広い部分を狙うのがセオリーだからなこういうのは」

「やっぱり宗教家ではないですよね貴方は」

「本人が一番思ってるんだがお前が呼んだんだろうが」

「服装がそうだったので……あ、こっち来てますね」

「炸裂弾だったか?」

「えぇ、だから逃げようと思えば逃げれますけど」

「ここで潰しておくに決まっているだろうそれこそセオリーだ」

「まぁそうですよねぇ、負ける要素がないのに逃げるのはそれこそ馬鹿の所業だ」


 狙撃銃を手早く片付け、愛用のシャベルを携えるヤード。その横で双眼鏡をしまい大剣を掲げるカーディナルの視線の先には、あからさま過ぎるくらいあからさまな、ゾンビが一体、這いずっていた。

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