第26話
王(と皆から呼ばれているが、王というよりは殺戮者であり、唯一その服装だけが彼の生前の身分を示すものであった。とはいえ本来それを纏う者から剥ぎ取った可能性も否定出来ないため、やはりこの呼称は呼称以外の意味を持たない)の行動様式が判明したのはつい最近のことであった。
前の晩、最も近くにあった廃墟で就寝からの起床。黒い石のようなパンを野菜屑の浮いたスープに浸しながらの朝食。廃墟から出た後は小高い場所、なければ近くにある岩の上に立って意味を成さぬ咆哮。亡霊のような骨と皮ばかりの馬に乗り、槍を構えたまま徘徊を始める。夜になれば眠るための廃墟を探し、あればそこで就寝する。
この間、男性を見かけると執拗に殺しに来る。どの世界の言葉でもない呪詛めいた騒音を吐き散らかしながら、槍で串刺しにされて殺されたならば逆に幸運。巨大な剣で首を飛ばされるのが次点。そうでなければ短剣でぐちゃぐちゃになるまで刺されるか、死ぬに死ねない雷撃を死ぬまでぶち当てられ続けるか。
故に、王を避けるのは簡単であり難しい。一度認識されると死ぬまで追われ狙われ続けるため、王の目に、耳に、入らないことが何よりも肝要である。幸い王は徘徊中も大抵叫び散らしているし、視界もそう広くはないため、気を付けてさえいれば対策は出来る。
だから注意していたはずなのに!!
アバターは、生前用いていたアバターもといキャラ設定とバーチャルモデルを現実のものとして被ることが出来る。空を飛び回れる魔法少女、輝石竜を従えている魔獣騎士、魅了と魔道を極めている夜魔道士など。全て女性体なのは、その方が貢がれやすかったからである。故に、アバターはアバターを被っている間に限り、王の殺戮対象ではない。
「あの」
「……」
「離してくれません?」
くれなかった。アバターのお願いは黙殺され、王はアバターの両肩をぐっと持ったまま動かない。アバターは地獄に堕ちてからというもの様々な種類の狂人と出会ってきたのだが、ここまで虚ろな目をしている人間との遭遇は初めてだったので普通に怖がっていた。
「離してください……」
「……」
「離して……」
疑問系じゃなくしても駄目だった。王はじっと、アバターを見詰めたまま動かない。アバターの今のガワは魔獣騎士であり、金髪碧眼の姫騎士(所謂、くっ殺系騎士をイメージしてもらえば概ねそれだ)。そんなアバターと、狂気に満ちた壮年の王が見詰め合う様は、緊張感を孕みつつも何これ? という疑念を抱かざるを得ないものであった。
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