第9話

 地獄というものは、基本的に不快指数が高い。四季なんて風情溢れるものなどなく、夏らしき季節は茹だるように暑いか焼肉屋で赤々と炙られた網の上のように熱い。

 よって、地獄在住の罪人たちは様々な方法で熱を冷まそうとする。その中で最も原始的であり、故に簡単な方法が脱衣である。


「私から白衣と眼鏡を取ったら何が残ると言うんだ……」

「センセーはコセーのカタマリだからダイジョブだとオモう」


 二人の男が、崩れた建物の陰で座り込んでいる。裸の上半身に白衣をひっかけて、汗でずり落ちる眼鏡を押し上げているのは大罪人が一人、狂科学者のサイエ(安心してほしい、下はいつものジーンズと安全靴だ)。その隣にいる全裸(一応腰に様々な「オモチャ」が連なるベルトを巻き、股間だけは隠しているので致命的な絵面にはなっていない……いないか?)は同じく大罪人にして連続殺人鬼のツジである。


「自分で言うのも何だがね、私はこの頭脳が全てだからね……容姿はそう良くもない……」

「そぉ? カモナクフカモナクってカンジじゃない?」

「可ではないんだろう……それにしても暑いな……」

「それぇ……もうヌげるもんない……」

「一応股間を隠さなければという意識はあるんだね……」


 まぁ、ガチの全裸で来られていたらその時点で八つ裂きにしていたが(サイエは馬鹿がとても嫌いだ。このクソ暑い中ということを差し引いても、他人に会うのに全裸で来るのは馬鹿でしかないと思う)。

 それにしたって、大型銃やらその弾やら、今日の「オモチャ」は随分物騒だ。まだしも錆びた鋸やらささくれた棍棒の方が優しそうに見える。見えるだけだが。


「いやだってツブされたらヤじゃん……? シぬまでナオんないし……」

「死ねば直るだろう、その頭も……無理か……馬鹿には薬も手術も効かないからな……」

「ヒドくない?」

「ほぼ全裸で歩き回っている畜生が何かほざいている……」


 何せ暑いので、サイエの口も悪くなる。何か一つを我慢すると、それによって心の力が消費されるため、他の我慢ができなくなる、なんてのは誰の論文だったか。サイエはぐるぐると回る視界と思考を抑えるために頭を振った。

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