第7話

 少しでも安全な場所がないかなって、探してる途中で空から男の子が落ちてきた。正しく言うなら、手と足がもぎ取られてしまっている男の子だけど。

 ふぇ、と喉がひくついて、涙があふれそうになる。だめ、だめ、泣いちゃいけないのに。泣いちゃったら、全部溶かしちゃうから。それでも後から後から涙が出てきて、こぼれた一滴が地面を焦がした。


「ふぇえん……」


 そうなるともう我慢もできなくて、ぽろぽろじゅうじゅう、地面に落ちた涙が砂を、土を、溶かしていく。わたしから流れる液体は、何もかもを溶かしてしまう猛毒だから。

 せめて、男の子が溶けないように離れることしかできない。だって、手と足がちぎられてて可哀想なのに、わたしに溶かされてしまったらもっと可哀想だ。


「何がそんなに悲しいのかな? 僕はこの通り、ぴんぴんしてるのに!」

「ふぇあっ」


 すると、その男の子がそう言った。ぴんぴんはしてないと思う。


「ちょっと動きにくくはあるし、怪人に負けてしまったことは残念だけれど大丈夫! ヒーローは、正義は、必ず勝つ!」

「あ、はい」


 としか言えない。え、その状態から……勝てるの……?


「そしてすまない、女の子にこんなことを頼むのは心苦しいのだけど、とりあえずどこかに立てかけてくれないか! 何せ手も足も出なくてね!」


 それはとてもそう。でも、わたしの手は涙で濡れている。このまま触ったら、この男の子も溶けてしまう。どうしよう、どうしたらいい?


「ご、ごめんなさい……わたしの、わたしの手、触ったら溶けちゃう……」

「とけちゃう?」

「わたしから、出るものは……全部、溶かしちゃうから……」


 あぁ、自分で言ってて悲しくなってきた。また涙があふれる。わたしは、こんなのだから、ばけものだって、みんなにいわれて……。


「気にすることはないさ! 僕のヒーロースーツは無敵なんだ! 怪人と戦うためのスーツだからね、何にだって強く作られてるのさ!」

「で、でも……」

「後あれ、そろそろ地面とキスし続けるのもちょっと。割と口の中が砂だらけで不愉快だから普通に助けてほしい」

「あ、はい」


 それはそう、とてもそう。わたしは男の子の指示に従って男の子の体を起こして、近くの壁に立てかける。ヒーロースーツは無敵だ、って言っていた通り、男の子の体は溶けなくてびっくりしたけど。


「あ痛ぁっ!?」

「ご、ごめんなさい!!」


 素肌(?)の部分はだめだったみたいで、傷口に触ってしまった時は叫んでいた。それでも、他の人に触ったのは久し振りだったから、わたしはとても嬉しかった。この男の子と、もう少し一緒にいたいなと思うくらいに。

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