第23話
人間が憎いかと問われると困る。確かに不死不敗の人間兵器を造ろうなんて言い出した人間は憎いし、実際に手を下した人間だって憎いけれど、そもそも彼(と称したが彼が真実彼であったか彼女であったかは判らなくなってしまったため便宜的にこう称している)は祖国の人間を守りたかったのだ。
彼の祖国はとても小さくて、なのに貴重な資源と高い技術力があったものだから周辺諸国に狙われていた。だからいつだって戦争をしていて、だから強い兵器が必要だった。不幸だったのは、そんな兵器を造れる技術があったことだろう。
志願兵の一員だった彼は、新しい兵器の適合者として指名された。同じく、志願兵の何名かが指名され、そうして絶命した。生き残ったのは彼一人で、そうして彼は人間の形を失っていた。
知的触手状生物というのは、卑猥というより危険である。
何人食い殺したかは覚えていないが、人間兵器の発案者と手術の実行者と軍の上層部は軒並み殺していたはずである。むしろ、それらを殺さずに何を殺せというのか。憎しみのまま伸ばした手は容易く人体を蹂躙出来た。
何せ、どこにでも侵入出来るし何でも破壊出来たので。更には他者の精巧な声真似が出来るとあれば、暗殺特化の能力が揃っていると言えよう。彼はそうして何人もの人間を終わらせて、気がつけば知らない場所にいた。
砂嵐の吹き荒ぶ砂漠、点々と屹立する廃墟。黒い雲の隙間から見えた空は赤く、遠くに巨大な化物が飛んでいた。であるならば、ここは地の底、地獄であろう。
彼はそう納得して、もろもろと砂の上を這い進んだ。ざらざらしていて不愉快だが、もっと酷い環境でさえ生き延びられるよう作り替えられたのだ。何の問題もない。
「うわーッ!?」
「!?」
と、不意に真後ろから聞こえた悲鳴。ぎょろ、と伸ばした目に映るのは、不自然な少女。何が不自然かと問われると非常に困るのだが、彼の目に彼女はとても不自然に見えた。
少女の頭の上には白い板のような何かが浮かんでいて、そこに目と口を真ん丸にした顔が現れる。ぶるぶると震える顔の下、少女の表情もまた似たようなものであった。
「え、エロゲ御用達の触手!!」
指差し、叫んだ少女の言葉は理解不能なもの。えろげ……とは何だろうか。御用達、なんて言うからには人名か何かだろうか。何にせよ、とんでもない勘違いをされていそうだったので、彼は口を開いた。
「……こんニちは、はじメまして」
「きぇあああしゃべったぁああ!!」
しかして、少女の恐慌は治まる所か加速する始末。彼はとても困ってしまって、かしかしと頭に当たる部分を掻いた。少女は再度絶叫した。
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