第14話
地獄だから何でもありだというのは概ね共通認識なのだが、だからといって本当に何でもありになるのは違うだろうというのも共通認識であった。
ゾンビはレギュレーション違反では?
狂科学者サイエによる刺殺毒殺、軍人ヤードとカーディナルによる銃殺撲殺、化物公爵令嬢による焼死(正しくは謎の原理によって出るビームによる殺害なのだが、それをなるべく短く言語化するならばそうという話である)。そこまでされても動き続けているのだから度し難い。
ゾンビはその名前と世間からこうであると思われている性質の通り、死なない。地獄の住人たちは殺されたり死んだりしても数日内に蘇るが、ゾンビはどんな状態になっても死なないのだ。
死んで蘇ることと死なないことには明確な隔たりがあり、つまりそれがゾンビと名付けられたこの青年の大罪人としての特性。とはいえ物理的にバラバラにされたら動けなくなるし灰になれば暫くの間静かになる。
しかして、死んではいないのだ。彼はいつだって生きていて(?)、死んでいない。死んでいないということは、常に意識があるということ。常人は大体三日程徹夜して意識を保ち続けると壊れてしまうが、常人でなくとも月、年単位で意識を保ち続けていればお察しであろう。
「あああああああクソクソクソ生きてる生きてやがる羨ましい恨めしいチクショウ何で生きてんだよ死ね死ね死ね道連れになれぇえええええ」
「嫌に決まってるだろう」
という訳で、人格も何もかも終わってしまっているゾンビは誰彼構わず襲いかかる、から、反撃される。サイエが投げたアンプルはゾンビの口の中へ、かしゃんと咬み割られて溢れた中身は硫酸である。
舌を歯を顎を喉を焼かれてそれでも元気に這いずって来るゾンビの頭を蹴り上げようとしたサイエだが、靴が汚れるのも嫌なのでとんとんと後退した。下半身を失っているゾンビは両腕を使って移動するしかないので、それだけでかなりの距離が取れる。
「クソクソクソクソ何でぇ何で生きてるんだよ生きやがって元気だなクソが何で死んでないんだよ生きてるなよムカつくムカつく死ね死ね死ねオレと同じになれ同じになってくれよぉおおお」
「だから嫌だと言っているだろう」
「俗説によるとIQが20離れていると会話が出来ないそうですよ」
「IQ200以下の低能は話しかけないでくれるかな?」
「全人類との会話を拒否するとは……」
単にサイエがヤードのことを嫌いなだけである。嫌いというか、お互いに嫌い合っているというか。ひょこりと岩影から顔を覗かせたヤードは、ゾンビに目をつけられる前に発砲した。
大口径の拳銃はその砲口に応じた威力であり、サイエの両耳が一瞬機能を喪失した。無論、直撃したゾンビの方はまだ動いているものの、挽き肉がうごうごしているだけの状態である。
「貸しのつもりか?」
「いえ、借りを返しに来た形ですね」
「何も貸してなかったと思うけれど……」
「軍医殿が飼ってる軍人崩れに借りてたので」
「飼ってるつもりはないんだけどね」
ツジのことかと思い至るも、顔をしかめて否定するサイエ。拳銃をホルスターに納めたヤードは、きょとんとした顔でまばたきを繰り返した。
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