第3話

 千と一つを数えた時点で、これ以上数えるのは不毛だと思って止めました。僕の目的は標的の完全沈黙で、それはほぼ達成されていたからです。



「その挽き肉の原材料は?」

「頭のおかしい殺人鬼ですよ」



 相変わらず古傷だらけのカーディナルさんは、僕の足下に広がっている血と肉を指して問いかけてきたので、僕は事実を答えました。カーディナルさんは聖職者らしく、嘘や不正を嫌うからです。

 あんなにわかりやすい猫撫で声と、後ろ手に隠した何か。察しの悪い新兵でさえ、警戒心を抱くでしょう。案の定、注射器に満たされた薬液を打ち込もうとして来た殺人鬼に、かける慈悲などありません。


「またか」

「またですね」


 この殺人鬼は、彼に比べて小柄な僕を仕留めやすい獲物だと思っているらしく、何度躾してもこうして襲いかかってきます。今回はなるべく意識を残したまま叩きのめしたので、覚えていてくれるといいなと思います。

 いつだって苦しみと痛みこそが教育には効果的で、特にこの殺人鬼のような道理が通じない相手には何よりも有効な手段となります。なので、僕は暴力の行使を躊躇いません。

 けれども、シャベルが壊れてしまったのはいただけない。武器はないならないでどうにでもできるように訓練しているとはいえ、あればあったで困るものではありません。こうして標的を制圧するにも、制圧した後で埋めるのにも、欠かせない相棒です。


「懲りないな」

「物覚えが悪いみたいですよ」


 呆れたといわんばかりに溜め息を漏らしたカーディナルさんに、肩を竦めて返します。実際、この殺人鬼は三歩進めば全て忘れてしまうようです。鶏よりも性質が悪いとはかの軍医殿のお言葉だったような。

 そもそもこれは軍医殿の管轄なのだから、野放しにしないでほしいというのが僕たちの総意です。これが徘徊しているだけで、地獄の治安は最底辺。これなら、まだ刑吏殿がいた頃の方がましだと思えます。


「しかし、よくもまぁそんなにできるな……」

「そんなに?」

「挽き肉とはいったが、ほぼ液体に近い」

「あぁ、それはそうですよ」


 下手に肉体が残っていれば起き上がる可能性がありますから。ここではありえないことがありえる。相手を殺すと決めたならば、確実に、確定的に、擂り潰さなければ安心できない。

 僕はこれ以上死にたくないですし、そうなれば相手を完璧に破壊してしまうしか方法がない。それでも生き返ってくるものだから、仕方なく躾をしている。そういうことです。


「僕にはこれしかありませんから」

「しか、というには惨くないか?」



「だって、殺人鬼といえど軍人ぼくたちと違って素人ですし、遺恨も逆恨みも山積みじゃないですか」



「なら仕方ないな」

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