第20話
「気違いは気違い同士通じ合うものがあるって話か?」
「酷い言葉を使ってはいけない!!」
事実を述べて何が悪い。
赤い空に黒い雲、乾いた砂地に点在する廃墟。常識も倫理も何もかもが終わりを迎えている地獄である。罪を償わせるための仕組みも人員もいなくなってしまったので、世紀末よりも終わっている。
さてそんな地獄の片隅、生き別れの親子のようにひしっと抱き合っている、のだろう、多分。傍目から見れば、巨大なドラゴンが小さな人間を握り潰そうとしているようにしか見えないが。
腐りかけた巨体に七対の翼と目玉、異形ここに極まれりなドラゴンの自称を公爵令嬢という(誰が聞いたかは誰も知らないが)。婚約者に裏切られて処刑された彼女は、悪魔と契約して化物へと成り果ててしまった。幾つかの国を滅ぼした結果として地獄に落ちた後は、気紛れに他者を庇護したり、破壊したりしている。
対して彼女が握り締めているのは王だと思われている人間である。王冠を被っているしそれらしき装束も着ているので多分そう、というレベルの話でしかないが。彼は地獄に落ちてきた時から狂っていて、目についた男を兎に角殺そうとしてくる。
そんな、地獄でも文句なしの危険人物(?)たちが感動(?)の再会(?)を果たしている現場を遠くから見ているのが通称商売人とヒーローの二人。商売人の方は新たな顧客を求めてうろついていた所で、ヒーローの方は新たな敵を求めてふらついていた所だ。
「あの二人が組むとか馬鹿が見る悪夢では?」
「だから酷い言葉を使ってはいけないと!!」
「事実でしかないのに?」
しかしてあの二人(?)の内、どちらかでもこちらに気づいて敵対することになれば間違いなく酷い目に遭うので、一時的に手を組んでいる状態だ。公爵令嬢のドラゴンブレス(とはヒーローが名付けた技の名前だが)は言うまでもなくヤバいし、王は初日で殺人鬼と軍人二人を屠っているとの噂がある。
「おいお前、ちょっと行って話してこいよ。天下のヒーロー様なんだろ?」
「うーん負けが決まってる戦いはちょっと」
「日和るなよ」
「だってあれどう考えても巨大ロボじゃないと倒せないタイプの敵じゃないかいずれ倒すとしても今じゃない」
「急に早口になるな、それに何も令嬢に行けって言ってる訳じゃないだろ」
「王様は……どっちかと言えば味方では……?」
「そう思うなら尚更行けって」
「だって今行ったらどう考えても終わりじゃないか……」
まぁそれはそう、とてもそう。商売人はヒーローの尻込みに舌打ちを返し、逃走経路の確保に入る。予測が正しければ、早晩どちらかが何らかの暴虐を振るう筈なので。
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