業務日誌#05

結婚会見の大魔王


「――それでは、お二人はお互いのどのような部分に惹かれてご結婚に至ったのですか?」


「うむ! 俺はやはりフィオの持つ強さに惹かれた! 全てを焼き尽くすように輝く強い光。しかしどこか儚げで放っておけない揺らぎも持つ……俺はこの世界で、フィオ以上に美しい存在を知らぬ!」


「全部だね。エクスという存在を構成している要素のすべて。髪の毛一本から爪の先。吐いた息から体細胞の一つまで、全部私のモノにしないと気が済まない」


 エクスからフィオへのプロポーズから数週間の後。

 元大魔王と元勇者という、超大物同士の結婚のニュースは全世界を駆け巡った。


「ですが、お二人は元々敵同士でいらっしゃいましたよね? お二人の交際はいつ頃からスタートされていたのですか? やはり戦後に?」


「話せば長くなるのだが……あの戦いの後、無職になった俺はまずは働かねばと求職活動をしていたのだ。しかしどこも俺を怖がって雇ってくれなくてな! そのような苦しい時期を親身に支えてくれたのがフィオだったのだ! 心から感謝している!」


「私が勇者としての旅をスタートした〝三秒後くらい〟かな。それまで村の周りにいた高レベルなモンスターが全部いなくなって、可愛らしい小動物モンスターに入れ替わっていたのに気付いてね。あの瞬間から今まで、私はエクスのことしか考えていない」

 

 少し前まで世間を賑わせていた皇帝ドラクレスの退位と、皇室制の消滅という少々辛気くさいニュースは一瞬で人々の記憶から忘れ去られ、テレビに流れるニュースは人とモンスターの象徴たる二人が密かに育んでいた愛の物語で連日持ちきりとなった。

 すでに、二人の半生を題材にした物語は映画化ドラマ化アニメ化漫画化小説化――あらゆるメディアミックス計画が同時に動き出している。


「では、お二人は今後夫婦としてどのような家庭を築いていこうとお考えですか?」


「そうだな……やはり穏やかで暖かな家庭が良かろう! たとえどのような形であろうと、常に笑顔が絶えない幸せ空間にするのだ!」


「とりあえず、子供は20人は欲しいね。世の中すべてをエクスで埋め尽くすのが理想かな」


 由緒ある伝統建築の広間で揃って会見した二人の前には、広間を埋めつくさんばかりのインタビュアーが集まっている。

 情熱的ながらも極めて真っ当な返答を行うエクスと、ツッコミ不可能の重すぎる返答を平然と口にするフィオ。

 対極的な二人ではあったが、並んで脚光を浴びる二人の間に漂う雰囲気は、二人の固く強い絆を見る者全てに実感させた。


「で、では最後に! 今までとこれからのことについて、共に歩んでいくパートナーに対してそれぞれ一言お願いします!」


「情けない話だが、俺はフィオというこれ以上ない素晴らしい女性からの想いに長年応えることができなかった……! 今まで彼女を待たせ続けてしまった分も、全身全霊でフィオを愛すると誓うぞ!」


「私もだよエクス……! これからは命尽きるまで……ううん、たとえこの肉体が滅びてもずっと一緒にいるからね! もう絶対に逃がさないから……ッッ!」


「う、うむ!? そう警戒せずとも、俺は逃げたりはせんからな!?」


「ありがとうございましたー! お二人とも、本当におめでとうございます!」


 エクスが邪竜の呪いを背負った時点では、このような華々しい結婚会見などは望むべくもなかった。

 全ての命から忌み嫌われる呪いを持つエクスと、英雄であるフィオの繋がりは必ずや平和になった世間に混乱をもたらしただろう。


 しかし今やエクスの身に残る呪いは消え去った。

 エクスとフィオが共に十年かけて解呪を施し、ラナの荒療治によって僅かに残っていた残滓すらも焼き付くした。


 今や、二人の幸せを阻む者は誰もいない。

 二人の幸せを憎悪する者は誰もいない。


 元大魔王であるエクスと、元勇者のフィオレシア。


〝この世界に生きる者であれば〟――誰しもが祝福する二人の入籍報告は、こうして無事世間に迎えられたのだった――。

  

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