親友の正体を知る大魔王


「じゃあ、ぼくやユンさんを転生させてくれたのも理事長……じゃなくて……アスクレピオスさんだったんですかっ?」


「別にどう呼んでいただいても構いませんよぉ~! そして仰る通り、異世界でお亡くなりになった方をテキトーに選んでこの世界に集めていたのはワタクシです~!」


「ま、マジかよ……!?」


 理事会の終わり際に行われたラナのカミングアウト。


 それは、かつて人とモンスターの連合軍によって肉体を滅ぼされ、尚も生きながらえていた怨念すらエクスとフィオによって完全敗北した邪竜メルダシウスが、間もなく異世界からこのソルレオーネにやってくるという内容だった。


 しかもラナの暴露はそれだけではない。


 異世界で命を落としたテトラやユンをこの世界に転生させ、さらにはチートスキルなどという異能を与えていたのも。

 人類が大賢者と崇めるアスクレピオスもまたラナ自身であり、邪竜の呪いに支配されて以降の人とモンスター双方を、影から操っていたのも自分だったというのだ。


「正確には、ラナも私の力で生み出した分身体です~。エクスさんの呪いが無事に解けたので、〝ラナも私を探していた〟ようですけど、いよいよ時が来ましたので再合体しました~! 今のワタクシはラナでもありアスクレピオスでもある……そしてなにより、邪竜さんの忠実なしもべ~~~~!」


「そ、そんなバカな……っ! では貴様は最初から、ずっと俺たちの敵だったというのか!?」


「ん~~~~フフフフフ! さぁて、どうでしょ~? エクスさんはどう思いますかァ~?」


「相変わらず回りくどい言い方ばかりするね……言っておくけど、君が敵だろうと味方だろうと、エクスの清らかな心に傷をつけた存在を私は許しはないよ?」


 理事会閉会後の管理人室。

 すでに時刻は深夜を回っていたが、そこには管理人チームを始め、駆けつけたフィオも同席していた。


「俺は……! 俺は貴様のことをずっと信じて……いや、今だって信じているッッ! 確かに貴様はいつも俺を驚かせるが、俺に酷いことをしたことは〝一度もない〟ではないかッッ! 今回だって、きっと何か考えがあるのだろう!?」


「リーダー……」


「魔王ざま……づらそう……」


「普段からあれだけおちょくられて、それでもそんな風に言えるなんて……っ! ああ、エクス……愛してるっ!」


「やれやれ、どうせそう仰るだろうと思ってましたァ……やはり貴方みたいなお人好しは、私やCEOのような人材が支えてあげないといけませんねぇ?」


「ラナ……!?」


「ご心配なく~。ワタクシもエクスさんやCEOの敵になるつもりはありません。まあ、信じる信じないはお任せしますけどねぇ……」


 ラナの正体を知り、それでもまだ信じるというエクス。

 そのあまりにもまっすぐ過ぎるエクスの瞳に射貫かれ、ラナはなんとも言えない表情で視線を外した。


「ですが、エクスさんも〝そちらのお二人〟から話は聞いているのでしょ~? 私が異世界から転生させたテトラさんとユンさんが本来生きていた世界は、〝恐ろしい機械や独裁者に支配されていた〟と~」


「そういえば、そのような話をしていたような……」


「はい……ぼくの世界では、生身の人間はみんな機械の奴隷みたいな扱いでした。ぼくも物心ついてから、ずっとお掃除ばかりの毎日で……」


「俺の世界も、ヤベえ独裁者が逆らう奴をどんどん殺すようなところだった……俺も、俺の家族もそれで……」


 ラナの言葉に自身の辛い過去を思い出したテトラとユンは、共に神妙な表情で頷く。


「ですよねぇ? そしてなんと、実はテトラさんの世界を支配していた究極の機械の名前は〝Merldacciusメルダシウス〟といいましてぇ~」


「は……?」


「さらにさらに! ユンさんの世界を支配していた恐ろしい独裁者の名前も、メールダ・シーウスさん(56歳)なんですねぇ~~~~!」


「はぁあああああああああああ!?」


「笑えない冗談だね。他の世界にもあの邪竜と似たような存在がいて、それぞれの世界を支配しているっていうのかい?」

 

「〝似たような存在〟ではありませんよ~? Merldacciusという名前の管理システムも、メールダ・シーウスさんという独裁者も、ぜーんぶ〝同じ邪竜さん〟です。何億とある異世界はとっくに全て邪竜さんのもの。違うのは唯一、この世界だけ――」


 そのあまりにも巨大すぎるスケールに、エクスもフィオも、管理人チームも。

 居合わせた全員が一言も発することなく、ラナの言葉に黙って耳を傾けていた。


「――エクスさん、そしてソルレオンCEO。改めて、貴方たちお二人の力を貸していただけませんかァ? 我が主と、この世界も含む無数の異世界を救うためにねぇ」


「邪竜と世界を救う……?」


「一体どういうことだ!?」


「前にも言いましたよねぇ? ひとりぼっちのドラゴンが一番欲しいもの……それは友達です。我が主の内に広がる無限の孤独が癒やされさえすれば、現在進行形で邪竜さんに支配されている全ての異世界も救われる。もちろん、この世界の平和も守られることでしょ~!」


「友達だと……? まさか!?」


「そのとーり! さあさあさあさあさあ、今こそあの時の約束を果たして頂きますよォ! エクスさんが果たすべき究極にして最後のプロミス……邪知暴虐にして性格最悪、どうしようもないわがまま暴君ボッチ・ザ・ドラゴンの初めてのオトモダチになって、見事全世界を救って下さい~~~~! アハハハハハハハーーーー!」

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