真犯人を探す大魔王
「――なるほど、結局火事は〝警報システムの誤報〟だったわけだ。おかげで入居者は大混乱。下層のショッピングモールも一時営業停止……後処理のことを考えると頭が痛くなるよ」
「ぐぬぬぬぬ……!」
「……? どうかしたの?」
「ミャ?」
夜。
慌ただしい一日を終えてようやく自室に戻ったエクスは、膝上にクロを抱いたフィオと共に今日起きた出来事についての報告書に目を通していた。
早朝に発生した火災警報による大混乱。
しかし実際にはラウンジで火災は起こっておらず、他の場所からも火や煙の気配は一つも確認できなかった。
結果として、この騒ぎはかけつけた消防と警察による調査により、火災報知器の誤報ということで決着がついた。しかし――。
「たしかに消防も警察もそう言っていた……だがこの大魔王エクスの目は欺けん! 今日の騒ぎは、間違いなく何者かによる策謀なのだッッ!」
「そういえば、エクスは消防が来る前にラウンジの様子を見に行ったんだったね。報告書には、君たちの証言は書かれていないみたいだけど……」
「俺たちが駆けつけた時、どういうわけかラウンジはめちゃくちゃに〝荒れていた〟のだ! 椅子やテーブルはバラバラで食器は出しっ放し……〝何者かが宴でも開いていた〟かのようだった!」
「なるほど……けど、ラウンジを荒らした犯人はどこにもいなかった……」
「そうだ! 俺も管理人リーダーとして警察と共に防犯カメラの映像を確認したが、今朝までの丸一日、ラウンジに出入りした者は一人もいなかった……そして最後にあの場所をチェックしたのは他ならぬ俺とテトラだ! 昨日の夕方、完璧に整頓されているラウンジをたしかに見た!」
「ふむ……」
納得いかないという様子のエクスに、フィオはその艶やかな口元に手を添えて思案する。
今回警報装置が作動した展望ラウンジは、マンションにおける〝共用部分〟とされている場所だ。
エントランスやエレベーター、ゴミ捨て場などと同様。マンション入居者ならば誰でも利用でき、そしてその管理運命も入居者全員が共同で行うことになっている。
ソルレオーネのような最新大規模マンションともなると、共用部分とされる施設もその他のマンションとは一線を画す。
サウナやプール、託児所や学習塾。
理事会の開催場所となった多目的ホールや中規模な劇場など、ラウンジ以外にも様々な共用部分が備えられているのだ。
「けどそれだけに、共用部分を利用する入居者のマナーや、利用方法でトラブルが起きやすい部分でもある……」
「そして他の共用区画と違い、ラウンジはプライベートな利用も想定している関係上監視カメラがない……! 俺も必死に説明したのだが、消防も警察もラウンジが荒れていたことに関してはまともに取り合ってくれなかった! なんと忌々しい!」
「あははっ。つまりエクスは、彼らに普段から〝掃除をサボってる〟って思われちゃったわけだね」
「ぬわーーーーッ! 許さん……絶対に許さんぞ真犯人めッ! 大魔王探偵エクスの名にかけて必ずや見つけ出し、ごめんなさいと言わせてくれるわッッ!」
「ニャー!」
――――――
――――
――
「――というわけなのだ! 俺の私怨を抜きにしても、もしあの騒ぎが人為的なものならば再発の可能性もある! 警察が当てにならん以上、俺たちで徹底的に調べる他はない!」
「は、はいっ。ぼくもそれがいいと思いますっ!」
「オイラも……ぢゃんどお掃除、しでる……」
「にゃはは! いいっスねいいっスねー! 自分こういうの大好きっス! 燃えてきたっス!」
明けて翌日。
再び問題のラウンジへとやってきたエクスたち管理人チーム。
広々とした室内は壁面がガラス張りとなっており、地上300メートルというソルレオーネからの展望を存分に楽しむことができる。
キッチンはバーカウンター形式となっており、併設されたソファや大型のテーブルと合わせ、最大で十数名ほどの人数が利用できるほどの快適な室内設備が用意されていた。
「すでに室内は片付けられてしまったが、調べられることはまだあるはずだ! 我が頼れる仲間たちよ……今こそ俺たち管理人チームにかけられた濡れ衣を張らすのだ!」
「りょーかいっス! そうだろうと思って、今日は〝この子〟を持ってきたっス!」
「わぁ……パムリッタさんがずっと背負ってたその箱って、ここを調べるための機械だったんですねっ」
「なんが、すごそう……!」
さっそく調査開始を命じるエクスの前に、新たな管理人メンバーであるパムリッタが背中の巨大なバックパックから箱形の機械を取り出して見せる。
「この子の名前は〝アカシックレコード君五号〟っス! 指定したエリアで過去に起こった出来事を、映像として見ることができるっス!」
「ええええええっ!? とってもすごいじゃないですか!?」
「ほっほーう! 俺の時空間魔法と似たような物だな。しかし俺の〝
「これで、じけんかいげつ……!」
「にゃはー! こんなこともあろうかと、普段から色々と趣味で作ってるっス! じゃあ、さっそく昨日の朝の映像を再生するっスよー!」
唐突に飛び出した事件解決間違いなしの超アイテム。
得意満面の笑みを浮かべたパムリッタは、すぐさまアカシックレコード君五号の背中にある一際目立つボタンをぽちりと押す。すると――。
『ジ――ジジ――ヒャ――ハハハハ! いい遊び場――見つかっ――……ジジ――』
「み、見て下さい大魔王さま……これって……っ!」
「これは……!?」
パムリッタの発明から目の前に投影された映像。
そこにはなにやら軽薄そうな男の声と、誰もいない室内でひとりでに空中を浮遊する食器や椅子が映し出されていたのだった――。
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