業務日誌#03
部下が増える大魔王
「ば、馬鹿な……! 大魔王である俺の力が通じないというのか!?」
「ひえ~~! なんとかしてくださいリーダー! 助けてくださいっス~~!」
それは正に阿鼻叫喚の渦。
ここは超巨大タワーマンション、ソルレオーネ最上層直下に位置する、入居者ならば誰でも利用可能な展望ラウンジ。
本来ならば昼間は託児所に預けられた子供たちで賑わい、夜になれば仕事を終えた大人たちの社交の場となるはずの場所だ。
だがしかし。
今やそのラウンジに平時の面影は残っていない。
あたりには無残に切り裂かれた調度品やカーペットが散乱し、照明は次々と爆発四散。
しかもその有様を、大魔王エクス率いる管理人チームはただ慌てふためきながら見ていることしかできていなかった。
「あうあー……!? オイラ、もうだめ……ごめんなざい、魔王ざま……」
「くっ……! しっかりするのだクラウディオ! 俺の命に代えても、誰一人犠牲にはしないぞ!」
地上300メートルという高所。
激しい風や雨を防ぐ強固な窓ガラスが破壊され、凄まじい突風が吹き荒れるラウンジで、次々と倒れていく管理人チーム。
その様子にエクスはついに覚悟を決めると、意を決して災厄の根源と対峙する。しかし、その時――。
「待ってください大魔王さま……っ! この人たちの相手は……ぼくがしますっ!」
「なんだと……!?」
荒れ狂う暴威の中、一人の少年の声が凜と響いたのだった――。
――――――
――――
――
「――というわけで、今日からよろしくっス!」
「ファーーーーハッハッハッハ! よい挨拶だ! 褒めてやるぞパムリッタとやら! ファーッハッハッハ!」
「よろしくお願いしますっ、パムリッタさん!」
「よろじぐ……うま……あう……」
時は少々さかのぼる。
理事会を終えてから数日後。今日も業務を開始したソルレオーネの管理人室では、明るい挨拶の声が響いていた。
お揃いのエプロンを身につけたエクス、テトラ、クラウディオの前には、紫色の髪に同色の瞳をらんらんと輝かせた子供ほどの背丈の女性が、その身の丈よりも巨大な荷物を床に置いて立っていた。
彼女の名はパムリッタ・エルデリース。
手先の器用なドワーフと人間のハーフであり、エクスの要請を受けてフィオが手配した追加の管理人スタッフの一人だ。
「得意分野は電子機器に機械類……見事に今の俺たちに足りないスキルではないか!」
「そうっス! これは自慢っスけど、メカに関しては誰にも負けない自信があるっス! 飛行機だろうがロボだろうがなんでも用意してみせるっス! でも虫だけは勘弁っス!」
「魔王ざま……機械、にがで……」
「大魔王さまの魔法でも、複雑な機械までは直せないですもんね。パムリッタさんがいてくれれば、今までみたいに機械のトラブルで電気屋さんを呼ばなくてもすみますっ」
「自分だけじゃこのマンションの人手不足解消にはならないかもっスけど、精一杯がんばらせてもらうっス!」
「うむ! 頼りにしているぞ、パムリッタよ!」
そう言って、パムリッタは無数の機械類が詰め込まれた巨大なバックパックをぱんぱんと叩いてみせる。
プロフィールシートにはただ〝機械に強い〟とだけ書かれていたが、彼女の出で立ちや言動からは、強いどこか完全にメカニックが専門であろうことがうかがえた。
「じゃあ、早速パムリッタさんにソルレオーネの中を案内しないとですね。今日の苦情はいつもより少なめだったので、ちょうど良かったですっ」
「では苦情対応は俺とクラウディオが担当しよう! テトラよ、パムリッタの案内を頼めるか?」
「はいっ。まかせてください」
「助かるっス! よろしくお願いするっス!」
「ではクラウディオよ、さっそく我が領土の視察に向かうぞ!」
「お供じまず……魔王ざま……!」
出社直後の慌ただしい朝。
簡潔ながらも互いの挨拶と今日一日のスケジュールの確認を終えた四人は、テキパキと管理人業務に取りかかる。
すでにエクスが管理人となって一ヶ月。
懸念だった人手不足も解消に向かい、今度こそエクスの社会復帰も軌道に乗りつつあるように見えた。
(フィオにはああ言っているが……やはりいつまでも待たせるわけにはいかん。ここで必ずや身を立て、今度こそ俺から……!)
エクスの脳裏に、今までは甲斐性がないせいで考えることができなかった〝フィオと歩むこれから〟のことがよぎる。
だが――。
『非常事態発生。非常事態発生。火事です。火事です。ソルレオーネ上層階。共用ラウンジから出火を確認。入居者の皆様は、定められた避難ルートから落ち着いて避難して下さい』
「え……?」
「な、なんだとッ!?」
だがしかし。フィオへの想いを新たにするエクスの前に、タワマン管理人としての多難な日々は今日も立ちはだかるのであった――。
マンション管理業務日誌#03
共用ラウンジの不正利用問題――業務開始。
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