提案する大魔王
『ぼ、ぼぼぼぼぼぼぼぼ、ぼぼ、ぼぼぼぼぼぼボッチちゃうわああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!?!?!?!?』
ソルレオーネを中心として、邪竜メルダシウスの悲痛な叫び声が皇都全域に響き渡る。
自らの弱点を聞くべく、〝手乗りドラゴン〟となってエクスの元にやってきた邪竜は、おもむろに伝えられた己のボッチ疑惑を全身全霊で否定した。
「では貴様はボッチではないというのか? 古文書の方が間違っていると?」
『そ、その通りだッッ! 我を誰だと思っている!? 数億もの世界を 完 全 支 配 する究極のドラゴンであるぞ!? そ、そそそ、その我がボッチなわけなかろう!? どこからどう見ても事実無根なのだッ!』
「しかし古文書によると、貴様は友達どころか知人一人すら作れぬ究極のボッチ・ザ・ドラゴンだと……」
『キエーーーーーーッッ!? 誰がボッチ・ザ・ドラゴンだ誰が!? そ、その古文書の出版元はどこだ!? 即刻名誉毀損で訴えてくれるわあああああああああッッッッ!』
己の姿を本来の恐るべき巨躯へと戻すことも忘れたメルダシウスは、その顔から尻尾の先まで真っ赤にして激高する。
小さな羽をぱたぱたと羽ばたかせ、両手両足に尻尾をぷりぷりと振りながら疑惑を否定する姿はもはやどこぞのマスコットである。
「うーむ……やはりそう簡単には信じられぬな。そのように必死に否定する辺りも怪しさに拍車をかけているような……?」
『なっ……!? だ、だが我は断じてボッチでは……ッ!』
「確かに、古文書の記述だけで貴様をボッチだと断定するのもフェアではないか……ならばこうしてはどうだろう? 貴様のその究極のパワーとやらで、俺たちに貴様がボッチではないと証明して貰うというのは?」
『証明だと!?』
「そうだ。先ほど貴様自身も言っていたではないか。貴様の力を持ってすれば、出来ぬ事などないのだろう?」
「大魔王さま……っ」
「魔王ざま……!」
メルダシウスの剣幕を受け、エクスは実に神妙かつ真剣な腕組み思案顔で何度も頷きながらそう提案した。
そしてその両者の様子を、テトラを初めとした管理人チームとフィオは固唾を呑んで見守る。そして――!
『いいだろうッ! 我は究極のドラゴンメルダシウス! 我がボッチではない証明など、いくらでもしてくれるわッッ!』
「そーかそーか! さすがは無敵で最強のドラゴンだなー! ならば早速〝この紙〟にサインを頼む!」
『サイン?』
果たして、エクスの提案に邪竜は迷うことなく飛びついた。
それを見たエクスはすかさずエプロンのポケットから一枚の紙切れとペンを取り出すと、どこからか召喚した記帳台を空中に浮遊させた。
「うむ。この紙はな、ソルレオーネへの〝入居届け〟だ」
『入居届け……だと? それが我のノーボッチの証明とどう関係しているのだ?』
「貴様には、このソルレオーネで俺たちと共に一週間ほど暮らして貰う……! 貴様が本当にボッチではないというのなら、ほんの一週間であっても友人知人の一人や二人簡単に作れるであろう?」
『え”……ッ!?』
瞬間。
メルダシウスは潰れたカエルのようなうめき声を上げて青ざめる。
「どうしたのだ? 受けないと言うことは、やはり貴様はボッ……」
『だあああああああああッ! な、何を言うか! できる! で、出来るに決まっているだろう!? だ、だが……その……い、一週間で友達を作るというのは……ほんの少しシビアかなと……』
「そうか? ならば一ヶ月ではどうだ、それならば何も問題あるまい?」
『い、いっかげ……!? うぐぐ……ッ! も、もちろん問題ないぞ! ペンをよこせ! サインしてやるッ!』
「おお、なかなか達筆だな! 流石は最強のドラゴンだ!」
『ふ、フハハハハハハッ! そーだろー!? そーだろー!? ならば存分に見ているが良い……一ヶ月後、我がボッチではないと〝証明完了QED!〟した暁には、怯え竦む貴様らごと何もかも消し去ってやるからなァ……!?』
「くっ……! なんという威圧感……これが最強のドラゴンの力だというのか!? これではもはや、我々は滅ぼされるのを大人しく待つことしか出来ぬではないかー!?」
『アーーーーッハハハハハハハ! 一ヶ月後、恐怖で泣き叫ぶ貴様らの姿を見るのが楽しみだぞ! クハハハハハハハハ――ッッ!』
――――――
――――
――
「――というわけで、本日よりソルレオーネに引っ越してきたメルダシウスさんだ。みんなも仲良くしてやってくれ!」
『ふぇぇえ……っ!?』
「わぁ……! こんにちはメルダシウスさん! これからよろしくお願いしますっ」
「よろしぐ……!」
「よろしくっス、ドラゴンさん!」
「初めまして! 私はカルレンス・ローゼンハイム。困ったことがあったらなんでも相談してね!」
「ニャー」
それはまさに電光石火の
世の全てを滅ぼさんと天より降り立った邪竜が姿を現わしてから、僅か数刻の間に起きた展開だった。
ソルレオーネ中層階の管理人室前。
そこにはエクスに付き添われてもじもじと赤面する、金髪碧眼の可愛らしい少女――メルダシウスが立っていたのだった。
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