最後の戦いに挑む大魔王
『オオオオオオオオオオオッ!』
「来たか……!」
ラナによってその来訪を予見されてから数日の後。
そびえ立つソルレオーネの上空、ついに〝それ〟は現れた。
『我が名はメルダシウス……! あまねく世と命の全てを握る力の頂点なり! 我が力の一滴を退けて図に乗る愚か者共……我が姿と力の前に絶望するが良いッ!』
「はわ……はわわ……っ!?」
「お空が……ぜんぶ、ドラゴンになっだみだい……」
「と、とんでもない大きさですよ!? フィオレシアさんとエクスさんは、あんなのと戦うつもりなんですか!?」
「ひええええっ!? 〝超エネルギー観測君10号〟のゲージもグングン上昇してるっス!?」
それはまるで、空そのものが一個の生命体によって蓋をされたかのような光景だった。
雷鳴轟く黒雲の狭間。
うごめくのは闇とも影ともつかぬ漆黒の体躯。
その声は鳴り響く雷鳴すらかき消し、母なる大地すら恐怖に怯えるようにガタガタと鳴動していた。
ソルレオーネの屋上から空を見上げる管理人チームと、どうせ最後ならとアシスタントを申し出たカルレンスは、その圧倒的絶望と恐怖の襲来に為す術も無く立ち尽くすことしかできなかった。
『グググ……! どうした、このちっぽけな世を任せていた我の欠片を倒した不届き者はどこにいる? 我が真の力のあまりの強大さに、怯えることしか出来ぬか?』
渦巻く黒雲の向こう。
漆黒の闇から覗く巨大で邪悪な眼光がソルレオーネを捉える。
元より、邪竜はそのためだけにここまでやってきた。
邪竜本来の力であれば、このように姿を現わさずとも、世界の外からの攻撃で何もかもを消し飛ばすことも出来たのだ。
それでも尚こうして姿を見せたのは、ただ自らに逆らう愚か者に徹底的な絶望と恐怖を与え、その上でなぶり尽くすためだった。そして――。
「――俺ならばここにいるぞ!」
『ほう……?』
今から始まる凄惨なショーを心待ちにするかのような邪竜の呼び声。
その声に応えるようにして、普段どおりのベージュのエプロンを身につけたエクスがソルレオーネ屋上からさらに伸びた細いアンテナの先に、腕組み直立の姿勢で現れたのだ。
「俺の名はエクス! このソルレオーネの管理人にして、元大魔王のロード・エクスだ!」
『貴様のことは〝我がしもべ〟から聞いているぞ。我が力の一欠片を倒しただけで調子に乗り、自らが力の頂点になったかのようにいい気になっているとなァ……ッ!』
「ふん、ならばどうするというのだ?」
『知れたこと……! 貴様らが住むこの世界を徹底的に踏みにじり、その上で貴様の身も心も蹂躙し尽くしてくれる! 我に逆らったこと、何億回でも後悔させてやろう!』
その言葉と同時。黒と闇に染まった天がひび割れたガラスのように砕け、無数の流星がエクス目がけて降り注ぐ。
しかしその範囲は桁違いだ。エクス目がけてとは言う物の、邪竜の力で生み出された流星の数は数千を超える。
その一つでも地上に落ちれば、何万という命が瞬く間に消え去るだろう。だが――!
「まったく、こらえ性のないところまであの竜と同じとはね! いくよ、ニルヴァーナ!」
「ぼくもやりますっ! 転生スキル――〝
「うごううあーーーー!」
「カルレンスさんとユンさん達も一緒にお願いするっス! パムリッタイノベーションの最終兵器――〝11次元爆縮破砕砲君3号〟ッスーーーー!」
「わ、わかった!」
「よし……やるぞみんな!」
「任せて下さい兄貴ー!」
「世界を救ったって書けば、推薦合格間違いなしだよね!?」
「なにこれー! けっこう楽しいかもー!」
『なんだと!?』
だがしかし。邪竜によって放たれた流星は、そのことごとくが焼き尽くされ、両断され、砕かれ、跡形もなく消え去り、光の渦に飲み込まれる。
フィオの愛の炎が。
テトラの異世界の力を無効化するチートスキルが。
クラウディオの新世代ゾンビの力が。
パムリッタの科学と、それを扱うカルレンスやバイト組が。
ソルレオーネを中心として四方へと散ったいくつもの力。
エクスがこのソルレオーネで出会い、そして絆を結んだいくつもの力は、見事に邪竜の放った破滅の流星を打ち砕いて見せたのだ。
「どうしたドラゴンよ! この程度の力ならば、俺たちが倒したこの世界の貴様の方が強かったのではないか!?」
『ムシケラ共が! 調子に乗りおってぇええええええッ!』
上空へと飛翔したエクスが、漆黒の雷光と共に最後の流星を破壊する。
目論見が外れた邪竜は悔しさを隠そうともせずにうめくと、今度こそはと更なる攻撃の構えを取る。
「あれれー? これじゃあなんだか拍子抜けっスねー? 戦闘力もそこまで高くなってないっスよー?」
「そ、そうですねっ! ぼくも、この前戦ったドラゴンさんの方が強かった気がしますっ!」
「ごれなら……オイラたぢゾンビのほうが、づよい……」
『な、何を言うかムシケラ共!?』
「ふむ……全ての世界を支配する竜が相手なら少しは楽しめるかと思ったけど、期待外れだったかな?」
『き、ききききき……! き……貴様らああああああああああッ!?』
しかしどうしたことか、邪竜の初撃を見事に防ぎきった管理人チームはなにやら急にやる気を失い、各々あからさまに退屈そうな様子を見せ始める。
それを見た邪竜はあまりの怒りと屈辱に天と地双方を震わせると、もはやなりふり構わぬと世界全てを滅ぼす一撃を放たんとした。だが――。
「まあそう言ってやるなお前たち! このドラゴンは確かに強いが、誰にでも出来る〝簡単なこと〟ができなかったりするお茶目な奴なのだ!」
『我に出来ないことだと!? そのようなこと存在せぬわッッ!』
「ほっほーう? しかし俺の読んだ古文書には、確かに貴様に出来ないことが書かれていたのだがなー?」
『なんだそのけしからん〝ねつ造古文書〟は!? 一体我に何が出来ぬと書かれていた!?』
破滅の力を放つ直前。エクスの口にした言葉によって激高の度合いをさらに深めた邪竜は、強い怒りと憤りを炎へと変えてエクスに迫る。
「聞きたいならば教えてやっても良いが……その、なんだ。あまり大きな声では言いにくい話でな。貴様とて、自らの〝弱点〟を公衆の面前で晒されたくはなかろう?」
『ぬうううう!? ならばこれでいいか!? 一体なんだというのだ!?』
「すまんな! では少々耳を借りるぞ……」
謎の気遣いを見せるエクスに誘われた邪竜は一気に小さくなってふよふよとエクスの傍まで飛んでくると、怒り狂いながらも自身の尖った耳をエクスの口元まで律儀に寄せた。
「(それでだな。ここだけの話……なんでも貴様、ボッチらしいではないか?)」
『はああぁああああああああああああッ!?!?!?!? ぼ、ぼぼぼぼぼぼぼぼ、ぼぼ、ぼぼぼぼぼぼボッチちゃうわああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!?!?!?!?』
瞬間。ソルレオーネの近傍半径10kmの範囲に、邪竜が発した『ボッチちゃうわ』という悲痛な泣き声が響き渡ったのだった――。
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