幸せいっぱいの大魔王
「ご結婚おめでとうございます、大魔王さまっ!」
「おめでど……ございます。魔王ざま……」
「めでたいっス! 自分たちもテレビで見てたっス!」
「ファーッハッハッハ! 感謝するぞ我が親愛なる同僚たちよ! 結婚したからと言って特に変わったことは何もないが、これからもよろしく頼む!」
エクスとフィオの結婚会見から一夜明け。
テトラを初めとした管理人チームは、一躍時の人となったエクスを笑顔で出迎えた。
常人ならばあまりの多忙さに過労死してもおかしくない程のハードスケジュールだったが、元よりエクスは大魔王。
24時間連続どころか2400時間は余裕で戦えるため全く問題なかった。
「あ、あんた……マジもんの大魔王だったんだな」
「大魔王の頭には角が生えてるってママから聞いてたのに!」
「てっきり、ただ偉そうなだけの大男かと思ってました……」
「わたしたちって、すごい有名人と一緒に働いてたんだねー」
「そのとおりだ! 貴様らもバイトとはいえ我が大魔王管理人チームの一員……将来の魔軍総司令候補としてしっかり鍛えてやるから、光栄に思うのだぞ!」
「そういえば、理事会のみなさんからもお祝いの品が届いてますよ。理事長から直接大魔王さまにって」
「ほう、ラナの奴はやはり気が利くな! 後で確認するとしよう!」
といった感じで、世間と同様マンション内でも二人の結婚は祝福ムード一色。
それまでただの管理人という扱いだったエクスへの入居者の目も、今回の発表以来明らかに有名人を見るそれに変わっていた。
「ケド、よがっだんでずが……? 結婚式や、りょごう……まだしでない……」
「そういえばそうっス! せっかくの新婚なのに、働いてていいっスか!?」
「ハッハッハ! 俺はともかく、フィオは普段からむちゃくちゃ忙しいからな! フィオはそのためならスケジュールを調整すると言っていたが、式も旅行も逃げはしない。焦らず落ち着いた頃合いに計画するつもりだ!」
「たしかに色々と急でしたもんね」
「もちろんその時は貴様らも招待するぞ! 今から予定を明けておくが良い! ファーッハッハッハ!」
満面の笑みを浮かべながら、エクスはそのまま自身の机へと向かう。
エクスにとっては、こうして無事に就職できたからこそフィオとの関係を目に進めることもできたのだ。
いかに嬉しくとも、浮かれすぎてクビになるわけにはいかないと、いつにも増してキリリとした様子で管理人としての日々を開始する。
「今日も特に変わった案件はなさそうだな。上がっている苦情の内容も平和そのもの……今日は俺とパムリッタが上層階の担当だ。テトラはユンと愉快な仲間たちを率いて中層階を頼む!」
「はいっ!」
「任せて下さいっス!」
「オイラは、こごで待機……!」
「うむ! 入居者に何かあった時、管理人室が空では対応できん! 留守を守るのも重要な役目だ! 頼んだぞ、クラウディオ!」
「あい……! 魔王ざま……!」
「俺たちの纏め方雑すぎだろ!?」
「愉快な仲間たちって……」
フィオという掛け替えのない伴侶を得たことで、エクスは以前にも増してやる気に充ち満ちていた。
そんなエクスに触発されたのか、普段はやや気力に欠けるユンら学生バイト四人組もキビキビと業務の準備に取りかかる。
全ては順風満帆。
エクスもフィオも、このソルレオーネの管理人チームも。
まるでこの世界全てが明るい明日へ向かってレッツゴーしているような、そう思えるほどの希望に満ちた朝だった。
だが、その時――。
「――あの! 管理人のエクスさんいますか!?」
「むっ!? この声は――!?」
その時。
管理人室のドアの外から聞き覚えのある青年の声が響いた。
その声を受けたエクスがすぐさまドアを開けると、そこにはかつてのフィオの許嫁にして、先日のストーカー事件でも世話になったナイスガイ。カルレンス・ローゼンハイムが血相を変えて立っていたのだ。
「やはりカルレンスではないか! そのように慌てて、いったいどうしたのだ!?」
「た、大変なんです! 実は、私の知り合いから連絡があって……! 今度、このマンションに引っ越してくるエルフの方が……!」
「エルフ? なぜそれが問題なのだ――」
ピリリリリリリリ!
息も絶え絶えと言う様子のカルレンスをひとまず室内に招き入れたのと同時。
エクスの持つスマートフォンに着信が入る。
その着信の主がフィオであることを確認したエクスは、ひとまずカルレンスをテトラに任せ、フィオからの連絡を受ける。
『やあエクス。君の最愛の妻だよ』
「夫のエクスだ! 悪いが、少々立て込んでいるのだ。愛の定期連絡ならばまた後で――」
『悪いけど、そちらの案件を後回しにして貰ってもいいかな? ついさっき私の所に連絡があってね。今日から三日後、エルフの王族がソルレオーネに入居することになった』
「む!? ちょうど今俺が受けている話もそのエルフの件だぞ! それのいったい何が問題だというのだ!?」
『それなら好都合。いいかいエクス……よく聞いて欲しい。三日後にソルレオーネにやってくる高貴なエルフの姫君は〝呪われている〟。彼女が滞在する場所は、城だろうと森だろうと村だろうと〝必ず燃える〟。恐らく、それはソルレオーネも例外じゃない――』
マンション管理業務日誌#05
新規入居者の安全確保――業務開始。
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