姫と謁見する大魔王
「エルフ族にはいくつもの小さな王朝があります。彼女の一族も私のローゼンハイム家とは以前から親交があったんです」
「だがこの十年、彼女の一族は不自然に政治権力の中枢から離れていた。まるで人々の目から距離を置くようにね」
「その理由が姫にかけられた呪いだったというわけだな。しかし住む場所全てを燃やす呪いとは……引っ越しどうこう以前に、なんとかしてやりたいところだが……」
呪われたエルフの姫が、ソルレオーネに転居を希望している。
居住した地に〝壮絶な火災をもたらす〟という呪われたエルフの話を聞いたエクスは、一報を受けたフィオと、姫君の一族と懇意だというカルレンスを伴ってエルフの住処へと向かっていた。
「相手も由緒正しきエルフの王族だ。当然呪いについては散々調べただろうね。その上でソルレオーネに転居しようというんだから、なにか考えがあるのかもしれない」
「もしかしたらもう彼女の呪いは解けていて、風評被害だけが残っているってことは考えられませんか? そんな呪いにかかっていたんじゃ、受け入れてくれる場所も限られるでしょうし……」
「いや……恐らくその姫とやらの呪いは健在であろう。そうでなければ、王族が〝このような場所〟に住む必要はあるまい」
皇都を離れ、姫が住むという〝沼地〟へと向かう三人。
運転手付きのオフロードカーがぬかるんだ地面を進み、三人が座る後部座席も大きく上下に揺れる。
やがて車が目的地に到達すると、車を降りた三人はゆっくりと沼地へと足を踏み入れた。
「エクスの言うとおりだ。エルフにも色々いるけど、こんな所に好き好んで住むエルフは私も聞いたことがない」
姫が住むという湿地は鬱蒼と生い茂ったシダ植物に埋め尽くされ、泥と苔特有のなんとも言えない臭いが充満している。
日の光もまともに届かない湿った大地は、たしかに一般的なエルフの住処とは相当に乖離していた。
「――お待ちしていました。フィオレシア・ソルレオン様。ロード・エクス様。カルレンス・ローゼンハイム様。私はセバス・エア・ローディリオン。姫の侍従を務めております」
到着した三人を待っていたのは沼と泥だけではなかった。
停車した車の前。たちこめる霞の中から、見目麗しいエルフの青年が音もなく現れる。
「元大魔王にして、ソルレオーネ管理人リーダー! ロード・エクスだ! ファーッハッハッハ!」
「お久しぶりですセバスさん。本日はお招き下さりありがとうございました」
「こちらこそ。急な申し出にも関わらずこうしてご配慮を頂けたこと、心から感謝しております。どうか我らの〝高貴なる新芽〟にお力をお貸し下さい……」
「それを決める前に、まずは君たちの姫君と直接話をさせて貰っても良いかい? 私たちとしても、すでに大勢の入居者が暮らすソルレオーネに無策で危険因子を招くことはできないからね」
「もちろん構いません。どうぞこちらへ、足元にお気をつけくださいませ」
セバスと名乗ったエルフの青年は恭しく頭を下げると、まるで滑るように湿地の上を進んでいく。
彼に続いて沼地をさらに進むと、やがてエクス達の目に小さな小屋が飛び込んできた。だが――。
「我らが姫はこの中でお待ちです。ところで、姫は少々――」
『ウヒョヒョオオオオオオオ――!』
「なんだこの声は!?」
だがその時。突然小屋の中から奇声が聞こえ、それと同時に天にも届かんばかりの大爆発が小屋の屋根を高々と吹き飛ばしたのだ。
「うわああっ!? い、いきなり爆発しましたよ!?」
「ほう、これはまた盛大な歓迎じゃないか」
「まさか、これが呪いの力だというのか……!? 想像していた物より随分と直接的だが!?」
「い、いえ……! 恐らくですが、これは呪いではなく……」
「火ーーーー! ひっひっひ! 今回のお火薬はなかなか良く燃えましてよ~! ですがまだまだ……わたくしが追い求める〝究極のお爆発〟には、ぜんぜんさっぱり遠く及びませんことよ~~~~!」
目の前で炸裂した豪炎の柱。
それを見上げるエクス達の前。
燃え上がる炎と共に両手を高々と突き上げ、炎よさらに燃え上がれとヤバすぎる台詞をのたまう一人のエルフの少女が現れる。
「フィアマ様! また勝手にそのような危険な実験を……!」
「あらセバス、お帰りになっていたのですわね? もしかしてそちらの皆様方が、貴方がお話しされていた〝どのような爆破実験をしても平気なお最新型おマンション〟の方々かしら?」
「オイイイイイイイイイイイ!? 呪いなど関係なくこやつ自身が明らかに超危険人物なんだが!? どこからどう見ても完全にクレイジーサイコ爆弾魔ではないか!?」
「いやはや、そう言われますとこちらとしてもなかなか痛いところで……ですが呪いの話は本当なのです! 信じて下さい!」
「マジか!?」
「火~~ひッひッひッ! あらいけませんわ。わたくしとしたことが、このようなお美しいお爆発を目にするとついついおヨダレがこぼれ落ちてしまいますわぁ! ごめんあそばせ~~!」
「はわわ……! 今回はさすがに大丈夫だろうと思っていたのに、フィオレシアさんと一緒だとやっぱりこうなるんだぁあああ!」
「ふむ、爆発と火力の魅力に取り憑かれたエルフの姫君か……それに呪いがどんな関わりを持っているのか。これは俄然興味が沸いてきたよ」
それまで沼地を覆っていた湿気――その全てを蒸発させるような灼熱の炎。
赤々と燃え上がる炎に照らされながら、フィオはその先でニコニコと笑みを浮かべるエルフの少女をじっと見つめるのであった――。
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