爆薬令嬢と話す大魔王


「先ほどは大変失礼いたしましたわ~! わたくし、目の前に素敵なお火薬があると着火せずにはいられないのですわ!」


「――とまあ、我らが姫はこのような性分なのですが、ぜひ皆様が管理するソルレオーネに入居させていただけないかと……」


「いやいやいやいや!? いったい今までのどこに入居が認められる要素があったのだ!? どう考えても危険すぎるぞ!?」


 爆発と炎にまみれた〝むせる出会い〟から数分後。


 爆発の衝撃で屋根が吹き飛び野ざらしとなった小屋の中で、エクス達は問題の姫君――フィアマ・エア・フォレスティリスと、粗末なちゃぶ台を挟んで向かい合っていた。


「そうご心配なさらなくても大丈夫ですことよ? これでもわたくし、TPOはわきまえておりますの。おマンションで住むことになれば、ちゃーんと朝の九時から夜の十八時までのお時間にだけ、お爆発させますわ~!」


「爆弾をピアノかなにかと同列に語るでない! それに貴様のようなちびっ子が火薬だの爆弾だの、エルフの義務教育はいったいどうなっているのだ!?」


 不思議そうに首を傾げるフィアマに、エクスはまるでどこぞの教師か父親のように不安を滲ませる。


 だがそれもそのはずで、炎が消え去った後のフィアマの容姿は、まさにエルフの姫君という言葉がそのまま当てはまる年端もいかない少女だったのだ。

 エルフにしては珍しい清流のような青い髪に青い瞳。

 人間で言えば七歳か八歳ほどに見える小柄な体に、髪と同色の淡い青みがかったドレスが良く似合っていた。


「落ち着いてエクス。まずは彼らの事情を聞こうじゃないか。彼女がこうなったのも、もしかしたら呪いが関係しているのかもしれないだろう?」


「はっ!? た、たしかにフィオの言う通りだ……一方的な物言いをしてしまったこと、謝罪する!」


「いえ……エクス様がそのように仰るのも無理はありません。実際、高貴なる我らが姫であるフィアマ様がこのような湿地に追いやられているのも、同族であるエルフですら〝姫を見捨てているから〟なのです……」


「そんな……!? エルフ族の結束は、どのような刃でも切れないと聞いているのに……」


「本来であればそうなのですが……しかしフィアマ様の呪いに関しては、もはやこのように隔離する他なく……」


「仕方ありませんわ~! わたくしがいては、いつ皆様のお屋敷が燃えてしまうかわかりませんもの~~~~! 世知辛い世の中ですことよ~~!」


 呪い。


 その単語が話題に上るのと同時。フィアマはその幼い横顔に、深い寂しさと〝諦め〟の色を浮かべた。そして――。


「ですからわたくし決めましたのっ! 炎のお呪いから逃れられないというのであれば、わたくしも火とお爆発とお火薬を大好きになればよいのですわ~~~~っ! 火を持って火を制すですわ~! 火~~ひっひっひっ!」


「ああ……フィアマ様! なんと健気でおいたわしいことか! えぐ……えぐ……っ!」


 目の前に座るフィアマはそう言うと、隣で涙を流すセバスをよしよしとなだめる。

 しかしもう片方の手では、まるでお手玉でもするかのようにいくつもの小型の爆弾を器用に放り投げていた。


「うぬぅ……その発想は斜め上過ぎるが、呪いが原因ならば力になってやりたいところだな……」


「フィアマ様は明るく振る舞っていらっしゃいますけど、普通に考えるととても笑えるような境遇じゃないですよね……そ、それはそれとして、爆弾が怖すぎるので外で待っていてはだめでしょうか!?」


「ふふふ……折角なのだからもう少しここにいたまえよカルレンス君。君の家の今後のためにも、エルフに恩を売るまたとない機会じゃないか」


「ひえっ!? そ、それはそうですけど……」


 それまで黙って会話に耳を傾けていたフィオが、納得したように口を開く。


「事情はわかった。その呪いをなんとかできれば、ソルレオーネへの入居も前向きに検討できるだろう」


「なんと……!」


「まあ! 本当によろしいのでして!?」


「ソルレオーネの上層階には強力な防御結界が張られた部屋もある。姫君がマンションのルールに則って周囲に配慮できるというのであれば、先ほどくらいの爆発ならどうとでもなるさ。ただし――」


「ただし……? どうしたのだ?」


 入居を前向きに検討するというフィオの言葉に、フィアマとセバスは共に驚きの声を上げる。


 だがそこでフィオは目線を二人から隣に座る最愛の夫――エクスへと向けると、それまでの余裕ある態度から一転。真剣な表情で自身の考えを告げた。


「――ただし、あくまで呪いを消し去ることができたらの話だ。姫君にかかっているその呪いは、私たちでも簡単には解呪できないだろうからね」


「ということは、フィオはこの呪いの正体に気付いたというのか!? 俺にはさっぱりわからんのだが!?」


「もちろんさ。なにせ私は、この呪いと〝よく似た呪い〟にかかった最愛の大魔王を十年間ずっと見ていたからね。いいかいエクス、姫君にかかっている炎の呪い……恐らくその出所は邪竜メルダシウス……君にかかっていた呪いと同じだよ」

 

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