みんなで頑張る大魔王


「さあ、おいでニルヴァーナ……! 久しぶりに獲物を狩らせてあげるよ!」


「フッ……俺たちがこうして共に戦うのは〝あの時以来〟か。まさか相手まで同じとは因果なものだ!」


「そうだね。けどあの時と違って、今の私たちは立派なラブラブ夫婦だ。いくら考えても負ける理由が見つからないね」


「ファーハッハッハ! その通りだ!」


 フィアマの呪いを呼び水に現れた邪竜を前に、再び並び立った勇者と大魔王は、固い絆で結ばれた視線を交え微笑み合う。

 フィオの手に握られた聖剣ニルヴァーナがエクスへの愛で煌々と輝き、凄絶な漆黒の雷を纏ったエクスは今や最愛の伴侶となった勇者を庇うようにして前に出た。


「奴の相手は俺とフィオでやる! テトラは後方で待機! クラウディオとパムリッタは手筈通り頼むぞ!」


「は、はいっ!」


「あい、あい……さー! 魔王ざま……!」


「りょーかいっス! やってやるっス!」


『繋がり……絆……! 憎い……! 群れる者ども……弱き者ども! 我はただ一つ……最強にして孤高の竜なり……!』


『あらあら~~!? わたくしの〝炎おセンサー〟がビンビンきてますわ~~!? もしかして、今のお外はとーーってもわたくし好みの素敵なお世界になっているのではありませんこと!? お出かけしても構いませんかしらッ!?』


「いかーん! 貴様はとにかく大人しくしておれ!」


 全長300メートルを誇るソルレオーネの威容をさらに上回る邪竜メルダシウスの炎。


 その姿は邪竜を象った炎そのもの。


 かつてエクスとフィオが対峙した時とは違い、より純粋な憎悪と怒りの化身となった竜の怨念は、ただその場にいるだけで周囲を焼き尽くすほどの灼熱を放っていた。だが――!


「アブソリュートバリア君3号! オカルト捕獲オンキリキリバサラウンバッタ君1号! おまけにスーパーヒエヒエフリーザー君8号! まとめて展開っスよーーーーっ!」


 天をつく巨大さの邪竜の周囲を、パムリッタの機械が構築した二つの光の壁が覆い尽くす。

 隙間なく広がった光壁は邪竜の熱と動きを妨げ、同じくパムリッタが起動した超弩級エアコンによって光壁内の湿度、温度、ならびに空調まで完璧である。


「オイラ、ひめざま……守る……! ウゴゴーーーー!」


『んまぁー!? 突然お部屋がふわふわと持ち上がりましてよ~~~~!? わたくしとっても楽しいですわ~~! くるしゅうないですわ~~!』


 さらには二の腕を丸太のように膨張させたクラウディオが、邪竜の足元からフィアマのいる小部屋を持ち上げて安全な場所まで移動させる。

 部屋の重さは数トンほどもあるが、新世代のゾンビは筋トレも万全なのだ。


『我が前で群れるか……! 許さんぞ、ムシケラ共……! 我が怒りの炎を受けよ……!』


 光壁内部に捕らえられた邪竜は窮屈そうに身を屈めると、その不定形の肉体全てを炎と化してフィアマ目がけて襲いかかる。

 

「そうはさせん! いくぞフィオ!」


「いつでも!」


 だがしかし、立ち塞がるもの全てを焼き尽くすはずの邪竜の炎は瞬時に吹き上がった〝もう一つの炎〟によって阻まれる。

 邪竜めがけて飛翔したフィオが、より赤く激しく燃え上がる聖剣ニルヴァーナの刃を真っ向から叩きつけたのだ。


『アガ……ッ!? 我が炎が!?』


「ウフフ……! やっぱり〝本体〟に比べると大したことないね。それとも、私のエクスへの愛が強くなりすぎたのかなッッ!?」


『ガ……ッ!? ガアアアアアアアアアッッ!?』


 当初は拮抗したかに見えた二つの炎。

 しかしその拮抗は一瞬で崩れる。


「ううん……私からエクスへの愛に〝強すぎる〟なんてことはない。エクスはいつだって私の想いを受け止めてくれた。エクス以外の誰もが逃げ出すような私の想いをすべて受け入れてくれた! 結婚した今だって、それは変わらないッッ!」


『ギエエエエエエエエッ!? あ、熱いいいいいいッッ!? わ、我が体が燃える!? 我が炎が、焼き尽くされている!?』


「ああ、ああ……! エクスエクスエクスエクスエクスエクスッ! ああああああああああああああもおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ! 君は一体どこまで私を好きにさせたら気が済むんだいッッ!? 私をこんなに狂わせた責任は、ぜっっっっっっっったいに取って貰うからねッ!?」


『アバババババ……! こ、この炎は……まさか、我のことなど眼中にないのか……!?』


 フィオの炎は勢いを増し続け、山ほどもある邪竜の炎を一呑みにしようとその狂暴なあぎとを開く。さらに――!


「――責任ならちゃんと取っておろうが!?」


『グギッ!?』


 漆黒の雷光が奔る。


 フィオの炎に飲み込まれた邪竜の影が、その意識に大魔王の閃光を見る。

 激突するフィオと邪竜のさらに上空。

 天から墜ちる稲妻と化したマンション管理人が、憎悪に燃える邪竜めがけ一直線に突撃する


「たとえ貴様が何度現れようと、俺たちがいる限り貴様の望みが叶うことはないッ! これからも俺たちは互いに手を繋ぎ――!」


「――共に歩んで行くんだからね!」


『ギャアアアアアアアアア――ッッ!?』


 一閃。


 紅蓮の炎を両断する漆黒の雷光が、邪竜の思念を射貫いた。

 元よりフィアナに取り憑いていたこの呪いは、十年前に現れたメルダシウスに比べればあまりにもか弱い。

 

 呪いの根源たる邪竜本体すら打倒し、今やさらなる強さを得た二人にとっては、最初から苦戦しようもない相手――そのはずだった。


「っ!? エクス――!」


「なに!?」


 その時。


 炎を砕いた二人の背後で、一度は霧散したはずの邪竜の力が再び収束する。

 邪竜は確かに大きなダメージを負っていたが、なぜか倒すには至っていなかったのだ。


『お、オノレェェェェ……! せめて、道連れを……! 孤独の闇へ……一人でも!』


「どういうことだ!? 今の一撃で邪竜の力は全て消し飛ばしたはずだぞ!?」


「この力……魔力や呪いとは別の気配……っ!?」


 一瞬の疑念。


 予想外の展開にほんの一瞬動きを止めた二人の隙をつき、邪竜は残された力をかき集め、細く鋭く尖らせた炎となってフィアマのいる小屋めがけて疾走する。

 すぐさま二人は阻止に動いたが、全ての力を個人の殺傷へと注ぎ込んだ炎には一手遅れていた。しかし――!


「――姫、ざま!」


「転生スキル――〝異能掃除人チートイレイザー〟!」


『な――ッ!? なにいいいいいいいいい!?』


 くぐもりながらも力強いクラウディオの声と、凜とした鈴の音のようなテトラの声。

 まるで対極の二つの声が、炎と雷雨に覆われたソルレオーネ前に響いた――。


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