助けられる大魔王
『ふざけやがって……! どうやって俺たちに気付いたのかは知らねぇが、ただじゃおかねーぞ!』
「なぜだ!? なぜこいつらの姿が見えない!? ゴーストでも魔術でもないのならば、いったいどうやって姿を隠しているというのだ!?」
パムリッタの用意したゴーストバキューム君三号と、エクスの
管理人チームが用意した二つの策は共に効果を及ぼさず、攻撃を受けたと悟った犯人の声が激しい怒りに震えた。
『覚悟しろお前ら! 俺になめた真似をする奴らは、どいつもこいつも吹っ飛ばしてやる!』
『ね、ねぇ……もう謝った方がよくない~? 絶対にバレないっていってたのに、思いっきりバレてるじゃん!』
『そ、そうですぜ兄貴ぃ! さっきは大丈夫でしたけど、こいつらも妙な力が使えるみたいですし!』
『うるせぇ! お、俺は〝この世界〟でようやく無敵の力を手に入れたんだっ! もう誰にも俺を馬鹿にもさせねぇ、見下させもしねぇ!』
「この世界って……もしかして、この人……!?」
「よくわからないっスけど、これだけ話してたら大体の位置はわかるっス! 捕獲ネット射出っス!」
「待てパムリッタ! 迂闊なことは……!」
なにやら言い争いを始めた犯人グループ。
それを聞いたパムリッタはすぐさま背中のバッグパックから巨大なバズーカを取り出すと、声のする場所めがけ巨大なワイヤーネットを撃ち放つ。
『だから……無駄だって言ってんだろうがよおおーーーーッ!』
「ぴえーーーー!? 捕獲ネットが完全に素通りしたっス! ただ消えてるだけでもないっスか!?」
「ぐぬ!?」
「アバーーーー!?」
「ひえええっ!?」
瞬間。パムリッタの二射目を受けた男の怒りに満ちた声が響く。
そしてそれと同時、展望ラウンジに置かれた無数の家具が一斉に浮遊。食器類が一斉に棚から飛び出し、室内を猛烈な勢いで飛び交い始める。
エクスは即座に自らの魔術で調度品の暴走を止めようと試みるが、先ほどと同様、時すら逆行させるエクスの魔力を持ってしても荒れ狂う皿一枚、スプーン一つすら止めることができない。
「ば、馬鹿な……! 大魔王である俺の力が通じないというのか!?」
「ひえ~~! なんとかしてくださいリーダー! 助けてくださいっス~~!」
室内を飛び交う食器や家具類はやがて制御を失い、ラウンジの壁面や窓ガラスに激突。高所用の頑丈なガラスに亀裂が走り、一瞬にして砕け散る。
同時に、地上300メートルの冷たい大気が猛烈な突風となって吹き込み、風で飛ばされた大きなカーテンが、ぼーっと突っ立っていたクラウディオの体に絡み、ゾンビ巻き寿司に変えた。
『わああああっ!? なにやってるんだ君は!? いくらバレたからって、どうしてここまでする必要があるんだよっ!? こんなことしたら、本当に取り返しがつかないじゃないかっ!?』
『止めて下さい兄貴ーーーっ! どうしちまったんですかぁああああ!?』
『うるせぇ! 俺を攻撃する奴は、どういつもこいつも消えちまえばいいんだ!』
「あうあー……!? オイラ、もうだめ……ごめんなざい、魔王ざま……」
「くっ……! しっかりするのだクラウディオ! 俺の命に代えても、誰一人犠牲にはしないぞ!」
それはまさに阿鼻叫喚の渦。
どうやら犯人たちにとっても想定外だったらしいこの状況で、ついにエクスは多少の被害を受け入れてでもこの災厄を止める決意を固める。しかし――。
「待ってください大魔王さま……っ! この人たちの相手は……ぼくがしますっ!」
「なんだと……!?」
その時。
荒れ狂う暴威の中、一人の少年の声が凜と響く。
振り向いたエクスの視線の先――そこには恐怖に震えながらも愛用の箒を必死に構え、天使のような可憐さに悲壮な決意を固めたテトラが立っていたのだ。
「わかったんです……! 多分この人たちは……ううん、この〝人〟は……〝ぼくと同じ〟なんだって!」
「テトラがこの犯人と同じだと? それはどういう……」
「説明は後でしますっ! 大魔王さまは、クラウディオさんとパムリッタさんを!」
その青い目で嵐のような惨状を見据えたテトラが前に出る。
普段と同じ小動物のような愛くるしさはそのままに、しかし有無を言わせぬ決意を秘めたテトラの言葉に、エクスはただ頷くことしかできない。
『くそ……くそくそくそっ! やめろ、やめろ! 俺は……俺は今度こそ楽しく暮らすんだ……! この力を使って……平和で、安全な世界で……!』
「ならそうしましょうよ……せっかくこんなに素敵な世界に来られたのに、それを自分で壊すなんて……そんなの、辛すぎるじゃないですかっ!」
『えっ?』
荒れ狂う災禍の中、姿の見えない犯人に呼び掛けるテトラ。だが彼にも犯人の姿は見えていないはずだ。
しかし彼のその大きな瞳は、犯人がそこにいると確信しているかのように、ただ一点だけを見つめていた。そして――!
「転生スキル――〝
『うえ!? うわあああああああああああああああ――!?』
ラウンジに光が満ちる。
テトラから放たれた淡い空色の光が辺り一帯を照らし出し、夜の闇に沈むソルレオーネの最上層から直下までを
そしてその光が収まった時。そこには気を失ってラウンジに倒れる四人の少年少女がいた。
飛び回っていた調度品や食器類もまた地面に落ち、それまでの騒ぎが嘘だったかのように室内は静まりかえっていた。
「…………終わりました。大魔王さま」
「テトラ……君は……」
その光景に思わず呟かれたエクスの問いにも応えず。倒れた少年少女の元に歩み寄ったテトラは、とても悲しそうな表情で、主犯らしき少年の額をそっと撫でたのだった――。
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