友達何人できたかな

 僕が頭を下げると連動して画面に映る周が頭を下げる。いつの間にか水無月周の姿が僕であることが当たり前になってきていて、その動きに違和感を感じることはなくなっていた。


「明日のコラボアンケートの途中経過見てるんやけど、結構周君の名前もでてんで」

「あまり他の方とお話ししたことないんですけど、どうしてでしょう?」

「そりゃ俺の子でかわいいからやろ」


 確かに水無月周の見た目は中性的で可愛らしい、と思う。自分のことを褒めているようで変な照れくささがあるけれど、この見た目を作り出してくれたのはくしゃみママだ。


「そういうこと、なんですね」

「いや、納得しなや。そやなぁ……、なんとなく関わりがある子が多そうなのに、あまりコラボせんからやろな。王子ともあれ以来やし、姫さんとも今日初めてやんか。それにくー子ちゃんやろ? 新人の三人だってデビュー近いんやから、どうなんやろなってみんなは思うやん」

「表でお話ししたことってなかったですもんね」


 リベルタスに来てから人との交流が一気に広がった。

 名前を並べられると、なんだか少しうれしくなる。ほんの数か月前までは、こんなにたくさんの人と関わっている姿なんて想像もできなかった。

 リスナーの人たちも放送を楽しみにしてくれているし、この世界を押してくれた輝夜にも、手を貸してくれた人たちにも本当に感謝しないといけない。

 僕に何かできることがあるのなら恩返ししたいなぁ。


「なぁんかコメントで言われとるな。実際のところ今あげた子たちとの関係ってどうなん? って。あ、答えられることだけでええで、ほんじゃま、姫から」


 うまく答えるようにってことなのか、くしゃみママからパチッとウィンクをされた。ちゃんと言っていいこと悪いことはわかっているつもりだけど、急な話だと不安は少しだけある。

 コラボってもしかしたら、自分だけのペースでできないから面白かったりするのかもしれない。


「輝夜は……、だらしないところがあるけど、いつも僕の心配をしてくれてて……。うん、ちゃんとお姉ちゃんです」


 最近のことだけではなくて、昔からのことを思い出す。

 最初に会ったときはそうでもなかったのに、暫くしてからはいつも僕の姿を探して、連れて回っていた。多分あれは、当時元気のなかった僕を心配してくれていたんだろうなぁ。

 毎日送り迎えまでしてくれるようになって、そこまでしなくてももう大丈夫だよって思ったこともあるけど、その気持ちは嬉しかった。

 血のつながりがないから直接言いづらいけど、改めて思い返してみれば輝夜はちゃんと僕のお姉ちゃんだ。

 Vtuverになって、こうしてみんなの前でそれを言えて、なんだかちょっと嬉しいようなほっとしたような気分だ。


「どっちかっていうと周君の方が世話しとる気がするんやけどな」

「それは、性格の問題かもしれません。気持ち的には、はい、お姉ちゃんです」

「じゃあしゃあないかぁ! んじゃ次は王子?」


 白波さんかぁ。

 僕はお友達と思っていたけど、白波さんの方はちょっと違うものがあるみたいだった。改めて考えてみても、恋愛というものがよくわからないから、僕が白波さんに抱いている感情が何なのかは自分でもわからない。

 でもわかっていることもある。


「うーん……、頼りになるしかっこいいんですけど、ちょっと心配もしちゃう相手です。輝夜と同じで、食事とか放っておくとあまりとらなそうで……」

「なんかちょっと浮世離れしとるもんなぁ」

「そうなんですよね。……あ、でも本当に優しいしかっこいいんですよ」

「フォローはええって。関係的には友達、やんな?」

「ええ、はい、そうですね。仲良くしてもらっています」


 関係が変わっていないから、多分それでいいんだと思う。


「……ははっ。ほんじゃ今度くー子ちゃん。なんや最初の配信で暴走してるの止めてもらったんよな」


 なんで今笑ったんだろう?

 あ、でも、次の答えを考えないと。


「焔火さんは……、多分初めてできた友達です。会わない間に会ったことを話したり、共通の知り合いの話をしたりするんですけど……。気を遣わないで話せて楽しいです。……あの、こういうの友達でいいんですよね?」

「せやなぁ、友達やろなぁ」


 話し始めたところで近くにいた美乃梨さんがこちらをじろっと見て近づいてくると「くー子」と言った。いつも通り下の名前で呼べばいいだろうということなのかもしれない。

 マイクがその音を拾ったのか、コメントが盛り上がっている。


「ええっと、くー子さんはそんな感じの友達です」

「ええやんええやん。……な、周君、Vtuverなったのって、確か友達が欲しかったからやんな」

「はい」

「よかったやんか、友達いっぱいできて」

「……はい!」

「周君はリスナーさんの名前もちゃんと覚えてるもんなぁ?」

「ええ、よく来てくれる人たちなんかも勝手に友達って思ってますし……」

「これな、ホンマに覚えとるんよな。多分今流れてるコメントの名前も、自分のとこのリスナーだったらわかるやろ」

「はい、ええと、この人とこの人と」

「指ささんと名前呼んだりよ」

「いいんですか?」

「ええよ?」

「それじゃですね……」


 知っている人たちの名前を呼ぶと、どんどんコメントが加速していく。そのうち、見たことのない人まで僕のところのリスナーを名乗り始めた。


「あの、くしゃみママ、この人とかこの人とかは、僕はじめましてかもしれません」

「ははっ、まじで? 間違いないんか?」

「はい、間違いないです」

「呼ばれたいからって嘘ついたらあかんで。今日から周君のリスナーになったり。そしたらちゃんと名前覚えてもらえるかもしれへんよ」


 名前を伝えるのは良くないと思って読み上げなかったが、読み上げなかったことで結局誰がそうかはわかってしまいそうだ。


 そのあともくしゃみママからもらった質問に答えていくうちに、時間が飛ぶように過ぎていった。

 そろそろ配信も終わりの時間となったところで、最後にくしゃみママが僕に尋ねる。


「な、周君、Vtuverなって良かったやろ?」

「はい!」


 迷いなく肯定することができた。

 うまくいかないこと、わからないこと、それにこれからもまだまだ失敗をするかもしれない。でも、今の僕はVtuverなることができて本当に良かったと、心の底から思えている。


 配信が終わってくしゃみママが椅子の背もたれに寄りかかって大きく息を吐いた。


「ふぁー、やりきったぁ」


 やっぱり疲れてないってわけじゃなかったのかもしれない。

 くしゃみママはのけぞったまま僕の方を見て言う。


「楽しかったな。今度俺ともコラボしよな」

「はい、喜んで」


 それから二言三言交わして、僕は輝夜と白波さんが待っている場所へ戻る。

 今日の配信は終わったけれど、これで全部が終わったわけじゃない。

 僕はまた明日も、来年も、その先も、Vtuverとして配信を続けていきたいなとそんなことを思うのだった。



=====

間が空いてしまいましたが、ここで一度作品の更新を区切ります。

現実にもあるVtuver、配信という形態を描くことに苦戦しながらの作品となりました。

書くことは楽しかったんですけどね!

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

スキルアップして、もっとかっこいい、かわいいこの子たちを描けたらいいなーと思っています。


いつかあー君の配信風景をお届けできることを楽しみにしながら、いったん終わりとさせていただきます。

ではではそれでは!




あ、他作品も更新しておりますので、良かったらそちらもご覧いただければ幸いです(こっそり


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あー君はパソコンで友達を作りたい~VTuberってなんですか? 嶋野夕陽 @simanokogomizu

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