クリスマスイブ

 クリスマスイブ。

 朝一番でスタジオへ行くと、ロビーで藤崎さんが作業をしていた。


「おはようございます。早いですね」

「おはようございます。今日は1日配信ができるので」


 扉を開けると顔を上げて挨拶をしてくれる。


「そうですか……。……あの、余多さん」


 藤崎さんはノートパソコンを閉じると自分の横へ置き、改まったように声をかけてくる。


「はい、なんでしょう」

「最近、悩み事とかありますか?」

「悩み事は……特にはありませんが……」

「ええっと、その、人間関係がうまくいかない、とか」

「そうでも……、あ、昨日大堀さんと色々お話ししました!」


 もしかしたら今まで僕が大堀さんとお話しできていなかったことを心配してくれたのかな。


「そうですか。それは良かったです。……でしたら余多さん、今日からスタジオでやるリレー配信、出てみませんか?」

「リレー配信、ですか?」

「はい。公式チャンネルで今日から明日にかけて配信を行います。いっそのことここで一気にいろんな方とのコラボを済ませてしまえば、来年以降やりやすいのではないかと思いまして」

「いいんですか?」

「ええ。余多さんが悪いわけでもないのに、長いこと一人でやらせてしまっていたことが心苦しかったんです。あの子たちとも仲良くできているようなら、いい頃合いなのではと」

「ありがとうございます! 何時ころからになるでしょうか?」

「昼の13時過ぎに配信予定の輝夜さんのところにいれてもらいましょう。それから、17時から配信予定の穂村さんに、後で私から聞いておきます。……白波さんは、今回はやめておきましょう。19時以降は自由参加になりますので、いつでも大スタジオへどうぞ。ここまでは大丈夫ですか?」

「はい!」


 急な話だけれど嬉しい話だ。

 空いた時間は自分のところで配信しててもいいわけだし、皆も喜んでくれるといいなぁ。


「今日一日かけて、見てみたいコラボのアンケートを取ります。そして明日多い順から希望を叶える配信をする予定です。リスナーさんたちへのクリスマスプレゼント、ってところでしょうか。これも大丈夫ですか?」

「はい、明日も一人で配信をする予定だったので問題ありません。これは……今から配信をして、リスナーの人たちに言ってもいいですか?」

「ええ、とりあえず輝夜さんの部分は構いませんよ。ずっと早くコラボをさせろと言ってきていたので、断られることはないでしょうから」

「わかりました、ではその連絡だけしておきます!」

「はい、では忙しくなりますが、今日明日よろしくお願いします」

「はい、迷惑をかけないように頑張ります!」

「心配してませんよ」


 ノートパソコンを抱えた藤崎さんは、ベンチから立ち上がり事務所の方へ戻っていく。もしかしたら、僕にこの話をするためにわざわざここで待っていてくれたのかもしれない。

 本当に藤崎さんには頭が上がらないなぁ。


◇◇◇


「はい、皆さんおはようございます」


『朝からやるって聞いてたけど早すぎんか?」

『俺は6時間前から待機してたけどね』

『私は12時間前から待機してたけど?』

『は? 100年前から待機してるけど』

『未来予知じゃん』


「せっかく一日空いていますので、気合を入れてきました。随分前から待機の方は、無理せず眠くなったら寝てくださいね」


『100年前から待機のお年寄りは永遠の眠りにつきそう』

『もう死んでるだろ』

『成仏して』

『夜勤明けだから周きゅんの声聞きながら寝るんだ……』


「えーっと、100歳超えている方はお体を労わってください。と、配信中に何度かお伝えするかもしれないんですが、今日はお知らせがあります。『リベルタス』では、今日明日と公式でリレー配信をしています」


『知ってる、ここと2窓するかな』

『宣伝してえらい』


「その配信、僕も今日出られることになりました! お昼の13時くらいから、輝夜の配信にお邪魔させてもらう予定です。その時間は僕のチャンネルでは配信できないんですが、ぜひとも遊びに来ていただけると嬉しいです」


『おおお、マジ?』

『王子とのコラボ以来じゃん!』

『周きゅんのウキウキ声いいぞ』

『ようやく念願のコラボか、姫喜んでるだろ』

『周きゅんって、他の人には絶対さんつけるのに、姫だけはちゃんと呼び捨てだよね』

『ほんとに仲良しなんだろうな』

『今姫のSNS見てきたらなんかテンション上がりまくってて怖かった』

『連投してるwww』


「あ、輝夜にも連絡がいったんですね。そんなわけですので、公式の方にお邪魔するとき以外は、こちらでのんびり配信していきますので、よろしくお願いします」


『のんびり(ホラーゲーム)(血みどろ)』

『周きゅんの配信付けながら寝ると、ホラーゲームのBGMとかのせいでたまに変な夢見るんだよな』

『本人は一つも怖がらないのに、リスナーにダメージを与える配信』


「えーっと……、とりあえずこの、幽霊が何かあてるゲームでもしていきましょう」


『マルチだからこそ面白いゲームなのに;;』

『なおソロでレベル糞高の模様』

『アピールしてください好き』

『いつもと変わらない声色で幽霊に語り掛けるからな』


「はい、それじゃあ皆さんも一緒に屋敷の探索をしていきましょうね」


『皆さん(リスナー)も一緒に(ソロ)』


「僕、皆と一緒に遊ぶの好きですよ?」


『私もです!!』

『はい天使』

『コラボしなくていいよ、一生俺たちの相手してて』

『でもソロばっかでかわいそうだからコラボして』

『どっちだよ』

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