第8話 召喚士の世界

 この世に炎の球を出す魔術もなければ傷を治癒する奇跡もない。

 しかし、炎の球を生み出す精霊や道具、傷を癒す精霊や道具を出す術はある。


 召喚術。 

 それは異界である精霊界の生物や道具を呼び出す術である。


「召喚術ッ……!?」

「そうじゃ。これが魔法界でもっとも主流な魔法じゃよ」


 ヴィ―ドは青の銃で剛翼の蛇ウィングスネークを、赤の銃で強盗2人を撃った。

 2人の強盗の上着と剛翼の蛇ウィングスネークの胴体に弾丸は当たった――だが銃弾が当たったところに損傷はない。代わりに赤の銃で撃たれた強盗2人は赤色のオーラを上着に纏い、青の銃で撃たれた剛翼の蛇ウィングスネークは青色のオーラをまとい、そして


「うわ、なんだ!?」

「引っ張られる!?」


 強盗と剛翼の蛇ウィングスネークは謎の引力に抗うことが出来ず、自分達の体をくっ付け団子になって地面に転がった。


「俺は精霊界の武具を呼び寄せる霊器召喚士ウェポンサモナー。赤の銃の名は赤龍、青の銃の名は青龍。赤龍で撃った対象にプラスの磁力を宿らせ、青龍で撃った対象にはマイナスの磁力を宿らせる」


 ヴィ―ドの霊器は磁力を操る。磁力の特性上、プラスの磁力とマイナスの磁力は引き合うのだ。


「それで赤と青の銃で撃たれた強盗と蛇はくっ付いたのか。+の磁力と-の磁力は引き合うからな……」

「中々便利な銃だろう?」


 ヴィ―ドが両手を振ると、2振りの銃は光の粒になって消えた。


 商人たちが強盗を縄で縛り、強盗事件は幕を閉じる。

 商人が「助かりました! ヴィ―ドさん!」と言うと、ヴィ―ドは「気にするなって」と笑顔で返した。


 騒動が完全に収まったところで荒神とヴィ―ドは再び歩を刻み始めた。


召喚士サモナーって聞くと精霊を召喚する姿を思い浮かべるけどな。さっきの蛇使いみたいに」

「そいつは精霊召喚士ビーストサモナーだな。召喚士サモナーは精霊界の武具を召喚する霊器召喚士ウェポンサモナーと精霊界の精霊を召喚する精霊召喚士ビーストサモナーの二択さ。生まれつきどっちに適性があるかは決まっている」

「アイツは笛で蛇を召喚していたが、お前は魔法陣で銃を召喚しているように見えた。あれも精霊召喚士ビーストサモナー霊器召喚士ウェポンサモナーの違いってやつか?」

「そうだよ。精霊は特別な笛の音で、霊器は特別な筆で描いた陣で呼ぶ」


 荒神はネタ帳にヴィ―ドが言ったことを書いていく。


「へぇ~……」


 書き終えた後、ネタ帳を閉じ、荒神は自分の横でプカプカと浮く青肌少女に目を向けた。


(コイツ……俺が魔法のオカリナを吹いたら出てきたよな。精霊は笛の音で呼ぶのなら、もしかしてコイツは……いやしかし、俺の世界に召喚術はないし、俺には召喚術に必要な魔力がない。考えすぎか?)


 ヴィ―ドはとある商店の前で足を止めた。


「ここが俺の店だ」

「随分とデカいな」


 広さ的にはコンビニ1つ分だが、他の店が軒並み小ぶりだったため大きく見える。


「俺がお前の面倒を見れるのはここまでだ。さて、ここまでの案内料を貰おうか」

「案内料だと? 善意で助けてくれたんじゃないのかよ」

「半分は同情、もう半分は報酬ありきさ。お前の身なり、まったく見覚えが無い。俺ですら知らない土地から来たとわかる。なんか珍しいモン持ってるだろ? 商人の勘がお前のバッグから凄まじい金の匂いを感じ取っている」

「……仕方ないな。借りは返す主義だ」


 荒神はバッグからホッチキスを出し、ヴィ―ドに渡した。


「こいつはなんだ?」

「ホッチキスだ。2個あるから1個くれてやる」

「ほってぃきす? 妙な形だな……見たことない。どう使うんだ?」

「紙と紙を合わせるんだよ」


 ヴィ―ドは自分の商店の売り物から紙を2枚持ってくる。

 荒神はホッチキスを使い、2枚の紙を1枚組にした。


「おおっ!? これがホッティキス!! コイツはすげぇ……地味だけど、有用性抜群だ! 売れるぜこいつは!」

「報酬はこれでいいだろ。じゃあな」

「待ちな」


 ヴィ―ドに呼び止められ、荒神は振り返る。


「名前ぐらい教えろよ」

「名前? 名前は荒……」


 いや待てよ、と荒神は考える。


(この世界観で荒神千夜という名前は浮くな)


 荒神は数秒考えた後、この世界での自分の名前を口にする。


「アラジンだ」



 ヴィ―ドと別れたは自分の腹が限界を迎えそうなことに気づいた。


「早く金を稼がねぇと……!」

「大金持ちになりたいのならいつでも願うがよい」

「黙っとけ。金を稼ぐ方法は考えてある」

「ほう? 気になるのう。どうやって金を稼ぐ気じゃ?」


 アラジンは「忘れたのか?」と口元を歪める。


「俺は漫画家だぞ」

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