第13話 アリババ
唐突な質問につい言葉が詰まる。
ヨルガオは不思議そうに聞いてきた。声色には動揺のようなものも感じた。
「どこから来たって、俺は――」
「いや、やっぱり言わなくていい……」
話を強引に打ち切り、ヨルガオは部屋から出る。
「ついて来い。私が別の応接間に案内する」
「い、いえ、私がご案内します。ヨルガオ様のお手を
ヨルガオは衛兵に対して左手を出し、「さがれ」と命令する。衛兵は頭を深く下げて、後ろへ退いた。
アラジンとヴィ―ドはヨルガオに続く。
「……ヨルガオ様は五竜星の中じゃ一番話が通じる。そこまで警戒することはないぜ」
ヴィ―ドは小さな声でそう言った。
「ヴィ―ド。アリババ様には会っていかないのか?」
ヨルガオが聞くと、ヴィ―ドは苦い顔をする。
「すみません。正直、あまり会いたくないですねー」
「どうやら、そうもいかないようだぞ」
「げっ!?」
アラジン、ヴィ―ド、ヨルガオの3人で廊下を歩いていると、向かい側から黒のロングコートを着た男が歩いてきた。
黒髪の男だ。外見年齢はヴィ―ドと同じほどに見える。目つきが悪く、両眼の下にダイヤマークのタトゥーがある。知的そうな雰囲気を持つが、刺々しい威圧も感じる。
ヴィ―ドとヨルガオは彼を見て明らかに緊張感を顔に走らせた。
「――なにを遊んでいる? ヴィ―ド」
黒衣の男が言うと、ヴィ―ドとヨルガオは足を止めた。アラジンもつられて足を止める。
「アリババ……」
言ったのはヴィ―ドだ。
(コイツが五竜星のリーダーか)
目の前の男が五竜星頭領のアリババだということより、アラジンが驚いたのはヴィ―ドがアリババに対して敬称を付けなかったことだ。
他の五竜星には終始低姿勢だったのに、その長であるアリババに対してはまったく姿勢を正す様子を見せない。
「……お前の能力は俺のためにある。いい加減、雑魚と絡むのはやめて俺のもとへ来い」
「お前こそ、似合わないことやってんじゃねぇよ。見てて哀れだぜ」
「……」
アリババはなにも言わず、ヴィ―ドの側を歩み抜け、さっきまでアラジンたちが居た応接間に向かった。
「どんな仲だよ?」
「ん~……ま! 色々とあんのよ、大人にはな」
ヴィ―ドははぐらかして先へと進む。
問い詰めたところで答えそうにないと判断し、アラジンはそれ以上なにも言わずに足を前に進めた。
「ここだ」
ヨルガオに案内された部屋はさっきの応接間とほとんど変わらない部屋だった。
「私は用事があるから20分ほど席を外す」
「立会人はヨルガオ様がやってくれるんですか?」
「そのつもりだ」
ヨルガオは部屋を出て、来た道を戻っていった。
「立会人なんているのか?」
「王女様を笑わせたとして、それを証明する奴が居ないとな」
「なるほどね」
アラジンはひとまずバッグを下ろし、椅子に座って一息つく。
「俺、ちょっとトイレ行ってくるわ」
「おう」
ヴィ―ドが部屋を出て、部屋はアラジン1人となった。
アラジンは部屋の内装を興味深く観察する。いずれ漫画に活かそうと考えている。
(この国の建造物はどれも参考になるな。背景に使えそうだ)
そう考えていると、ゴソゴソと漁っているような音が聞こえた。
音はバッグを置いた方から聞こえる。
「キキッ!【高そうなオカリナじゃねぇか!】」
「ん?」
猿の鳴き声が耳に響く。そして耳に入った猿の鳴き声は自動的に翻訳され頭に取り込まれる。アラジンは声の方を向く。
「なっ!?」
居たのは軍帽を被った猿だ。アラジンのバッグを開けており、手には黄金のオカリナ――ヤミヤミのオカリナが握られている。
「猿だ……」
「猿じゃな……」
「手に持ってるのはオカリナだな……」
「オカリナじゃな……」
アラジンは床を蹴り、体を飛ばす。
「返せ、アホ猿ッ!!」
「キキッ!【嫌なこった!】」
猿はオカリナを持ったまま跳躍しアラジンの突進を躱す。
身軽な猿はそのまま部屋の扉から外へ出た。
「待てコラ!」
アラジンは猿の後を追う。
「ヤミヤミ! オカリナが俺から離れるとなにかまずいことはあるか!?」
「われは基本的にオカリナから離れられん! オカリナが離れればそれだけわれがおぬしより遠ざかる! そして、われが近くに居なければ当然、願いを使うことはできなくなる!」
「それは大問題だな……!」
猿は一階へ行き、扉を突進で開き、アラジンの知らない通路へ入っていく。
扉の前には衛兵が2人待ち構えていた。
「なにをしている貴様!?」
「止まれ! ここより先は立ち入り禁止だ!」
アラジンは止まることなく、猿を追いかける。
「待て! この先には――」
「悪いな、非常事態だ!」
アラジンは衛兵の制止も無視して猿を追いかける。
「……っ!? 待てアラジン! ここは――」
ヤミヤミは気づいた、ここがどこか。この先になにがあるか。
夢中で猿を追いかけていたアラジンは気づかなかった。いつの間にか自分が脱衣所に居ることに。つまり、目の前の扉の先にある場所は――
「猿ッ!」
「キキッ!【しつこい奴だな!】」
猿とアラジンは扉の先へ――水浴び場へ入った。
「なっ!?」
扉の先へ行って、風呂を見て、アラジンはようやく踏み入ってはならない禁断の場所へ来てしまったとわかった。
猿は風呂の中に今入ろうとしている人影の肩に乗った。
「どうしたのプルル。なんでオカリナなんか持ってるの?」
少女の声が聞こえた。
少女は背中の気配に気づき、一糸まとわぬ姿のまま振り返る。
褐色肌で、ボブカットの黒髪の少女。まだ体は成長しきっておらず、14歳ほどだと推測できるが、顔立ちや肌の綺麗さから将来はかなりの美人になるとわかる。
突然の侵入者に、異性に裸を見られても彼女は一切表情を崩さなかった。顔が赤くなることはない、恥じらいを見せることはない。彼女の表情は
アラジンは直感で気づく、目の前の少女こそ――氷の王女、スノーなのだと。
「あなた、誰?」
「俺は……アラジンだ」
アニメのキャラクターのように一切のくすみのない彼女を見て、アラジンは生まれてはじめて女性に見惚れた。
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