第14話 氷の王女への挑戦

 なんの家具もない質素な部屋。

 アラジンは縄に縛られ、部屋の中心に座っていた。


 周囲を囲むは五竜星。全員が冷ややかな目線をアラジンに向けている。


 ヴィ―ドは両手で顔を覆い隠し、「なにやってんのアラジンあの子は……」と声をこぼす。


「さて、なにか言い分はあるか? 覗き魔ヘンタイ野郎」


 アリババの容赦ない言葉がアラジンに向けられる。


 遡ること20分前。アラジンはあろうことか王女様が入浴中の水浴び場に乱入してしまった。そして当然の如く衛兵に捕えられ、今に至る。


「元はと言えば、あの王女様のペットが俺の持ち物を盗んだのが悪いんだ」


「持ち物とは、あの黄金のオカリナのことですか? 第一、あんな物をどこで手に入れたのか気になりますね」


 キツツキは薄く目を開き、言葉を紡ぐ。


「あれは本物の黄金で出来ていた……あなたのような下賤な人間が手に入れられる物ではない」

「オカリナのことはいま関係ないだろう」


 ヨルガオがキツツキの言葉を遮った。

 キツツキはヨルガオを睨みつつ、追及を止める。


「アラジン、だったか。お前には選択肢がある」


 アリババはアラジンを見下ろす。


「火刑か斬首かだ」

「どっちみち死んでんじゃねぇか!」


「アリババ様ぁ~燃やす役目はあちきにお任せくださいませ。ちょうど最近火を出せる精霊を手に入れましたので~」

「斬首ならこのバルゴにお任せください! サクッと終わらせます!」


 バルゴとフーランが嫌な笑い声を発しながらアラジンに忍寄る。


「お待ちください、五竜星の皆様」


 1人の女性が部屋に入ると、五竜星とヴィードは一斉に膝をつき頭を下げた。

 彼らが頭を下げた女性は氷の王女の異名を持つ、スノーだ。宝石の入った髪飾りを頭に付け、露出度は高いが上品な白布の衣服を身に纏っている。


「その方がおっしゃっている通り、わたくしの召喚獣であるプルルが彼の持ち物を盗んだのが原因。彼に罪はありません」

「しかし姫様」


 アリババが物申そうとする前に、スノーは言葉を発する。


「それに彼はわたくしを笑わせるために来たと聞きました。わたくしとしては水浴び場の一件を引きずるより、そちらの用件を優先したいです」

「……わかりました」


 アリババは渋々承諾した。

 アリババはアラジンに顔を向け、


「姫様の言葉に免じて不問にしてやる。だが、お前が危険な存在であることは変わりない。色々と調べたが、出身は不明で持っている道具や衣服も知らない物ばかりだ。お前には謎が多すぎる。だから監視を付けさせてもらう。――ヨルガオ」


「はい」


「アラジンを四六時中見張れ」


「了解です」


 覗きの件は不問、しかし監視は付ける。この結論で『お風呂場乱入事件』は幕を閉じた。

 アラジンはヴィ―ド、ヨルガオ、そしてスノーと共にスノーの部屋へと行くことになった。


「アラジン様。お荷物とオカリナは先にわたくしの部屋へと運んであります。この度はご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」

「いや、俺の方こそ周りを見ずに行動して面倒をかけたな――いてっ!」


 ヴィ―ドの拳がアラジンの頭に炸裂する。


「馬鹿野郎! 王女様にその言葉遣いはねぇだろうが!」


「いえ、大丈夫です。むしろ気さくに話してください。その方が嬉しいです」


「だってよ」

「お前なぁ……」


 スノーの部屋に到着する。

 スノーの部屋は王族らしく家具はどれも高価だ。天井からはシャンデリアがぶら下がっている。スノーは豪奢な椅子に座り、アラジンたちはスノーの正面、床に座った。


 アラジンは部屋の隅に自分のバッグとオカリナを見つけてホッとする。


「待ちかねたぞおぬしっ!」


 オカリナからヤミヤミが出てアラジンの側で浮く。


「では、演芸の方を見せてください」

「演芸じゃない。俺が見せるのは芸術だ」


 アラジンはバッグから5ページの4コマ漫画を出し、ヨルガオに渡す。

 ヨルガオがスノーに漫画を渡すと、スノーは「これは?」と疑問を口にした。


「漫画だ」


 アラジンがスノーの疑問に答えた。


「漫画、とはなんでしょうか。初めて聞きます……」

「とりあえず読んでみろよ」


 アラジンに勧められるまま、スノーは漫画を読みだした。

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