第12話 五竜星
朝起きるとコーヒーの香りがした。
アラジンがベッドもどきから体を起こすと、コーヒーを啜りながら不法侵入者はアラジンの方を向いた。
「ア~ラジン。迎えに来たぜ」
丸いサングラスを掛けた銀髪の男。
この整った顔の男は誰だろう? とアラジンは首を傾げる。
「おいおい、まさか化粧を落としただけで俺がわからなくなったのか?」
「えーっと?」
ピンとこないアラジン。
アラジンの隣でヤミヤミが彼の正体を言い当てる。
「あの白塗り化粧をしていた男じゃろう」
ようやくアラジンは目の前の男が誰だか理解する。
「ヴィ―ド……なのか? なんで今日は白塗りじゃないんだよ?」
「王宮に行くのにあんなふざけた化粧するわけないだろ。あの化粧はただの客寄せだからなぁ」
「客寄せ?」
「商売の基本は『注目を集めること』だ。あんなピエロみたいな顔してリンゴ売ってる奴がいたら嫌でも目を引くだろ」
「俺なら怖くて逃げだすな」
「そんなことより早く準備しろ。お披露目会に遅れたら大変だ」
アラジンは支度をして一階に降りる。
「ようアラジン! 漫画できたか!?」
一階に降りるとワクワク全開のエマがやってきた。
(懐かしいな……俺も好きな漫画の新刊の発売日はこんな顔してたっけ)
アラジンはバッグから昨夜描いた漫画を出す。
「ほらよ。新作だ」
エマに漫画を手渡す。
「おぉ~!」
「うへぇ~、いいなぁ、俺も読みたいぜ」
「お披露目会に遅れたら大変なんだろ? 早く行くぞ」
「へいへい」
アラジンとヴィ―ドは干しレンガの街を歩く。
「これから王宮に向かうわけだが、絶対的なルールを3つ設定させてもらう。
1つ、俺の目の届かない所にはいかないこと。
2つ、王宮に
3つ、王家と
「五竜星ってなんだ?」
「五竜星は王家直属の護衛隊だ。5人の召喚士で構成されている。
岩を素手で砕く剛力のバルゴ、この国の参謀を担う聡明のキツツキ、その美しい踊りで老若男女を
「気が向いたらな」
宿を出て30分ほど歩くと王宮の庭園に着いた。
庭園の左右には木々が並び、中央には川が流れている。木と川の間の道を暫く行くと宮殿に辿り着いた。
「素晴らしい!」
宮殿を見たアラジンは開口一番称賛を口にした。
「明らかに多すぎる支柱、災害の対策など一切していない無駄の多い構造。外壁にまで黄金を使う贅沢さ……俺の故郷じゃ絶対に作れない代物だ! この無駄だらけの芸術、心が惹かれる!!」
「それは褒めておるのか?」
宮殿は豪華絢爛の一言。純白の壁に黄金の装飾が付けられている。
正面玄関扉はドラゴンでも通すのかと言いたいぐらい大きい。人間界にあれば絶対に世界遺産に登録されるであろう美しい宮殿だ。
アラジンはバッグからデジカメを出す。
「なんだそりゃ?」
「カメラだよ」
「かめら? それはどういう道具だ?」
「銃はあるのにカメラはないのか……これは見た風景を保存する道具だよ」
アラジンはシャッターを下ろす。その後、撮った写真をヴィ―ドに見せた。
「はぁ!? 絵……じゃねぇよな」
「これが絵に見えるか?」
「おいおいおい……! 前に貰ったホッティキスといい、お前の故郷のテクノロジーはどうなってやがる……」
「今はカメラより氷の王女様だろ。早く入ろうぜ。内装も気になる!」
「……王女様笑わせるより、これを量産した方が儲けられるんじゃねぇかなぁ……」
扉をくぐると、衛兵の1人が近寄ってきた。
「ヴィ―ド様ですね? 後ろに居るのは……」
「アラジンだ。俺の連れだよ」
「承知しました。予定より1時間早い到着でしたので、まだスノー様の準備ができておりません。スノー様が準備を終えるまで応接間でお待ちください」
「りょーかいです」
衛兵の誘導に従い応接間に向かう。玄関から入ってすぐ正面にある階段を上がり、通路を右にずっと行った突き当りの扉を開ける。
「あ!?」
扉を開けた衛兵が焦燥にまみれた声を上げた。
応接間の中を見ると、先客が4人いた。
1人目は大柄な男。下は袴を穿いているが上はなにも着ておらず、胸の中心に召喚陣と思われる図が描いてある。
2人目はチャイナ服のような物を着た糸目の男。常に不気味な笑顔を浮かべている。
3人目は露出の多い大胆な恰好をした女性。誰から見ても美女で、その優れた容姿からか自信に溢れた表情をしている。
4人目は全身鎧の人間。鎧の胸の部分に凹凸があることからかろうじて女性とわかる。鎧の材質は鉄ではなく、骨のような質感だ。背中に携えた一本槍も骨のような質感である。
全身鎧の女と糸目の男は立っており、他2人は椅子に座っている。
「す、すみません! まさか五竜星の皆様が居るとは知らずに!」
衛兵は素早く頭を下げた。
「うおぉい! そこの銀髪は腐れ商人のヴィ―ドだろぉ!!?」
大柄な男がヴィ―ドを指さす。
「こんにちはバルゴ様。今日も元気ですね」
ヴィ―ドは飄々とした態度でバルゴの威圧を受け流した。
「相変わらず顔だけはいいですなぁ。どうですぅ? 今晩あちきと一夜を過ごしてみませんかぁ?」
「フーラン様、ありがたいお誘いですが今日は忙しくてお相手できそうにありません」
糸目の男がヴィ―ドに視線を合わせる。
「いかような用事でここへ来たか気になりますね。まさかスノー様の件で?」
「その通りですキツツキ様。あのお方の笑顔を見に来ました」
「ほう? 僕は何年もここへ勤めていますが、スノー様の笑顔を見たことがない。無駄足だと思いますけどね」
ヴィ―ドとキツツキが会話を続けていると、バルゴがその巨体を椅子から上げ、アラジンの方へと歩み寄ってきた。
「うおぉい! 頭にタオルを巻いてるそこのお前! もしかしてお前、ダキじゃねぇのかぁ!?」
「ダキ? ああ、魔力がない人間のことだったか。そうだけど、なにか文句あるか?」
「大有りだねぇ! ここをどこだと思っている!? 王宮だぞ! この国の中心だ! 魔力のねぇクズが足を踏み入れていい場所じゃねぇんだよ!!」
バルゴは右拳を振り上げた。
「避けろアラジン!」
ヴィ―ドが声を上げる。
アラジンは咄嗟に腕を上げ、ガードを作るが、すぐに失策だと気づく。
バルゴの膨れ上がった拳は、とてもじゃないが受け止めきれるものじゃない。間違いなく両腕とも骨折する。だからヴィ―ドは『避けろ』と言ったのだ。
(やばい!!?)
「消えろや!!」
ゴン! と鈍い音が響いた。
アラジンの腕の骨が折れた音――ではない。
アラジンとバルゴの間に、全身骨鎧の女が立っていた。女はその細腕でバルゴの右拳を受け止めていた。
「やめろバルゴ。客人だぞ」
まだ若い女性の声がバルゴをなだめる。
「ヨルガオ……! テメェ、いつから俺に逆らえるぐらい偉くなった!?」
「最初からだ」
ブチ、と血管が切れる音が聞こえた。
バルゴは一歩身を引き、自分の胸にある召喚陣に手を当てた。
「
バルゴの胸の召喚陣から両手斧が生える。
バルゴは斧を振るおうとするが、その腕を鉄の鎖が絡み止めた。
「バルゴさん。王宮を壊すつもりですか?」
鎖を出したのはキツツキ。キツツキは掌の召喚陣から鎖を出している。
「邪魔すんな! コイツ、ちょっとアリババ様に気に入られているからと言って調子に……!」
「王宮を壊せばアリババ様に叱責されますよ?」
「ぐっ! そいつはごめんだな……」
バルゴは斧を消した。
「なんじゃこの野蛮な男は! 腹立つのう! アラジン、願いを使って懲らしめてやれ!!」
(腹が立つのは同意するが、こんなやつに願いを使えるかよ……)
険悪なムードの応接間。
骨鎧のヨルガオはアラジンとヴィ―ドの方を振り返る。
「スノー様はいま水浴びしている。別の部屋を用意するからそこで待っていろ」
「りょーかいです、ヨルガオ様」
ヴィ―ドは軽く頭を下げる。
「……」
ヨルガオはアラジンの方へ顔を向け、動きを止めた。
「なんだよ?」
謎の間に耐えきれずアラジンが言うと、ヨルガオはアラジンにしか聞こえない小さな声で、
「――お前、
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