第22話 祠の番人

 1時間ほどで目的地、祠に到着。


「おええええええええええっ!!」

「よしよし。大丈夫かぁ? アラジンよ」


 砂漠に吐瀉物をまき散らすアラジン。アラジンの背をさするヤミヤミ。独特な揺れ+アホスピードは常人が耐えられるものではなかった。


 ヨルガオは「やれやれ」とため息をつき、


「だから昨日しっかり休息をとれと言ったんだ」

「そういう問題じゃねぇよ!」


 呼吸が落ち着いたところでアラジンは祠を見た。


(祠っていうか……)


 祠と呼ばれる建物は四角錐の形をしていた。

 正面から見ると三角形に見える建物。アラジンの知識から目の前の建物を言い表すのなら――


「ピラミッドじゃねぇか……!」


 砂漠とピラミッドという組み合わせはありふれている、しかしそれは人間界の話だ。

 現に魔法界の住民であるはずのヨルガオは驚いていた。


「今までに見たことのない造形だ……」

「商人が言ってた門番が見当たらないな」


 アラジンが一歩、入り口扉に近づいた時だった。


「客人か」


 男の声が聞こえ、砂粒が扉の前に集まった。

 砂粒は口も鼻も耳もない人の形を取る。人形劇で使われるような無機質な糸繰り人形の姿に似ている。


「ようこそ。私はここの門番だ。聞きたいことがあれば答えよう」

「この祠に強力な精霊の誓約碑があると聞いた。それは本当か?」


 ヨルガオの質問。門番はコクリと首を縦に振る。


「さよう。貴様らの目的であるウンディーネを倒すことも可能だ」


「「――ッ!?」」


「あくまで召喚主マスターの実力次第ではあるがな」


 アラジンとヨルガオ、2人の目的をなぜか門番は知っていた。


「お前、どこで俺達の目的を聞いた?」


 アラジンは疑いの視線を門番に向ける。


「天啓というやつだ。説明しても無駄だろう」

「アラジン、今はそこは重要ではない。話を進めるぞ」

「――馬鹿な」


 門番の声が裏返った。


「な、なぜだ!?」


 門番はある場所に視線を向けていた。


「なぜ、貴方様がここにっ!?」


 門番が視線を向けていたのはアラジンの右隣。

 そこに居るのはヤミヤミだ。


「おぬし……魔眼のバロルか!」


 どうやら門番にはヤミヤミの姿が見えているようだ。


「巨人族の長がここでなにをしておる?」

召喚主マスターより承った仕事を遂行しております」

「不完全とはいえ、おぬしほどの精霊をこの世に留めるとは……おぬしの召喚主マスターとやらは優れた召喚士のようじゃのう」


 話を聞く限り、この門番はヤミヤミの知り合いのようだ。

 アラジンはヤミヤミの声を聞きとれるため、話についていけるが、ヨルガオは門番であるバロルの声しか届いていないため状況を理解できていない。


「さっきから何の話をしている?」

「少し待て。この方との話が先決だ」

「この方とは誰だ?」


 ヨルガオとバロルの話は噛み合わない。


「ヨルガオ、悪いが一旦下がってくれ。コイツと2人で話したい」

「……」


 骨鎧で表情は読めないが、ムスッとしているのはわかる。


「私からも頼もう。この者と1対1で話させてくれ」


 バロルはアラジンの意図を感じったようだ。

 ヨルガオは無言で10メートルほど距離を取った。


「やはり貴様がヤミヤミ様の召喚主マスターか」

「そういうことになるのかな。薄々勘づいていたけど、やっぱりお前精霊なんだな」

「うぐっ!? 秘密にしてたんじゃがのう……」

「しかし驚きました。貴方は魔法界には関与しないと聞いていたので」

「成り行きじゃ。われのことはいい。いまはこの祠の話をしよう」


 アラジンは2体の精霊を視界に収める。


(この感じだと、バロルってやつはヤミヤミの部下かなんかだろうか?)


 バロルは「申し訳ございません」と前置きし、


「いくらヤミヤミ様とはいえ、祠攻略のヒントとなることは教えられません」

召喚主マスターに縛られておるのか?」

「そういうわけではございませんが……」

「まぁよい。ならば祠にある誓約碑について教えてくれ。一体なにが封じられておる」

「それは――」


 バロルは言葉を詰まらせた。

 バロルは「すぅ、はぁ」、深呼吸を入れ、


「魔神です」

「なんと!?」


 ヤミヤミは驚きの声を張り上げた。


「魔神ってのは結構居るモンなのか?」

「なにを言っておる! 魔神は精霊界でただ1人! このわれを置いて他におらん!! 超絶レアな存在じゃ!」

「……お前、俺に会った時魔神なんて珍しくないって言ってたじゃないか……」

「覚えておらん! とにかくわれ以外に魔神はいない!」

「いるではありませんか。あなた以外にも一体だけ」


 ヤミヤミは目を見開いた。


「まさか……いや、ありえん。あやつはいま、身動きがとれないはずじゃ!」

「あなたが頭に思い浮かべた精霊で間違いありません。祠の誓約碑は魔神イフリートと繋がっております」


 瞬間、ヤミヤミの全身から赤黒いオーラが発せられた。


 顔中に血管が浮かび、鬼のような形相をしている。

 いつもの可愛げのある怒りではない。本気の、魔神の怒りだ。

 側に居るアラジンはモロにその威圧を受け、唾すら飲み込めずにいた。


「――おい、貴様。一体誰の許可を得てあやつを解放した? 巨人族を滅ぼされたいのか? あぁん?」

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