第21話 ラクゥダタクシー

 夜中。

 アラジンはベッドの上に横になって、ジッと天井を見つめる。


「ヤミヤミ」

「なんじゃ?」

「俺の願いの使い方は間違ってたかな? 俺は自分のために願いを使った。だけど、もっと多くの人間のために使うべきだったか? 『例えば食糧難の国に食糧を渡す』とか、そういう使い方をするべきだったと思うことがある」

「ふむ。この国に触れてそのような考えに至ったのじゃろうが……われはお勧めできんのう」

「どうして?」

「あくまで経験則じゃが、多くの人間を巻き込む願いほど予期せぬことが起きる。食糧難の国を救ったら、その国に余裕ができて他国に戦争を吹っ掛けたりな。逆に個人の範疇に収まる願いほど上手くいくものじゃ。そういう意味ではおぬしの願いの使い方は間違っていなかったと思うぞ?」

「……そうか」


 暗い顔をするアラジン。

 ヤミヤミはそんなアラジンに対し、提案する。


「アラジンよ。もう帰ってもよいのだぞ」

「……なにを言っている。まだスノーを救えていない」

「これ以上、〈ジャムラ〉に関わるのは危険じゃ。第一おぬしがそこまでする義理はないじゃろう。」

「あるさ」

「なんじゃと?」

「俺はこの国に来て、漫画家として成長した実感がある。俺が成長できたのはこの国に漫画を楽しむ余裕があったからだ。その余裕を作っていたのは……他の誰でもない、スノーだ」

「――借りは返す主義、じゃったな」

「ああ。あと個人的にだが……」


 アラジンは泣きながら笑うスノーの顔を思い出す。


「アイツの一点の曇りのない笑顔を見てみたい」



 ◆



 早朝。

 アラジンが目を覚ますと、ヨルガオが窓から部屋に入ってきた。


「行くぞ」

「だから窓から入ってくんなって……!」


 ヨルガオに連れられ、〈ジャムラ〉の外に出る。

 〈ジャムラ〉の門から数10メートル進んだ場所。そこには昨日のビーストショップの商人と、コブが7つある胴長のラクダがいた。


「昨日の商人か……」

「はい! この度はサブサービスであるラクダタクシーを使っていただきありがとうございます!」

「ラクダタクシー?」

「違うぞアラジン。ラクダタクシーだ」

「……ラクダでいいだろ」

「違いますよ。G6精霊のラクゥダです」

「その小さい『ウ』は入れなくちゃダメなのか?」

「当たり前だ」「当然です」

「……」


 アラジンとヨルガオの2人はラクゥダに乗る。ヨルガオが前、アラジンが後ろだ。


「誰が召喚したラクゥダなんだ?」

「さっきの商人だろう」

「召喚主が付いてこなくても大丈夫なのかよ」

「問題ない。強力な精霊ではないからな。もし暴走すれば私が始末する」


 人間の言葉がわかるのか、ヨルガオの台詞の後ラクゥダは震えた。


(ラクダの上って変な揺れ方するな……ラクダ酔いっていうのがあるって聞いたけど、これなら納得だ)

「よし、そろそろ助走は終わっただろう。飛ばしていいぞ、ラクゥダ」

「へ? 助走?」


 アラジンの背筋に悪寒が走る。

 ヨルガオがラクゥダのコブの1つを叩くと、ラクゥダの目の色が変わった。


「うおっ!?」


 ラクゥダは奇声を上げ、砂漠の地を高速で走り出した――

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