第29話 水霊の儀 前日
――水霊の儀、前夜。
王宮にて。
スノーは自室でヨルガオと共に居た。
「アラジン様は、今日も顔を見せませんでしたね」
スノーは残念そうに呟く。
「申し訳ございません」
「いえ、ヨルガオ様が悪いわけではありません。ただ、最後に一度、顔を拝見したかった……」
スノーの手にはアラジンが描いた漫画がある。
「この続きは……もう読めないのですね」
泣きそうな顔でスノーは言う。
「申し訳ございません」
ヨルガオは心の底からその言葉を口にした。
「ヨルガオ様、これまでわたくしのために尽くしていただいて、心より感謝しております」
「五竜星として、当然のことです」
「最後に1つだけ、お願いをしてもいいですか?」
「なんでしょうか?」
「素顔を、見せていただけないでしょうか」
ヨルガオは数秒の間の後、兜を脱いだ。
ヨルガオの素顔を見て、スノーは目を見開いた。
「あなたは……まさか」
「これまで隠していて申し訳ございません」
「いえ……だとしても、あなたがわたくしのかけがえのない友人であることには変わりません」
「ありがたい、お言葉です」
ヨルガオは兜を被り直す。
コンコンコン、とノックの音が鳴る。スノーが「どうぞ」と言うと、アリババが「失礼します」と部屋に入ってきた。
「姫様。ご体調の方はいかがですか?」
「問題ございません」
「それはよかったです。姫様、明日は万全を期して水霊の儀に挑みたい。なので、今日はもうお眠りください」
「わかりました」
アリババはヨルガオを引き連れ部屋から出る。
「……無駄な情を抱くな」
アリババは冷たくそう言った。
「わかっております」
「お前がなにを思おうが、お前は俺の命令に従うしかないんだ」
ヨルガオは無言で頷いた。
「明日は俺の槍として、害獣の排除をしてもらうぞ」
「害獣……ですか」
「そうだ。明日の水霊の儀を止めるため、奴は必ず現れる」
「ヴィ―ド=カタストロフですか」
「ああ」
「アリババ様。お言葉ですが、警戒すべきはヴィードだけではありません」
「なんだと?」
「アラジンをお忘れですか」
苛立ちからアリババの表情が歪む。
「あんなザコ、脅威にはならねぇよ」
アリババは他の五竜星の居る部屋の扉を開ける。
◆
――水霊の儀、当日の朝。
〈ジャムラ〉より離れた砂漠のど真ん中にて、1つのバイクがエンジン音を奏でていた。
バイクに跨る男が2人。ハンドルを握るは銀髪の男ヴィ―ド、後ろにはアラジンが乗っている。
「準備はいいかアラジン!」
「ああ! 傷も治った! いつでも行ける!」
「OK、出発だ!」
決戦が始まる。
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