第30話 強肉弱食の扉

 〈ジャムラ〉の近くまで行ってバイクは消した。

 服の上から砂色の外套を被り、顔は布で隠して〈ジャムラ〉に入る。コソコソと街を走る。


「よくもまぁ、こんな道知ってるな」


 ヴィ―ドは周囲から見えにくい道を選んで進む。

 建物と建物の間の細い道だったり、使われていない建物の中だったり、地面の下の空洞だったり。


「何年も前からこの日のために備えてきたんだ。これぐらい当然さ」

「お前は、そんな前からアリババの計画を知っていたのか」

「まぁな、一応親友だったし。つっても、どれだけ備えていてもお前がいなかったらどうしようもなかった」

「祠の暗号が解けないからか」

「それだけじゃねぇ。お前が〈ジャムラ〉に来るまで俺への監視が厳しくてな、まともに動けなかったのさ。お前が王宮を訪れてからアリババの目は完全にお前に集中した。おかげで俺は自由に動けるようになった」

「どうしてアリババは俺をそこまで警戒する?」

「俺と一緒に居るからだろ」

「はぁ?」

「嫉妬さ、嫉妬」


 たしかに、アリババはヴィ―ドに対して執着を見せていた。嫉妬というのはあながち間違いではないのかもしれない。


「さて到着だ」


 王宮の前、木々に隠れる。


「アラジン、警備の配置の把握までにどれくらいかかる?」

「3分ってところかな」


 アラジンは声を小さくし、


「……ヤミヤミ。頼むぞ」

「りょーかいじゃ!」


 ヤミヤミはアラジンから離れ、警備の把握に動く。

 ヴィ―ドは腕時計を見て、時間を把握する。


「水霊の儀は12時ちょうどだ。今は11時15分、もう王女様たちは地下に入ってるだろうな」


「見てきたぞ」


 ヤミヤミが帰ってきた。

 ヤミヤミからアラジンへ、アラジンからヴィ―ドへ、警備の情報が伝えられる。


「……ガッツリ固めているな。だが穴がないわけじゃねぇ」

「本当か? 1階の警備に隙は無いだろ」

「1階はな」


 ヴィ―ドは赤龍と青龍を召喚する。

 青龍で二階の窓を3発撃つ。窓は弾丸を浴びる度、光を増していく。


「磁力を利用して飛ぶ気か? そこまでの力ないだろ」

「1発じゃな。赤龍と青龍は撃てば撃つほど磁力を蓄積させる。5発も撃てば……」


 さらに2発窓を撃った後、今度は赤龍をアラジンに向けた。


「ま、待て!」

「時間がねぇ。覚悟を決めな!」


 赤龍がアラジンを撃ち抜く。

 するとアラジンは赤い光を帯び、青の磁力を帯びた窓に引っ張られ――体が飛んだ。しかもかなりの力だ。時速70キロは出ている。


 アラジンに一瞬遅れてヴィ―ドも磁力の力で飛ぶ。2人は窓に吸い込まれていく。


(あの馬鹿! これじゃ勢いのまま窓にぶつかって窓が割れる!!)


 窓が割れれば音で気づかれる。しかしそんなことを想定できないヴィ―ドではない。

 窓にぶつかる直前、ヴィ―ドは赤龍で窓を撃った。赤の磁力を帯びた窓と、赤の磁力を帯びた2人は磁力の反発クッションに圧され、勢いを止める。勢いが止まったところで窓の磁力を解除。1発青龍を窓に撃ち、2人は窓に張りつく。


 ヴィ―ドは銃のグリップで音を立てないよう窓を割り、割れたところから手を突っ込んで鍵を開け、無人の部屋に入る。


「この部屋のすぐ下が便所だ。まず剣を突き刺してくれ。便所に誰かいないか確認する」

「この剣で、この石床を貫くのか……」

「霊器じゃないが上物の剣だ。岩石ですらスパスパ斬れるぜ」


 アラジンは背負った剣を鞘から抜き、床に思い切り突き刺した。剣で空けた穴からヴィ―ドが中の様子を伺う。


「大丈夫だ。誰もいない。穴を空けてくれ」

「くそ、スパスパとはいかないぞ……!」


 アラジンは力を振り絞り、円形の穴を空ける。床が抜け落ちる直前でヴィ―ドは床を赤龍で撃ち、自分の手を青龍で撃った。抜け落ちた床はヴィ―ドの手にくっつく。ヴィ―ドは床をそーっと置き、便所に飛び降りる。アラジンは磁力を活かしてゆっくりと降ろしてもらった。


 王宮の便所だけあって1つの石の便器に対し部屋は大きめだ。大人4人ぐらい寝そべることができるだろう。


「それで、地下に繋がる隠し通路はどこにある?」

「はっはっは! 見た目じゃまったくわからないだろう。隠し扉の大部分は金属で出来ていて、見える部分だけ他の床と同じ素材でできている」


 ヴィ―ドは壁に向かって赤龍の弾丸を5発撃ち込んだ。するとなんの変哲もなかった床の一部が浮いて行き、壁に引き寄せられた。人が通れるだけの穴が床にできた。


「お前の霊器がないとまず剥がれないわけか」

「そういうこと」


 一年間準備していただけあって手が込んでいる。

 アラジンとヴィ―ドは地下一階に降りる。地下一階は他の階と違い、周囲は全部岩石。洞窟のような空気だ。


 降りて、すぐ目の前に扉があった。

 扉の横にプレートが貼ってあるのを見つけた。プレートには古代文字が書かれている。


「今回は日本語じゃなくて普通の古代文字のようじゃのう」

(さてと、読めるかな……)


 アラジンが目を凝らすと、プレートに書かれた古代文字の翻訳が頭に浮かんだ。

 プレートにはこう書いてある。


「『われは 弱きを通し 強きを挫く 強肉弱食の扉なり』」

「どういう意味かねアラジン君」

「知らん」

「とりあえず、一回思い切り押してみるか。もしも鍵がかかってないなら通れるだろうしな」


 ヴィードは強い力で扉を押す。すると――


「のわっ!?」


 逆にヴィードが横綱に張り手をくらったかのように後ろへ吹っ飛んだ。


「あいたた……なんだこれ」

「『強きを挫く』。強い力でくればやり返すってことか。だとすれば弱い力で押せば……」


 アラジンはそーっと手のひらを扉に当てた。でも、右手は扉に当たった瞬間に弾かれた。


「これでも強すぎるって言うのか? なら」


 アラジンは小指で扉に触れる。しかし、


「つっ!?」


 小指も思い切りバウンドした。

 アラジンとヴィ―ドは焦りを覚える。


「おいおい冗談じゃねぇぞ……! ここまできて作戦失敗か?」

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