第31話 覚悟の時

「小指でも弾かれるなら、これならどうだ」


 アラジンはイフリートの鍵筆であるGペンを出した。

 Gペンのペン先で扉を押すと、Gペンは弾かれアラジンの手元から離れた。


「これでも、か」


 ヴィ―ドは「待てよ」と地面の土埃を見た。


「どうしたヴィ―ド?」

「さっきここに降りた時に舞った土埃が、扉を透けていってないか?」


 アラジンは扉を見る。


「本当だ」


 ヴィ―ドは髪の毛を一本抜き、扉に向かって投げた。

 銀色の頭髪は壁をすり抜けた。


「このレベルの弱さじゃないと中に入れないってことだな」


――無理じゃね?


 アラジンとヴィ―ドは同時に思った。


「やべぇぞ! もう11時半だ!」


 焦れば焦るほど思考は麻痺していく。


「くそ、こんな扉に……!!」


 ヴィ―ドは思い切り扉を蹴った。


「うがっ!?」


 そしてぶっ飛んだ。


「学習しろアホ。――ん?」


 アラジンは扉の異変を見た。

 扉が、ほんの数ミリ開いて、そして閉じた。


「『強肉弱食の扉なり』……そういうことなのか?」

「いてて……」

「ヴィ―ド! この扉に赤龍の弾丸をできるだけ撃ち込め!」

「赤龍を?」


 ヴィ―ドはアラジンの確信した目を見て、なにも問わずに赤龍を召喚し、赤の弾丸を10発撃ち込んだ。


「ひとつの箇所に最大10発。これが限度だ」

「よし。そうしたら次は扉の反対側の壁に赤龍の弾丸を撃ち込んでくれ」

「はいよ」


 ヴィ―ドは壁に弾丸を撃つ。+の磁力を帯びた壁と扉は反発しあう。


「こいつは……!?」


 反発の力を連続で浴び、扉は徐々に開いていく。


「どういうことだ? 強い力は弾かれるんじゃ?」

「弾いてたんじゃない。食って吐いてたんだ」

「なに?」

「こいつをただの無生物の扉として見るのが間違いだった。なにかを食らう時点で、こいつは生き物として見るべきなんだ。食えば当然腹は膨れる、息継ぎさせずにモノを食わせ続ければいずれ腹を壊す」


 扉は徐々に開いていき、そして最後は弾けるように開いた。

 ヴィードは磁力を解除する。


「さすがだぜアラジン」

「偶然だ。お前が扉を蹴った時に扉が少しだけ開いたのが見えた。そんでお前に衝撃が返ると同時に扉がしまった。なら衝撃が返る前に衝撃を浴びせ続ければ開くと考えたのさ」

「なるほどねぇ、そういや王様は風の精霊を持ってたな。風の力で扉に攻撃を浴びせ続けてここを突破したのか……」

「行くぞヴィ―ド、あと30分も猶予はない」

「わかってるさ」


 祠に入る。

 まずあったのは大きな広場。左右に巨大な銅像が並んでいる。銅像が身に着けている物がマントだったり王冠だったりするので歴代の王の銅像かもしれない。広場の先には細い通路が続いている。


 一定間隔で設置されたロウソクのおかげで中は明るい。恐らく、先行した王の一行がつけたのだろう。


「ここまでくりゃ後は楽だ。行くぞアラジン!」

「おう!」


 アラジンとヴィ―ドが通路の前まで進むと、突然、『強肉弱食の扉』が閉じた。

 言い換えるならば、退路が断たれた。

 扉が閉じると同時に、背後に気配を感じた。


「おめでとう! よく『強肉弱食の扉』を突破しましたね」


 銅像の影から人影が3つ現れる。


「やーれやれ、俺達は火に飛び込んぢまったらしいな」


 現れたのは五竜星の内の3人。

 岩を素手で砕く剛力のバルゴ。

 この国の策謀を担う聡明のキツツキ。

 その美しい踊りで老若男女を篭絡する美貌のフーラン。


「五竜星の3人!? ふざけんな……話が違うじゃねぇか!!」

「王の命令で五竜星はアリババ以外祠には入ってはいけないはずだが?」


 ヴィ―ドの質問にバルゴが答える。


「今日死ぬ王の命令を、守る必要はねぇ!」


 バルゴの威圧がアラジンとヴィ―ドを包み込む。


「……アラジン、先へ行け」


 ヴィ―ドは囁く。


「俺がこいつらをなんとか抑える。お前はアリババを追うんだ」

「無駄なことは考えないことね」


 フーランが余裕の笑みで警告する。


「気づいているでしょ? ヨルガオがここにいないことに。あの子はこの先で待ち構えている。たとえその子だけ先に行かせても、ヨルガオに殺されるだけでありんす」


 フーランの言うとおりだとアラジンも思った。


「勝機は1つ、ヨルガオを味方につけることだ。アラジン、お前ならできると信じる!」

「ヴィ―ド、お前1人でコイツら相手に――」


 アラジンはヴィ―ドの笑った顔を見て、言葉を止めた。


「だいじょーぶだって!」


 なんの根拠もない言葉だった。それでも、たしかな覚悟を感じた。


「絶対、死ぬんじゃないぞ!」

「へいへい」


 アラジンはヴィ―ドの背中を瞳に焼き付け、通路を進んだ。



 ◆



「やれやれ、戦いは得意じゃねぇってのに」


 五竜星はアラジンを追う素振りを見せない。ヨルガオを信用しているのか、それとも――目の前の男を警戒しているのか。


「たかが商人が、俺達3人を相手に10秒でももつと思うのか?」

「油断は禁物ですよ。一応、彼は元五竜星ですから……」


 ヴィ―ドは余裕な態度を崩さない。


「五竜星かぁ。アリババ以外の五竜星と、1対1なら勝率は30%ってところかな。1対2なら1%、1対3なら0.01%ってところか。――さて問題です。今の俺の心情を答えなさい」


 バルゴはにんまりと笑い、


「絶望、だろう?」


 ヴィ―ドは負けじとにんまりと笑う。


「いいや、――

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