第32話 ヨルガオの真実
ヴィ―ドと別れたアラジンは通路を進む。
通路の先にはさらに地下に行くための階段があった。
「この祠、どれだけ長いんだ……? もう時間がないってのに!」
階段を下った先には広い空間があった。空間の中心に円形のステージ。ステージに繋がる細い道がアラジンが来た階段と繋がっている。反対側にもステージから道が伸びている。
「……」
だが、あの奥の道に行くのは容易ではない。
なぜなら奥の道へ繋がるステージには――骨鎧を着た女がいるからだ。
ヨルガオが、立っていた。
「来たか。アラジン」
歩いてステージへ向かう。
「ヨルガオ……!」
アラジンがステージへ上がると、ヨルガオは槍を構えた。
「……来ないでほしいと思っていた。だが同時に、お前は必ず来ると思っていた」
アラジンは背の剣を抜く。
「そんなおもちゃで、私と戦う気か?」
「俺は、お前と戦う気はない」
アラジンはステージに剣を突き刺した。
「ヨルガオ! 俺はお前がなにを考えているかがわからない! どうしてアリババに従う!? お前の、スノーを救いたいって気持ちは嘘だったのか!?」
「嘘じゃない」
「だったら!」
「……そういう問題じゃないんだ」
ヨルガオの殺気をアラジンは肌で感じた。
振るわれる槍。アラジンは剣を抜き、槍を受ける。
「くっ!」
アラジンとヨルガオの腕力の差は歴然。
ヨルガオは手首にしか力を入れていないのに、アラジンの全力と拮抗していた。
「弱いな、お前は」
ヨルガオは肩に力を入れ、槍を横に薙ぐと、剣は折れた。
ヨルガオは怯んだアラジンの腹に蹴りを入れる。
「がっ!?」
ミシミシと、骨が軋む音が響いた。
アラジンは蹴り飛ばされ、ステージの端まで転がった。
「アラジン!!」
ヤミヤミの叫びが響く。
アラジンの頭の中には違和感が巡っていた。
(どうしてだ! 俺の言葉がヨルガオに響いている感触はある。なのに、アイツを味方に引き込める気がしない!!)
アラジンはなんとか立ち上がり、奥へと繋がる通路へ走る。
「はぁ……はぁ……!」
だが、アラジンがヨルガオの速さに
肉を抉る音が聞こえた。そうしたら、両太ももに激痛が走った。
「なん、だ……?」
両脚から力が抜ける。走っていた勢いのまま地面に倒れこんだ。
顔を上げると、ヨルガオの槍先が血で濡れていた。アラジンは両太ももを骨の槍によって深く斬られたことに気づいた。
「ヨルガオ……まだ、遅くない」
「……」
「俺と一緒にアリババを止めてくれ! 殺されかけたことは、全部水に流す。だから!」
「……お前には明かすべきだろうな」
そう言ってヨルガオは兜を脱いだ。
綺麗な赤い髪が光沢を放ちながら現れる。
ヨルガオの素顔は綺麗で、綺麗すぎて、どこか人間離れしているように感じた。見た目からすると、アラジンとそう歳の差はないように見える。
口にはなぜかおしゃぶりが咥えられている。
「これではまだわからないか」
ヨルガオはおしゃぶりを外した。
「なんだと……!?」
おしゃぶりを外した時、人間にはない物が口に見えた。
――牙だ。
白く、尖った牙が、たしかにヨルガオの口に見えた。
「おい、お前、まさか……!」
ヨルガオがスノーを助けたいのは本心だ。
ヨルガオはアラジンの味方になりたいと願っている。
アリババが悪だと理解している。
だけど、彼女はアリババに逆らうことができない。なぜなら――
「私はアリババ様の手によって召喚された――吸血鬼だ」
ヨルガオはアリババが召喚した精霊だ。
だから、彼の命令には反抗できない。
「召喚された精霊は基本的に召喚主の命令には逆らえない。我々は道具だ。使い手の願いにそって動くのみ。精霊界にさえ帰れればまだやりようもあるが、アリババ様は私を一度だって精霊界へ帰さなかった」
ヨルガオは再びおしゃぶりを付ける。
「……私はお前の味方はできない。そう、主より命令されている」
おしゃぶりは牙を隠すために付けているのだろう。
「ちくしょう」
アラジンは絶望した。
ヨルガオがアリババの精霊ならば、どうしようもない。感情の問題では……ないのだ。
『ヨルガオの情に訴えて仲間に引き込む』という作戦が、根っこから破綻したのだ。
――血に濡れた槍が、迫ってくる。
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