第24話 イフリートの誓約碑

 アラジンとヨルガオは祠の中に入る。


「まさか本当に古代文字に精通しているとは思わなかったぞ」

「趣味で習ってるんだ」


 祠の中の道は整理されていた。

 アラジンの知る人間界のピラミッドと同じく、人の手が入っている感じだ。


(ピラミッドは人工物だ。自然にできるものじゃない。やっぱりこのピラミッドも誰かが作ったものだ)


 通路の先に階段を発見。

 階段を上がりながらアラジンはヨルガオに祠に眠る魔神について説明した。


「イフリートか……噂には聞いたことがある。噂通りの強さなら、ウンディーネも倒せるだろうな」

「問題は誰が召喚主マスターをやるかだ」

「それだけ強力な精霊だとウンディーネと同じで使い手を選ぶ。姫様か、もしくは五竜星のアリババ様かフーランに適応すればいいが……」

「バルゴとキツツキは霊器召喚士ウェポンサモナーだったな。それでアリババとフーランが精霊召喚士ビーストサモナーか。ヨルガオ、お前はどっちなんだ? 霊器召喚士ウェポンサモナー精霊召喚士ビーストサモナーか」

「私は霊器召喚士ウェポンサモナーだ」


 イフリートは精霊。この時点で霊器召喚士ウェポンサモナーであるバルゴ、キツツキ、ヨルガオは候補から外れる。


「前提として、五竜星はこの件に協力してくれるのか?」

「協力してくれる。昨夜、お前の作戦や祠のことをアリババ様に報告した。アリババ様は『協力が必要なら要請しろ』と言っていた」


 勝手に報告するな。と言いたいところだが、結果オーライなどで引っ込める。


「アラジン。一度下がれ」


 階段の先に、広場が見えた。

 ヨルガオはアラジンを背に隠し、先行する。

 広場に足を踏み入れる。広場の天井は太陽光を入れるための隙間があいていた。おかげで明るい。


 石で造られた広場。その広場の奥には黄金の台座があった。


「あれが……」


 アラジンはヨルガオの影から出る。

 台座の上、そこには長方形の蒼い石板が乗っていた。


「誓約碑だ」


 ヨルガオの言葉でそれが誓約碑だと知る。

 アラジンは一歩誓約碑に近づいた。その時だった。

 サイレンのような音が広場に響き渡った。


「なんだ!?」


 アラジンは耳を塞ぎながら後ずさる。


「ガァ! ガアアアアアアアアァァ!!!【侵入者! 侵入者! 資格なき者が祠に侵入! ただちに排除する!!】」


 唸り声と共に、それはアラジンの目の前に現れた。

 岩石で出来た体。電柱ほどの背の高さを誇るそれはゴーレムと呼ばれる存在だ。


「あ」


 アラジンは身動きが取れなかった。恐怖からではない、そのゴーレムが現れたことで起きた地震により足元がおぼつかなかったのだ。

 死んだ――と思ったのも束の間、ゴーレムはアラジンの背後から現れた流星によって胴体を撃ち抜かれた。


「見た目ほど堅くはないな。ランクはG5といったところだな」


 ゴーレムを撃ち抜いたのはヨルガオだ。

 ゴーレムは全身を瓦解させる。


「アイツ本当に人間かよ……」


 10メートル飛んでゴーレム岩石を槍で貫ける人間など見たことがない。

 もしかしたらあの鎧には身体能力を強化させる効果でもあるのだろうか。とアラジンは推測する。


「アラジン! まだ終わっておらんぞ!」


 ゴーレムの欠片がカタカタと動き出した。


「なんだと……!」


 ヨルガオは驚いた。


 ゴーレムの欠片たちはくっつき合う。そしてまた、元の形へと戻った。

 ゴーレムは正面のアラジンではなく、背後のヨルガオに拳を向けた。


「ぐっ!」


 ヨルガオは槍で拳を受けるも耐え切れず、壁に打ちつけられた。


「ヨルガオ!!」


 普通の人間なら全身の骨が砕けるほどの衝撃だろう。だがヨルガオはその鎧に一切の傷を付けず、平然と起き上がった。


「アラジン! 誓約碑を持って行け! 私が囮になる!」

「お、俺にあの大きさの石板を運べるだろうか!?」


 誓約碑の大きさは墓石ほどある。


「安心しろ! 誓約碑は見た目ほど重くない! 男なら簡単に持てる!」

「そうか! わかった!」


 ヨルガオとゴーレムが戦っている間に、アラジンは大きく迂回して台座に行く。

 そして誓約碑に手を掛け、力を込める。


「嘘つきぃいいいいいい!!!!」


 誓約碑はめちゃくちゃ重かった。


「重いじゃねぇかこの野郎!」

「非力じゃのう、おぬし」

「やかましい!」


 アラジンは全身の力を使って石板を持ち上げる。


「うおおおっ! 漫画家の体力舐めるなよ! 編集に言われて毎日筋トレしてたんだからな!!」


 高宮編集曰く、『漫画家は、体力づくりと睡眠は欠かせちゃいけないよ』。


「お! なんとか浮いたのう」


 アラジンは石板を引きずり、台座から下ろす。そのまま出口に向かって石板を引きずっていく。

 広場の出口までは50メートル。

 ヨルガオとゴーレムは20メートルほど離れた場所でバトルしている。この調子なら問題なく出れる。


(よし。うまくいきそうだ! 腕はきついけどな!!)


 あと少しで階段に辿り着く。そう油断した時だった。


「……よく、祠の入り口を開けてくれたな」


 階段から4つの人影が上がってきた。

 先頭の男は冷たい瞳でアラジンを睨む。


「アリババ……!?」


 アリババ。続いてバルゴ、キツツキ、フーラン。

 ヨルガオを抜いた五竜星の面々である。


「アリババ様!?」


 ゴーレムと戦っているヨルガオもアリババたちの存在に気づいた。


「よくやったヨルガオ。もう下がっていいぞ」


 救援に来たのか? と胸を撫でおろすアラジン。


「バルゴ、お前はアラジンをし、誓約碑を奪え。キツツキ、フーラン、お前らはヨルガオに代わって岩野郎を抑えろ」

「「「了解!」」」


 聞き間違いだろうか。

 いま、アリババはこう言っていたように聞こえた。『アラジンを排除し』……と。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る