第40話 アラジン
夜。
元気を取り戻したアラジンはある一枚の絵を完成させていた。
「よし、できた」
アラジンは絵をバッグにしまう。
「ん?」
アラジンはバッグの中に、金色のオカリナを見つける。
オカリナを手に取り、無駄だとはわかりつつ、オカリナを吹こうと口を付けた。
「鳴らない、か」
オカリナは音を出さない。
(このオカリナを壊せばこれまで叶えた願いはすべて消える)
そうするとどうなるか。
(俺が叶えた願いは『異世界転移』、『全翻訳』、『蘇生』。もしもオカリナを壊し、願いを消したらどうなるか――俺の予想通りなら、俺は元の世界へ戻り、翻訳能力を失った後で死ぬ)
つまり、オカリナを壊して元の世界へ戻るという手段をとれなくなったということだ。
「これからどうするか……」
ヨルガオと別れ部屋に戻った後、スノーとアラン王がアラジンの部屋を訪ねてきた。
スノーとアラン王はアラジンには〈ジャムラ〉に残ってほしいと頼んだ。
『アラジンよ。君の作品はこの国を豊かにするだろう。君が望むなら、最高の環境を用意しよう』
ありがたい言葉だ。
〈ジャムラ〉で漫画を描いていくという選択肢、それも悪くないのかもしれない。だが、
(俺は、俺に希望を与えてくれた俺の世界の漫画文化にお返しをしたい。スノー達には悪いが……俺は元の世界へ帰りたい。そのための方法を探しに旅に出よう)
アラジンは〈ジャムラ〉を出ることを決意した。
◆
2日後の朝。
アラジンはバッグを背負い、〈ジャムラ〉の門に向かって街道を歩く。
「そこのおにーさん。うちの商品見て行かないか?」
商人の1人がアラジンに話しかける。
アラジンは商人を見て笑う。
「どんな商品があるんだ?」
「口が達者で商売上手で男前! 今ならタダで売ってやるよ」
「商品名は?」
「ヴィ―ド=カタストロフ」
銀髪の商人ヴィードだ。
「なにをしてるんだお前は」
「今や一文無しになっちまったからな。店も売っちまったし、新しい商売でも始めようと思ってね」
「へぇ、どんな商売を始める気だ?」
「お前の描く漫画を売るんだ。儲かる事間違いなし!」
「他を当たってくれ」
「つれないこと言うなよアラジンちゃーん」
ヴィ―ドは馴れ馴れしく肩を組んでくる。
「わかったよ、その代わり売り上げは半々な?」
「ちっ、仕方ねぇな」
ヴィ―ドとアラジンは拳を合わせる。
「商談成立だ。そうだアラジン、早速お前の漫画を読みたがってるやつがいるぜ」
「ん?」
ヴィ―ドは門の側でたたずんでいる女の子を指さす。赤毛の女の子だ。
口におしゃぶりを咥えたあの姿は間違いなく、吸血鬼のヨルガオだ。
「よう。アラジン」
「ヨルガオ!? どうして……お前、もう消えてるはずじゃ?」
「お前の血のおかげだ」
「俺の血?」
「お前の血は味だけじゃなく、効能も特別だった。お前の血なら200ミリリットルで1日の活動魔力量を吸収できるようだ。――アラジン。旅に出るのなら、私も連れて行ってはくれないか? 私にはお前の血が必要だ」
ヴィ―ドは「俺は構わないぜ」と言う。
「お前と旅をしながら、精霊界へ帰る方法を探したい。その代わりに、私の力を預けよう。漫画の制作も手伝う」
「お前と俺の目的はほとんど一緒だな。俺も故郷へ帰る術を探している。いいぞ、ついて来い」
「感謝する」
「だが! 血は1日400ミリリットル、朝の7時に渡す。これは守れよ」
「……善処する」
アラジンの背後に2人分の足音が近づいてくる。
「アラジン様」
見送りに来たスノーとアラン王だ。
「お見送りに来ました。どうか、お元気で」
「君には世話になった。君は我が国の救世主だ」
「そんな大層なモンじゃない。俺はただの漫画家だ。スノー、お前に渡したい物がある」
「はい?」
アラジンはバッグから一枚の紙を出し、スノーに渡す。
「これは……」
スノーは紙に描かれた絵を見て、頬を赤く染めた。
「綺麗だろ? じゃあな」
アラジンはそう言って笑い、仲間と共に門の外へ歩いていった。
◆
アラジンの背中が見えなくなるまで手を振った後、スノーは手元の絵に視線を落とす。
「ふふっ」
スノーの笑い声を聞き、アラン王は尋ねる。
「一体どんな絵をもらったのだ?」
「見ますか?」
スノーはアラン王に絵を見せる。
「ほほう! これはたしかに綺麗な絵だな」
絵に描かれていたのは向日葵のように笑う、氷の王女の笑顔だった。
アラガミと魔法のオカリナ ~青い魔神(美少女)が願いを叶えてくれると言うので異世界に連れて行ってもらった~ 空松蓮司 @karakarakara
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