第4話

 時は少しさかのぼる。


「猫さんですわよ~」

 アルテ第一王女は自室で猫の刺繍をしている。

 可愛いぬいぐるみが沢山部屋にあった。

 彼女は可愛いものが好き。


 ここはアルンダール王国の王都、”パンデモ”。

 テラスから、城下町に露店や屋台が見える。

 ゴブリンやコボルト、オークやダークハーフエルフなどの魔族がたくさん歩いていた。


「今日も平和ですわね~」

 アルテは刺繍の手を止めた。

 切れ長のみどり色の瞳。

 腰までの長さの銀色の髪。

 白雪のような白い肌。

 スレンダーだがスタイルの良い体型。

 清楚な白いドレスが良く似合う。


「アルテ王女様、お話がございます」

 リリスが話しかけた。

 身長170センチくらい。

 眼鏡、紅い瞳。

 ゆって頭の周りにまとめた黒髪。

 少し耳が尖っている。

 背中が大きく開いたメイド服を着ていた。


「なあに、リリス」


「この前ひろって(捕まえて)きたペットが暴れております」


「まあっ、それは困ったわね~」

「すぐに行くわ~」

 アルテは刺繍を机に置いて立ち上がった。



 グルグウウウ

 ガタンガタン

 魔獣舎の奥には、トカゲに羽が生えた魔獣がいた。

 大きさは中型のトラックくらいか。

 バサアア

 羽をばたつかせる。


 ”グレーターワイバーン”だ。


 首には鎖がつけられ繋がれている。

「テイマー様、どうにかしてくださいっ」

 魔獣舎の世話係が悲鳴を上げた。

 先日、王女が拾ってきたのだ。

「どうにかって言われても」

 野生のワイバーンは人になつかない。

「しかも、グレーター種なんてどうすりゃいいんだよっ」

「僕よりグレーターワイバーンの方が格上だよっ」

「魅了(テイム)の魔法は効かないよっ」 


 じゃらんじゃらん


 グレーターワイバーンの首についた鎖が音を立てた。


 グルグオオオオオオオ


「うわああ」

「ひいいい」

 二人は腰を抜かして、その場にしゃがみこんだ。

 

「どうかしたのお~」

 その時、後ろからのんびりした声が聞こえた。

 後ろを振り向くと、180センチくらいの身長の女性が立っていた。


「「アルテ王女様っ」」


 ビクゥッ

 グ、グルウ

 グレーターワイバーンが王女を見て動きを止める。


「あら、あら、あら、 暴れちゃ駄目でしょう~」 

 ガシッ

 アルテが無造作にワイバーンに近づき、頭を両手ではさむ。


 ミシリッ

 グ、グルッ


 アルテがワイバーンの動きを止めた。

 心なしかワイバーンの目が涙目だ。


「お、王女様、王女様あ、ワイバーンの頭から変な音があ」


 それでも暴れようとするワイバーンの頭を、

「まあっ、悪い子ねえ」

 といいながらはさみ続ける。


 ミシミシ


「王女様っ、変な音があ」


 ついにワイバーンが尻尾を丸めガクブル状態になった。


「うふふ、もう悪い子はいないわよねえ」 

 アルテが両手を離しながらワイバーンの顔を覗(のぞ)き込んだ

 ガクガクとワイバーンが首を縦に振った。

 

「……姫様、”肉体言語”でワイバーンをテイム(屈服させる)するのはどうかと思うのですが……」

 リリスが呆れた声を出した。


「リリス、リリス、この子の名前はキャンディーヌちゃんがいい?」

「それとも、マカロンちゃん?」

 王女様は可愛いが好き。


「……姫様、その子は、”オス”ですが……」


「まあっ、残念ね~」


「ふんっ、ここにいたのか」

 後ろから不機嫌そうな男性の声がした。


「あっ、マジーン王弟殿下~」

 アルテがカーテシーをした。

「むっ」

 リリスが、表情を険しくしながら膝まづく。 

 彼は、“人魔至上主義者”だ。

 亜人であるアルテやリリスを憎らしげに見る。


「……このグレーターワイバーンは、ワイバーンの群れのリーダーだったらしいな」

 マジーンが言う。


「ん~、そうなんですか~」

 アルテが目を細めて笑う。


「ちっ、瘴気の森でワイバーンの群れが落ち着かないという報告が来た」

「このワイバーンを連れてきたからじゃないのか?」

 マジーンがアルテを睨みつけた。


「ん~」


「このワイバーンと一緒に、瘴気の森に行って群れを見てこい」

 マジーンが言い放つ。


「発言を」

 リリスだ。


「なんだ」

 マジーンが不愉快そうに言う。


「王陛下の命令でしょうか?」

 

「ああん⤴、王は今外交で留守中だ」

「代わりに、王命を出してやってるんだぞ」


「くっ」

 リリスの目が険しくなる。


「リリスッ」

 アルテの鋭い声。

「瘴気の森ですね~、行って見てきます~」


「ふんっ、最初からそう言えばいいんだ」

 にがにがしそうに二人を見ながら、マジーンが立ち去る。


「姫様っ、大丈夫ですか?」


「う~ん、大丈夫だと思うけど~」

 ――瘴気の森までこの子(グレーターワイバーン)なら、日帰りできるわ~


「……いえ、出過ぎた真似を……」

 リリスが頭を下げる。


 王陛下不在の中で、この二人が王都を離れた間、アルンダ―ル王国に大きな動乱が起きるのである。

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