第4話
時は少しさかのぼる。
「猫さんですわよ~」
アルテ第一王女は自室で猫の刺繍をしている。
可愛いぬいぐるみが沢山部屋にあった。
彼女は可愛いものが好き。
ここはアルンダール王国の王都、”パンデモ”。
テラスから、城下町に露店や屋台が見える。
ゴブリンやコボルト、オークやダークハーフエルフなどの魔族がたくさん歩いていた。
「今日も平和ですわね~」
アルテは刺繍の手を止めた。
切れ長の
腰までの長さの銀色の髪。
白雪のような白い肌。
スレンダーだがスタイルの良い体型。
清楚な白いドレスが良く似合う。
「アルテ王女様、お話がございます」
リリスが話しかけた。
身長170センチくらい。
眼鏡、紅い瞳。
ゆって頭の周りにまとめた黒髪。
少し耳が尖っている。
背中が大きく開いたメイド服を着ていた。
「なあに、リリス」
「この前ひろって(捕まえて)きたペットが暴れております」
「まあっ、それは困ったわね~」
「すぐに行くわ~」
アルテは刺繍を机に置いて立ち上がった。
◇
グルグウウウ
ガタンガタン
魔獣舎の奥には、トカゲに羽が生えた魔獣がいた。
大きさは中型のトラックくらいか。
バサアア
羽をばたつかせる。
”グレーターワイバーン”だ。
首には鎖がつけられ繋がれている。
「テイマー様、どうにかしてくださいっ」
魔獣舎の世話係が悲鳴を上げた。
先日、王女が拾ってきたのだ。
「どうにかって言われても」
野生のワイバーンは人になつかない。
「しかも、グレーター種なんてどうすりゃいいんだよっ」
「僕よりグレーターワイバーンの方が格上だよっ」
「魅了(テイム)の魔法は効かないよっ」
じゃらんじゃらん
グレーターワイバーンの首についた鎖が音を立てた。
グルグオオオオオオオ
「うわああ」
「ひいいい」
二人は腰を抜かして、その場にしゃがみこんだ。
「どうかしたのお~」
その時、後ろからのんびりした声が聞こえた。
後ろを振り向くと、180センチくらいの身長の女性が立っていた。
「「アルテ王女様っ」」
ビクゥッ
グ、グルウ
グレーターワイバーンが王女を見て動きを止める。
「あら、あら、あら、 暴れちゃ駄目でしょう~」
ガシッ
アルテが無造作にワイバーンに近づき、頭を両手ではさむ。
ミシリッ
グ、グルッ
アルテがワイバーンの動きを止めた。
心なしかワイバーンの目が涙目だ。
「お、王女様、王女様あ、ワイバーンの頭から変な音があ」
それでも暴れようとするワイバーンの頭を、
「まあっ、悪い子ねえ」
といいながらはさみ続ける。
ミシミシ
「王女様っ、変な音があ」
ついにワイバーンが尻尾を丸めガクブル状態になった。
「うふふ、もう悪い子はいないわよねえ」
アルテが両手を離しながらワイバーンの顔を覗(のぞ)き込んだ
ガクガクとワイバーンが首を縦に振った。
「……姫様、”肉体言語”でワイバーンをテイム(屈服させる)するのはどうかと思うのですが……」
リリスが呆れた声を出した。
「リリス、リリス、この子の名前はキャンディーヌちゃんがいい?」
「それとも、マカロンちゃん?」
王女様は可愛いが好き。
「……姫様、その子は、”オス”ですが……」
「まあっ、残念ね~」
「ふんっ、ここにいたのか」
後ろから不機嫌そうな男性の声がした。
「あっ、マジーン王弟殿下~」
アルテがカーテシーをした。
「むっ」
リリスが、表情を険しくしながら膝まづく。
彼は、“人魔至上主義者”だ。
亜人であるアルテやリリスを憎らしげに見る。
「……このグレーターワイバーンは、ワイバーンの群れのリーダーだったらしいな」
マジーンが言う。
「ん~、そうなんですか~」
アルテが目を細めて笑う。
「ちっ、瘴気の森でワイバーンの群れが落ち着かないという報告が来た」
「このワイバーンを連れてきたからじゃないのか?」
マジーンがアルテを睨みつけた。
「ん~」
「このワイバーンと一緒に、瘴気の森に行って群れを見てこい」
マジーンが言い放つ。
「発言を」
リリスだ。
「なんだ」
マジーンが不愉快そうに言う。
「王陛下の命令でしょうか?」
「ああん⤴、王は今外交で留守中だ」
「代わりに、王命を出してやってるんだぞ」
「くっ」
リリスの目が険しくなる。
「リリスッ」
アルテの鋭い声。
「瘴気の森ですね~、行って見てきます~」
「ふんっ、最初からそう言えばいいんだ」
にがにがしそうに二人を見ながら、マジーンが立ち去る。
「姫様っ、大丈夫ですか?」
「う~ん、大丈夫だと思うけど~」
――瘴気の森までこの子(グレーターワイバーン)なら、日帰りできるわ~
「……いえ、出過ぎた真似を……」
リリスが頭を下げる。
王陛下不在の中で、この二人が王都を離れた間、アルンダ―ル王国に大きな動乱が起きるのである。
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